第11話:俺にそれは効く
20時に更新します。
――悲報、女子が自分の席に座っている。
朝から最悪の状況だったので、前世でのマニュアルに則り、ホームルームの時間までトイレにこもろうと思う。
ゆっくりとバレずにUターンして、トイレに向かおうとする。
だが。
逃げられない。
神代がちょうどこちらを見たことで、目があってしまった。
神代は俺を見るなり、ゆっくり立ち上がる。
そして。
「……少し、話せるかい?」
静かな声でそう言ってきた。
……もう帰りたい。
◇
結局、逃げられなさそうなので神代と屋上へ来ていた。
屋上は微かに風が吹いていた。
フェンスが微かに鳴る音だけが聞こえている。
「「……」」
お互い沈黙。
気まずい。
いや、なんか言えよ。
何で俺を呼んだの?
もしかして、病院の件がバレた?
いやいや、高価なアイテムを使ったし、誰かにバレることはないだろう。
それとも。
考えたくないが、今回の件はゲームシステム的にエリクサーを神代に渡した判定、となってしまったのだろうか?
うーむ、そうなると今後の動きを色々と考えないとなぁ。
そんなことを考えていると。
「ありがとう、妹を救ってくれて」
神代が、小さくそう言った。
「っ……!」
思わず肩が跳ねてしまう。
え、マジで!?
いやいやいや、まだ見られたはずはないし、システムだとしても認めなければいい。
「…えーと、何の話、ですか?」
それとも、カマをかけてるのか?
――ここでボロを出すほど、俺もバカじゃないぜ。
「――エリクサーの話をした直後に、病院中の患者が全快だよ? そんなことが起きたら、君が関係してることくらい分かるよ」
……うーん、これは論破されとるのか?
なんか無理そうだけど、あがけるだけあがいてみよう。
「あ、あー! なんかニュースでやってたなぁ。いやでも、あれって天使とか出たらしいじゃん? 天からの奇跡ってやつなんじゃないの?」
「いや、無理があるって。むしろあんな意味不明なことをしそうなのが、ボクには黒峰くらいしか思いつかなかったよ。………黒峰、君なんだろう?」
え、俺そんな評価なの!?
神秘的な雰囲気を演出したのに意味不明って………。
そんな話したことないだろ。
てか、喋り方変わったなぁ。
こっちの方がゲームの時と同じでいい感じだけど―――
「でも、違うけどね! 俺にはそんなことをする理由がない!」
俺は絶対に折れない。
認めたら、そこで試合終了だよ。
もしバレていたとしても、俺が認めなければそれは俺じゃないのだ。
「だから、別に奇跡でいいだろ。犯人捜しなんて、無駄な時間使うなよ」
俺が突き放すように言うと―――
神代がくすりと笑った。
「ふふっ」
「…………」
その笑顔を見た瞬間。
俺は、言いようのない達成感に包まれた。
あぁ、これが見たかったんだ、と。
前に見た、無理に媚びた笑顔じゃない。
自然体の笑い方。
ゲームの中で見ていた――神代レイナそのもの、だったと思う。
(……ゲーム通りに戻った、のかな?)
その考えが頭をよぎる。
なら。
もう、大丈夫なのかもしれない。
好感度は今は置いておくとしても。
この姿を俺は見たかったのだから。
「しかし、ホントに捻くれているね、君は」
「ふっ、それが俺だからな」
「いや、否定はしないのかい?」
なにを言っている。
この卑屈さこそ俺のアイデンティティだぞ!
誇りすら感じている。
「誰にも好かれないなら、自分くらいは肯定してやらないとな!」
開き直ってるともいえるが。
「そんなの胸張って言うことでもないだろうに」
「うるさい」
「……普通、エリクサーを持ってるならそのまま渡すだろうに」
「そんなの知らんな」
「……その結果、病院巻き込んで奇跡を起こすのは、ちょっとスケールがおかしいと思うんだけどなぁ」
「…まぁ、どうせやるなら、多少は派手な方がいい。……ってことを奇跡を起こした人は思うだろうよ、多分」
アブねっ! 誘導尋問かよ。
でも、どうせやるなら派手に、ってのは本当に思っていた。
バカみたいに派手な方が、誰も人間がやったとは思わないだろ、と。
俺がギリギリ誘導尋問に耐えると、神代は頭に手をのせながらヤレヤレとキザなポーズを取った。
「ふぅ~、ここまでやっても認めないとはね、まったく」
そりゃな。
そんな簡単に、何故バレた!?なんて言うほど俺は、軽い男ではないのだ。
「さっきも言ったが、奇跡ってことになってるんだろ? 誰も名乗ってないなら、それでいいじゃないか。やってたとしても、感謝なんかいらないんだろ、きっと。――自己満足でやったんだろうよ」
そう。
これは俺の自己満足なのだ。
別に誰かを助けたいとか、褒められたくてやったわけでもない。
神代を見て、ゲームと違うは嫌だなぁ、というどこまでも自分勝手な想いでやったことだ。
……まぁ、少しは褒められたいんだけどね!
