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act.39 閑話お悩みモニカちゃん①

 ヴィクトリアの作ってくれた土塊小屋の内装は、二人分のベッド――もちろん土製――が設置してあり、意外としっかりとしていた。出入り口に扉も、壁面にぽっかり空いた穴に窓もない。


 しかし、屋根と外を隔てる壁があるだけで、人間はこんなにも安らぎを覚えるものなのかと感心する。いつもの四方八方どこからも見られるような野営と比べると、天と地の差である。


 それに今日はヴィクトリアのおかげで、久々に新鮮な魚と肉にありつけることができた。なんとも贅沢な野営だろうか。これで広く、きれいな湖なんかで水浴びができれば言うことはないのだが、それはさすがに我儘というものだろう。


 せめて、何か大きな囲いでもあれば、自らの水魔法で生み出した水で水浴びができるのだが――さすがに四方を木々に囲まれ、どこから何に覗かれるやもしれない空間で、ゆっくり身体を洗うのには抵抗がある。危険度的にも乙女心的にもだ。


 うん? 囲い?


「ねぇねぇヴィクトリア!」


 彼女は青いドレスを脱ぎ、すでに下着姿になっていた。窓から入る月明かりが妖艶にヴィクトリアを照らし出す。細身ではあるが、見ているだけで伝わってくる柔らかさがあり、最大限の魅力を残し、無駄を省いたような……もちろん、出るところは出ているのだが。


 以前の仲間、デボラも魅力あふれる体つきではあったが、ヴィクトリアはまた方向性が違うように思える。


 その柔らかそうな肉からは、野性的な動物のたくましさを感じる。森や山を駆ける鹿や、野を駆ける馬のようである。過剰に鍛えられているわけではなく、あくまで自然。彼女という人間を表す結晶体。ヴィクトリアという肉体美に目を奪われるモニカ。


「なんじゃモーニカ、ぼうっとして。わらわに何か用があったのではないのか?」


 彼女の声にビクッと体を震わせるモニカ。純粋に美しいものに目を奪われただけなのだが、さすがのヴィクトリアも同性にジロジロと見られるのは恥ずかしいのかもしれない。訝しげな表情でモニカを覗いてくる。


「え、いや……なんか逞しくてかっこいいなって……」


 最低だ。いくらそんな言葉が連想されたとはいえ、馬鹿正直に言ってしまうとは……体をジロジロと見られた挙句、逞しいだの、かっこいいだの。私が彼女の側なら怒りを露わに叫ぶことだろう。しかし彼女は――


「はははは!」


 それを笑い飛ばした。


「ご、ごめんなさい」

「別に構わんよ。素直な感想なんじゃろう?」

「う、うん。かっこよくて、逞しくて、すごくきれいだと思う……私もそうなりたい」


 ヴィクトリアはベッドの上で胡坐をかき、目を輝かせてモニカを見つめる。


「それは嬉しいのう。昼に話した通り、妾と近い年頃の子はおらんかったからのう。こんな話をするのも新鮮で楽しいもんじゃ」


 明るく笑うヴィクトリアの表情を見つめるモニカ。正直、モニカ自身も同年代の子供と会話をする経験は乏しい。イグナール、勇者ディルク、モニカの出身であるケーニヒ王国、王都カインでは魔法学が盛んであり、平民、貴族分け隔てなく魔法を学べる学校が存在する。


 これは平等を目指すケーニヒ王国の意向である。魔法とは便利で人々の暮らしに欠かせないものであると同時に、危険な代物だ。それが悪事に利用されれば、大きな被害となるのは明白だ。そんな魔法の危険性や正しい使い方を学ぶ場が必要となってくる。


 素晴らしい考えのもと作り出された機関だと称賛され、周辺各国もケーニヒ王国の真似をして導入している。しかし、その実この学校は別の教育を推進する機関でもある。


 それは優れた血統の魔法使い、貴族たちの力を平民たちに見せびらかすためのものだ。国をより盤石にするために、平民の反逆心を子供の頃から摘み取る狙いがある。そして、平民の中でも秀でた魔法使いには積極的に貴族の称号を与え、国に仕えるように仕立て上げる。


 表向きは平等を謳う学びの場であるが、真の狙いは国にとってのあらゆる反逆の芽を摘み取る機関なのだ。


 そんな教育機関で学べることなど本当に基礎的なものしかなく、モニカの両親は彼女を学校に行かせることは無駄だと考えていた。位の低い貴族にとってはそのコネクションを広める社交場の意味も兼ねるが、名門であるハイデンライヒ家にそんなものは必要ない。


 ゆえにモーニカ・フォン・ハイデンライヒは学校ではなく、家の中で両親から英才教育を受けることとなる。


「名門であるハイデンライヒ家に泥を塗ることは許さん」


 モニカが何か失敗したり、飲み込みが遅いときに必ず出る両親の口癖である。一人娘であるモニカは、彼女の意思とは関係なく、将来の名門ハイデンライヒ家の当主として育てられた。


 勉強、訓練。その目標のために費やされる毎日。両親という名の濁流に無理矢理動かされる水車のごとく、モニカは考えることをやめて回り続けた。


 そんな彼女を変えたのは、イグナール・フォン・バッハシュタインの存在だった。


 バッハシュタイン家は元々平民であったが、現当主であるアルフレートが魔法学校で目覚ましい才能を発揮したため、貴族の称号を与えられた。彼は後の伴侶となるツェツィーリアと魔界へと出向くことになる。魔王討伐とまではいかなかったが、そこで大きな戦果を挙げ、無事に帰還した英雄となった。


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