第12話:覆水は盆に戻らない
20時に更新します。
「…まぁ、でも」
俺はフェンスへ寄りかかりながら、小さく息を吐いた。
「神代が元に戻ったなら、よかったわ」
「元に戻った?」
神代が不思議そうに首を傾げる。
「あー……いや、なんでもない」
危ない。
流石に“ゲームの時のキャラに戻った”とは言えない。
でも実際、今の神代はかなり自然だ。
最初の媚びまくっていた時に比べれば、雲泥の差である。
(……やっぱり、悩みを解決すればいいのか?)
ふと思う。
神代は、キャラ個別クエストである妹の病気の件で追い詰められていた。
それと、俺の試験時の模擬戦での強さを見てしまい、余計に追い詰められてしまっていた。
だからあんな風に壊れていた。
でも、そのストーリーの問題が解決した今は、ちゃんとゲームの“神代レイナ”に戻っている。
なら。
他のクラスメイトも同じなんじゃないだろうか?
今の状況はゲームと違って、みんな普通じゃない。
まぁ、多少重い設定持ちの奴もいた、はずだけども。
でも少なくとも、今みたいに来てない人がたくさんいたり、空気が死んだような教室にはならないはずだ。
悩み=個別クエスト、と考えればだ。
悩みを解決していけば、元のゲーム通りの教室に戻るのではないだろうか?
そして俺はそんな。
ゲーム通りな日常を眺めながらの、日常が過ごせるのではないだろうか。
今の状況もあって、それは感慨深いものがあるだろうな。
(でも、ストーリーは覚えてないんだよなぁ……)
そこが問題だ。
俺が覚えているのは基本、ダンジョン攻略関連の事だけだ。
ステータスは戦闘に関連してるから覚えてる。
性格とかも戦闘中に掛け声とか、戦闘後にある勝利コメントみたいなのもあって、なんとなくだが覚えている。
でも。
サブクエとかストーリーはほとんど忘れているのだ。
神代の件だって、“エリクサー”という単語を神代から言われることで、やっと思い出したくらいだ。
ストーリーを覚えてないのに、クラスメイトの悩みを解決していくのはかなり難しいだろう。
だが。
(まぁ、俺の今あるアイテムとか装備なら大体なんとかなるだろ)
正直。
今の俺の手持ちなら、大抵の問題は解決できるだろう。
病気。
借金。
呪い。
ダンジョンでの力不足。
俺が持ってる深層アイテム、この世界からしたらバランス崩壊レベルの性能をしている。
クラスメイトの悩みなんて、大体どうにかなるだろ。
「……よし」
俺は小さく頷いた。
「なんだい急に」
「いや、ちょっとクラスメイトのお悩みでも解決してみようかなって」
「……は?」
神代が変なものを見る顔になった。
失礼な。
今回の件で分かったのだ。
ストーリーの問題を解決すれば、ちゃんと元に戻るんだ、と。
「なんか、クラスのみんな、神代含めておかしいだろ? だから、悩みでもあるのかな? って」
「うーん、そりゃボクがおかしいって言われるのはしょうがないけども。突拍子もなさすぎるよ」
今の俺はちょっとだけ前向きだ。
神代の件は、かなり上手くいったと思う。
直接渡さず、ストーリーを解決した。
好感度も最小限に抑えられたと思う。
しかもキャラ崩壊も改善できた。
ほぼ完璧では?
(まぁ、悩みを解決したら多少は好感度上がるかもしれんけど)
そこは……まぁそのあと何もしなければ勝手に下がるだろう。
なんだかんだここは現実だ。
好感度が上がって、好意を抱いても俺自身を知れば勝手に離れていくだろう。
100年の恋も冷める、ってやつだ。
……悲しいけど、これは現実なのよねー。
力と金、あとは名誉も取ろうと思えば取れる。
これだけあれば、いつかはモテるだろうさ!
「……ユウマ」
「ん?」
「なんか、泣きそうな顔してるけども。今、かなり哀しいこと考えてるのかい?」
「顔に出てたかぁ。考えてるけど、受け入れているから問題ない!」
「いや、それは問題だと思うけど!……まぁ、本人が言うならいいけどね」
神代がジト目になる。
鋭い。
いや、そりゃ力と金と名誉でモテてやるってかなり悲しいけども。
だが、万人に好かれる人間ではないことは俺自身が一番知ってる!
……じゃあ、万人以外からは好かれるのか、って言われると疑問符が出るのだが……。
「まぁそこはいいだろ! それで、クラスメイトのことを聞きたいんだけども」
「クラスメイトの?」
「教室の雰囲気、かなり変だっただろ?
俺あんまり学校来てなかったから分からないんだけど、何かあったのか?」
その瞬間。
神代の表情が、強張った。
「………」
「神代?」
神代はすぐには答えなかった。
何かを言うべきか迷うように、視線を伏せる。
「……本当に、何も知らないんだね」
「? いや、まぁ、ほとんど学校来てなかったし」
「……そうだったね」
神代は小さく息を吐いた。
そして。
「……クラスメイトね、一人死んでるんだよ」
「―――は?」
思考が止まる。
「男子、なんだけど。去年、ダンジョンでね」
「し、死んだ……?」
「……うん」
神代は重い口調で言った。
「それもあってね。ダンジョンが怖くなったりして、学園に来なくなった子も多いんだ」
「……」
「そのまま引きこもりになった子もいるし、犯罪集団と関わってると噂の男子もいる。……逆に、狂った様にダンジョンへ潜り続けてるパーティーも、あるんだ」
「そんな、の……」
知らなかった。
本当に。
何も。
ゲームでは。
クラスメイトは普通にいた。
みんなゲームの中で、笑っていた。
でも。
現実では。
もう取り返しがつかないところまで、壊れている、のか。
「……もう、戻せない、のか」
ぽつりと呟く。
死んだら終わり。
キャラロストしたら終わり。
ゲームみたいに、データをロードしたら復活。
なんてできない。
神代は何も言わなかった。
ただ。
冷たい風だけが、静かに吹いていた。
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