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act.60 紫電の追走、エルフの導き

「それで、聞きたいことがあるんですが……」

「ああ、いいぜ! パイを買ってくれたしな! ただ、このパイの作り方に関しては秘密だ」


 女性陣は後ろでパイに夢中なので、イグナールが代表して話を進める。モニカとヴィクトリアは恍惚の表情を浮かべて美味しそうに食べているが、リーダルトは少し浮かない顔をしている。


 弟のエーミールが心配なのだろう。無理もないが、彼の性格から考えると、困った人を見つけたので人助けの真っ最中という可能性は十分に考えられる。


「それで、この店の準備中にエルフの……子供を見なかったですか?」


 おそらくそこらの大人よりも年を重ねているのだろうが、見た目は子供なので、こう言った方が分かりやすいだろう。


「いんや、見なかったな」

「そうですか、ありがとうございます」


 残念ながら情報は得られなかった。つまり先程の考え通り、ここへの道すがら人助――。


「エルフの少年は見なかったが、いかつい男たちは見たな……なんか揉め事か何かで騒いでたみたいだったが、最後は仲良く大きな袋を担いで立ち去って行ったよ」


 いかつい男たち? 騒ぎ? 大きな袋? そう言えば、イメージトレーニングの最中に外が騒がしくなっていたな。店主が言っているのはそのことなのだろうか。


「その男たちの人数と、向かった先は?」

「ああ、三人組であっちの方へ走っていったぞ」

「ありがとうございます!」


 いかつい容貌の三人組。イグナールは昨日宿屋の前で出会ったあの三人組を思い出した。正直たいして印象には残っていないので特徴までは思い出せない。しかし、もしかすれば――。


「どうじゃイグナール、何か目ぼしい情報は手に入ったかのう?」

「もしかすると、あまりのんびり構えている場合じゃないかもしれない」


 昨日彼らに絡まれたときは、エーミールの機転によって事なきを得た。もしそのことがあの三人組にバレたというのならば……。


「こっちだ! 急ごう!」


 後ろの女性陣に聞こえるように叫びつつ、店主の示した方向へ駆け出すイグナール。マキナはすぐさまそれに追従するが、事情の分からない彼女らは少し困惑している。


「もしかすると、エーミールはさらわれたのかもしれない!」


 唐突な情報を無理やり飲み込み、一番初めにリーダルトが走りだす。続いてモニカ。しかし、ヴィクトリアはヒールを履いているので、そう簡単に走れるものではない。


「きっとこの先の町の出口だ!」


 大まかに向かう先を言い残し、イグナールは意識を集中させる。先程のトレーニングの復習だ。

 そして、紫電の力を体に纏わせたイグナールは、いかずちとなって町の中を駆けた。



 少しずつマキナとの差をつけながら、町の出入り口まで辿り着いた。人気のある大通りほどではないにしろ、行き交う人々を避けながら進むのは少し苦労した。残念ながら道中でそれらしい三人組を見つけることはできなかった。


 正面にはバージスに行く道、左右には森。イグナールたちがルイーネに辿り着いたときに利用した西口だ。彼らがエーミールの行動を把握していたとは思えない。ゆえに、今回の事件は計画的なものではなく、突発的なものだろう。


 ならば、このままルイーネを離れるとは思えない。こちらに向かったということは、単純に人目のつかない森があるからだ。イグナールは左右の森をよく観察しながら進む。そうしているうちに、後ろからマキナが追いついてくる。


 リーダルトとモニカはまだ時間がかかりそうだが、視認できる所まではやって来ている。単身突っ走ってきたが、奴らが森に入ったのならば皆を待ってから捜索を再開したほうがいいかもしれない。


「マキナ、森に奴らが入った形跡がないか探してくれるか?」

「畏まりました、マスター」


 到着したマキナに指示を出し、後に続くリーダルトとモニカを待つ。しばらくして辿り着いた彼女たちにイグナールの考えを伝えて捜索を再開する。本職の狩人並みに森の知識や勘の鋭いヴィクトリアが不在なのは痛いが、さすがに彼女の到着は待っていられない。


「こ、こちらです!」


 声を上げたのはリーダルトだった。彼女の周りに皆が集まる。そしてリーダルトが指さす場所を調べると、茂みがかき分けられた跡や背の低い野草が何者かに踏み荒らされた痕跡を発見することができた。


「どうやらここで間違いないようだが……」


 木々に阻まれて奥を見通すことができない。それに太陽を拒むかのように森の奥は薄暗くなっている。入り口は発見することができたが、この天然の迷路を攻略するのには骨が折れそうだ。


「私に付いて来てください」


 そう言ってリーダルトが森の中に踏み込んでいく。イグナールたちはそれに追従して森へと入った。リーダルトの歩みは確かで、まるで確信を得ているように自信に満ちた様子だ。


 さすがはエルフということだろうか。彼らは南の大森林の中で暮らし、その広大な森を管理している。

 つまり、人の常識を超える熟練の狩人というわけだ。


 だが、ヴィクトリアのように小さな痕跡を確認しながら進んでいるようには見えない。リーダルトの自信は何を根拠にしているのだろうかと、イグナールは気になった。


読んで頂きありがとうございます!

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