俺がそんなことをそっぽ向きながら、答えると。
神代は目を丸くしたあと、堪えきれなくなったように笑い出した。
「ふっ、あはははは! ホントにめんどくさい人だね、君は!」
その笑顔は。
なんというか。
……思わずドキッとしてしまったじゃないか。
作った笑顔じゃない。
肩の力が抜けたような、裏表のない笑顔だ。
そんなの、やめてくれよ。
それは俺に効く。
「……ふ、ふん、悪口かよ」
「いや?」
神代が楽しそうに、こちらを覗き込む。
「やっぱり、君は面白い人だなぁって」
「やめろ」
「照れてるのかい?」
「照れてない!」
「ふふっ」
……駄目だ。
なんか調子狂う。
しかも。
その笑顔を見るたびに、少しだけ胸がざわついてしまう。
(いやいやいや、ないないない。てか、もしかしてこれって、神代もだけど、俺も《《アレ》》なのか?)
そうだ。
落ち着け。
これは。
好感度だ。
エリクサー関連のイベントのせいで、やっぱり上がってしまったのかもしれない。
結局、好感度が上がってしまったせいで、神代が俺へ好意的になっているだけだろう。
そして、俺もその好感度につられた感じ、なのだろうな!
これは納得だ。
そうだ。
きっとそうだ。
俺が一人で勝手に納得していると。
「?」
神代が不思議そうに首を傾げる。
「急に難しい顔をして、どうしたんだい?」
「……なんでもない」
危ない危ない。
また変なこと考えていた。
でも。
少なくとも神代は、あの壊れた感じではない。
今回はそれで良しとしよう。
今後は好感度を上げるような行動をしなければいいだけだ。
うん。
そうすればいい。
(どうせ、俺は卑屈な陰キャゲーマーなんだ。何もしなければ好感度なんて下がる一方だろうよ)
俺がそんな風に結論付けていると。
「そうだ、黒峰」
「ん?」
「そろそろ、レイナって呼んでくれないかい?」
「え、嫌だ」
「即答!?」
神代が本気でショックを受けた顔をした。
「いやだって、女子を名前呼びとかハードル高いし……」
あとなんか、陽キャみたいでオラついてる感じするだろ。
「いや、だからボクが許可するって!」
「苗字で十分!」
「じゃ、じゃあボクは”ユウマ”って呼ぶよ?」
「それは別にどうぞ、神代さん」
まだ黒峰ユウマって名前に馴染んでるわけでもないので、なんと呼ばれようとどうでもいい。
でも、俺は呼ばない。
名前で呼んで、って言われたら、すぐに名前で呼ぶような尻軽でもないのだ。
……自分でもこの考えはよくわかんないけども。
「むぅ……分かったよ。ただせめて、さん付けはやめてよね」
「へーい、善処する」
神代が不満そうに頬を膨らませた。
そんな風に言われると、ずっとさん付けしたくなるけどもな。
……しかし、思ったより感情表現豊かだな。
ゲームだと、もっと宝塚の男役みたいに余裕のある感じだった気がするんだけど。
「……まぁいいさ。今日はこの辺で見逃してあげよう」
「なんだその上から目線」
「ボクは心が広いからね」
「はいはい」
適当に返す。
すると。
神代が、少しだけ優しい目をした。
「……本当に、ありがとう」
「…………」
その声音は。
さっきみたいな軽口じゃなかった。
心の底から出てきたみたいな声だった。
だから。
俺は少しだけ視線を逸らす。
なぜかその言葉は。
“黒峰ユウマ”じゃなく、“俺”に向けて感謝されたように感じた。
……いや、気のせいだな。
なんだか、とってもむず痒かった。
◇
―――黒峰ユウマは、知らない。
神代レイナの行動の真意を。
―――黒峰ユウマは、向き合わない。
神代レイナの笑顔に、少しだけ胸が高鳴った理由を。
それを。
彼は“好感度システム”のせいだと思っている。
だが。
神代を介さずに妹を救う。
病院の患者全員を救う。
そんなイベントは、ゲームには存在しない。
だから。
ユウマの考えは、見当違い、だったのだ。
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