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act.61 雷光の奪還、風使いの反撃

「すごいなリーダルト。どうしてわかるんだ?」

「え!? えっと……」


 どうやら彼女はまだイグナールには慣れていないらしい。先程まで森の中を進むリーダルトを頼もしく思っていたイグナールだが、少し心配になる。


「え、エルフは魔力の感知にす、優れています。なので……エーミールの、魔力の残滓ざんしを追いかけているのです。町中ではたくさんの魔力が混ざってわかりませんでしたが……」


 なるほど、彼女の自信がどこから湧いているのか、その謎が解けた。リーダルトは人間では知覚することができない微量の魔力を追っているのだ。それも、その魔力が誰のものなのか判別できるほど正確に。長く側にいたであろう弟だから、ということもあるのだろうか。


「それでよう。こいつどうする?」

「少し痛めつけたら闇市に売っちまおう。珍しいエルフのガキなら高く売れるだろうぜ」


 リーダルトに付いて森の中を進んでいると、男の声が聞こえてきた。彼らがエーミールを攫った連中であることは間違いないようだ。しかし、なんとも不穏なことを言っている。これはある種の討伐ギルドの闇である。


 日夜、人々のために魔物の討伐を生業としている討伐ギルド員であるが、実のところ、魔王討伐を目指して鍛錬に励んでいる者は少ない。世界のために命を賭して戦うなどという気概の人間は、そう多くないのである。力を持て余した荒くれ共が、己の力を誇示しつつ金銭を得る。ただそれだけのためにギルド員としてライセンスを取得している者が多いのが現状だ。だからこうして、人の道を外れるようなことを平気で犯す奴らも存在する。


 リーダルトの魔力感知で彼らを追えるといっても、逃げられれば厄介だ。少し様子を見ながら慎重に行動し――。


「わ、私の弟を、エーミールを返してください!」


 イグナールがこれからどうするかを思案している最中に、リーダルトが飛び出して行ってしまった。エーミールは彼女の肉親だ。感情的になるのは仕方ないことではあるが……。


「へへへ、まさか姉ちゃんがいるなんてな。どうやって辿り着いたかはわからねーが、こりゃあいい女だ」


 幸い、後ろに控えているイグナールたちのことには気が付いていないようだ。


「あんたがその体で俺たちを喜ばせてくれるんだったら、弟君を返してやってもいいぜ」


 先の会話も合わせて、彼らには良心というものが腐れ落ちているようだ。もはや人の皮を被った魔物。しかし、これは好都合でもある。エーミールを無事に奪還できるのであれば……。


(彼らの命が尽きようとも構わない……)


 悪人の命ならば。そんな風に割り切れたらどれだけいいだろうか。彼らを人を害する魔物だと断じて切り捨てられるならば、どれだけ楽だろうか。だが、今のイグナールには簡単に割り切ることなどできない。


 茂みに隠れながら、改めて男たちを観察する。奴らは皆、筋骨隆々で威圧的な背格好をしている。飛び出して行ったリーダルトを警戒し、前方で武器を構えているのが二人。そして後方には、おそらくエーミールが押し込められているであろう大袋を抱えている男が一人。


 前方にいる二人を突破し、エーミールだけでも奪還できれば、状況を一気に変えることができる。彼らも人質を奪われれば、無駄な戦闘は避けるだろう。


(ならば、リーダルトに危害が及ぶ前に決着をつけよう)


 イグナールは精神を集中し、紫電の属性を身体に纏わせ始める。心臓から血液と共に魔力を送り出すイメージ。全身の部位に魔力を行き渡らせる。男たちは今、完全に油断している。リーダルトの登場にはいささか驚いただろうが、今は新たな獲物が現れたことを喜んでいる。その隙を突き、雷速をもってエーミールの奪還を成してみせる。


 後ろにいるモニカとマキナに目配せをして待機させる。彼女らは正しく察したのか、軽く頷いて答えた。念には念を……イグナールは地面に転がっている小石を拾い上げ、明後日の方向へと投げた。小石は大きな放物線を描き、木にぶつかって乾いた音を出した。


 それに反応し、男たちはイグナールたちが隠れている茂みとは反対の方向を見やる。


「今だ!」


 心の中でスタートの合図を出し、紫電の力で強化された身体をもっていかずちの如く駆ける。武器を構えた二人の間をすり抜け、後方にいる男目がけて一直線。まるで時間を引き延ばしたかのような感覚の中、袋持ちの男はまだイグナールの存在にすら気が付いていない。


 そして、抱えていた袋を奪取。地面を蹴って勢いを殺し、無事に止まることもできた。上出来である。イグナールが励んできた、度重なる想像上での鍛錬が実戦で生かされた瞬間であった。


「な、なんだ!?」


 呆然とする後方の男に、前方で武器を構えていた二人が振り向く。今の状況に頭が追いついていない。この状況下で、真っ先に動いたのは――。


「『我に眠りし力よ、我が意思に従え。吹き荒れる風よ、形を成し顕現せよ』」


 リーダルトだった。


「『エアーボール』!」


 魔力で制御された空気が三つの高密度な塊となり、射出される。十分な密度と速度を得た空気が、人間一人を吹き飛ばすには十分な質量で三人組を捉えた。

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