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97話 ACT19-27

 ガインがまたもや参戦しない行動を取る。シキは違和感を覚えるがその問いかけにはマリアが口を挟む。


「どうもこうもないですよシキさん、むしろ私をないがしろにしてガインさんと一戦交えるつもりなのですか?失礼にもほどがありますね」


 そう言うマリアは鉤爪を出現させ構えるが、表情は変わらず辛そうだ。


「マリア、お前わかってるだろ?パッシブスキルを発動しすぎだ。身体や精神に異常をきたし始めている」


 シキ自身もパッシブスキルの重ね合わせ、その状態で最大攻撃スキルを組み合わせた最大出力を何度も何度もやってきた経験がある。だから体調パラメーターを悪化させた時の辛さは理解している。マリアに起きている異変はシキが起こしていた最大出力の副作用をさらに越えたような辛さに見えた。


「シキさん、余計なお世話です。帰化プレイヤーはプレイヤーに比べてパッシブスキルのブーストに体が耐えれるようになっているんです。これくらいのことでは、私は倒れません」


 言葉と状態が一致しない。しかもどんどん悪化しているように見える。息が荒く、表情は体調不良を感じさせるような雲行きを示し、左肩はやや右肩に比べるとやや下に落ちている。体のバランスも取れていない。


「あくまで認めないか・・・。俺をキルするか、俺にキルされるかしかお前は自分の先に進む道がないんだな?」


 シキの問いにしばしの沈黙が訪れる。


「・・・、それ以外に何かあるのですか?」


 それ以外の答えを出す事が自分の力ではどうしょうもできなくて、できれば助けて欲しいと願いがこもった、少し気を抜けば泣いてしまいそうな声色で聞いてくるマリア。


「あるさ」


 その言葉と共に、シキはマリアの背後に立ち、背中に向けて渾身の中段前蹴りを仕掛ける。吹き飛ばされるマリア。吹き飛ばされた先にすでに待ち構えているシキ。さらにアッパーでマリアの腹部を殴りあげ、宙に飛んだ先でも待ち構え、大きく振り上げて組んだ両手を叩きつけてマリアは地面に落とされる。


 そして


 少しの隙も許さないようにシキは、そのままマリアが落ちた地面へ突き出した蹴りでマリアの腹部に追撃をする。


「ぐ!!」


 VBC(バーチャル・ブレイン・クラウド)で生み出されたアバターに痛みを感じる仕様は存在しない。だが、AH(アストラルホライズン)でHPをいう概念を保有し、これほどまでに拳や蹴りで叩きのめされるとイメージが先行するようにマリアは痛みを感じた。


 蹴りで腹部を追撃した後、その反動で倒れているマリアの近くに立つシキ。


「このまま、スキルも一切使わずに俺はお前をキル寸前まで持っていてやる。お前は先ほどまでだったら防げたり交わせれた俺の攻撃が、今ではもう対応できなくなっている事に気付いてるか?」


 すばやく起き上がるマリア。だがシキはマリアが起き上がった瞬間に右フックで殴りつけ、そのまま左足を軸に回転し右足を大きく振り上げた右踵落としでマリアを地面に多々起き落とす。うつ伏せになる。


「ぐ・・・、う、うるさいです」


 度重なるシキの連撃に気持ちで負けまいと、うつ伏せで倒れたマリアは起き上がろうとするが、そんな気持ちも含めて背中に手を当てて抑え込むシキ。


「は!!」


 シキが手に掛けた気合だけで起き上がる事すら許されずまたもは地面にへばりつくマリア。


「・・・っはぁ、はぁ、はぁ」


 さきほどのガインの助けもあり完全回復していたマリアのHPは、シキの連続攻撃ですでに2/3も消耗している。さらに背中をシキの右手で押さえつけられている為に起き上がる事すらできない。


「俺はお前をキルしない。そうなればキル寸前でガインは再びお前にHP回復薬を飲ますだろう。だけど体調パラメーターに異変を起こしているお前には、俺は通常攻撃だけで難なく勝てる状態になってしまっている。だがら俺はHPもMPも減らない。マリア、この戦いがこれ以上続いても、その先にはお前が苦しむ以外に何もないぞ」


 シキの攻撃と発言、抑え込まれていて動けない状況にマリアは解決できないループを想像する。見えない兆しと絶望の繰り返しが頭によぎったマリアは、これまで気持ちとブーストで、維持していた気概が崩れる。ぐすりと、堪えていた涙と共に涙声を発してしまう。


「・・・グスゥ、だったら・・・、私はどうしたらいいんですか?」


 マリア自身も気づいていた。強さをひたすら求め、求めた強さが自分の限界を超えた時、その手段すら問わなくなって、帰化プレイヤーになった。堕ちていく流れは止められなかった。だが、認めてしまうわけにはいかない。動き出した歯車を止める事は、流れに逆らう事より難しい。


 だから決めた道を信じて進み続けるしかなかった。だが、シキとの戦いでここまで圧倒された敗北を目の当たりし、想いと手段を失い道を断たれた。強い意志で保ち続けてきた気概が崩れた今、マリアは目の前に指針を示してくれるだろうシキに助けを求めた。


 シキはそんなマリアの心情を汲み取るように優しく応える。


「マリア、今はゆっくりしてろ。一呼吸して、止められなかった動きに一息にいれて、俺とガインの闘いの行く末を見届けるんだ。それだけでいい。常に自分が必ず何かをしなければいけないわけではない。全体を見通して、その中で自分が何をすべきなのか、何をすべきでないのかを見極める時も必要だ。今がその時なんだよ」


 シキの言葉にマリアは張り詰めていた緊張を解き始める。マリアの背中を押さえつけていたシキの手からは、その固く張り巡らされた背中が柔らかくなるのを感じた。


「・・・っす、・・・すいません、シキさん」


 マリアは胸につかえていたしがらみから解放される機会を得る。自分が今どうすべきなのか見えてきたマリアからは悲しみにくれる泣き声ではなく、止められなかったタガを外してもらえた安堵感に合わせて、押さえ込んでいた気持ちを吐き出し、色々なモノが入り混じった感情が溢れでたものだった。

次回も月曜の19時に投稿します。

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