act.64 開かれた第六階層と、招かれざる予感
「少なくとも、人の記憶にも、エルフの記憶にもほとんど残っていないのはおかしい。じゃから、何者かが覆い隠している、ということじゃな?」
静かに聞いていたヴィクトリアが、エルフリーデの説明を簡単にまとめる。
「はい。ですから私は人魔大戦時にあったであろう遺跡を調査し、過去の解明を試みているところなのです。そして今日、マキナさんの存在を知り、遺跡内には必ずその秘密があると確信しました。同じように、イグナールさんが求める属性の知識についても、人魔大戦と大きな関わりがあったために、故意に隠されたのではないかと考えます」
思っていた以上に話が壮大になってきた。イグナールは単純に、自分が手に入れた力について知るきっかけがあればと考え、今まで行動してきたのだ。それが、大昔に起こった戦争に関係している、あまつさえその事実を隠蔽しているのだと。
だが、エルフリーデが言う突拍子もないように聞こえる話を否定することは、イグナールにはできない。なぜなら、マキナという存在、そしてバージス近郊で発見した研究所をこの目で見ているからだ。
あれは確かに、魔法技術の粋を集めたような建造物であった。にもかかわらず、現代にその技術を継承したような代物が存在しない。せいぜいが、たまたま出土したアーティファクトがある程度だ。
「なので……これは提案なのですが……」
先程まで威風堂々と自分の考えを語っていたエルフリーデの口調が変わる。どうやら彼女は自分の考えや知識を語るときは雄弁だが、その他に関しては弱腰になってしまうらしい。
「い、今、異変の起きているルイーネ遺跡の調査のお手伝いを……皆さんに依頼してもよろしいでしょうか?」
それは是非もないことだ。すでに、ルイーネの遺跡がバージス近郊にあった研究所の類似施設であることは判明している。エルフリーデの話を聞く前から、調査すべきだとは考えていた。
しかし、彼女は今「異変」と言ったか? そう言えばエーミールも昨日、遺跡で新しい発見があったため忙しいと言っていた。
「エルフリーデさん、異変というのは? それに昨日、エーミールが遺跡で新しい発見があったって……」
どうやらモニカも同じことに思い至ったのか、二人に問いかける。
「はい、それは僕が説明します!」
手を上げて元気に返事をしたのはエーミール。見た目は子供のようであるが、彼も立派な研究者の一人なのだろう。エーミールはエルフリーデとは正反対に、元気よくハキハキと話し出した。
「まず、新しい発見なのですが……昨日、今まで固く閉ざされていたルイーネ遺跡、第六階層への扉が開きました」
ルイーネ遺跡は地上に見える部分を第一階層とし、下るにつれて第二階層、第三階層と定めている。長年調査されていたのは第五階層まで。それ以上の調査は、固く閉ざされた扉の前に断念せざるを得なかったのだ。しかし、その扉が急に昨日開かれたという。
「そして、異変についてですが……遺跡内の魔物が急増し、溢れ出し始めました。今は住まいを追われた低階層の魔物ばかりなので、討伐ギルドの皆さんが対処に当たっているところなのですが……」
「魔物の急増?」
「それは単純に、第六階層から魔物が雪崩れ込んできた結果じゃないのか?」
「はい、最終的にはイグナールさんの言う通り、僕たちも『第六階層からやってきた魔物たちに追われる形で溢れている』と結論付けました」
エーミールの言い方には、何か含みがあるように感じる。そして、自分自身で言った理由にも何かしらの違和感があるように思うイグナール。
「しかし、第六階層から魔物が溢れるのは、普通おかしいのです。今まで固く閉ざされていたのならば、その魔物たちはどこから侵入したのかがわかりません」
イグナールの感じていた違和感とは、このことだと納得した。
「これは、ルイーネ遺跡の魔物たちは後から住み着き、生態系を成したという今までの定説に亀裂が生じる事実です」
「以前にも今回のように、突然として扉が開いたことがあって、その時侵入した可能性はないのか?」
「彼ら魔物は、非常に好戦的な面と一部例外を除けば、その生態は動物たちとあまり変わりありません。つがいになれば子を産み、生きるためには食料が必要です」
「そうなると、閉じとる間に餓死でもしてそうじゃのう」
ヴィクトリアの言う通りだ。第六階層が長く閉ざされていたのならば、食料は徐々になくなり、最後には皆等しく餓死するだろう。
「マキナ、このルイーネの遺跡について何か知らないか?」
「申し訳ございません。私は何も存じ上げておりません」
いつも無表情で口をつぐんでいることが多いマキナだが、彼女自身に心当たりがあるのならば進んで発言するはずだ。ダメ元で聞いてはみたが、やはり情報はなかった。
納得できる考えはないが、異変については第六階層が開いたことが起因だろう。問題はどうして今になってその階層への扉が開いたかだ……それに関しては、イグナールに思い当たる節がある。
それは、イグナールという存在がルイーネにやって来たことだ。
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