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98話 ACT19-28

 シキは泣きじゃくれるマリアの背中を押さえ込んでいた手で優しくさすりそっと離す。立ち上がり、距離を空けてその戦いを見届けてたガインに眼光を向ける。マリアはシキの言葉をしっかり受け止めたのか、うつ伏せだった身体を仰向けに動かした後は、起き上がる事もせずにその荒い呼吸を少しづつ整えて、そのまま眠るように目を閉じた。


 マリアをここまでの流れに持ってくるのはいささか骨が折れたが、シキが描いたストーリーの流れには近い。


 悪くはない。セリカの時も一緒だった。AH(アストラルホライズン)で何かを仕掛けようしていた彼女達には”業”が存在する。その”業”を解決せずに戦いで勝利したところで、それはその場での勝利にしか過ぎず、万全な状態になれば再び戦いが起きてしまうのをシキは本能で分かっていた。


 だからドラスティックではあるが、根底にある強い意志の鎖を少しづつ一緒に取り除いていく為に、相手の描いた道を絶ち切る力技に合わせて対話をしなくてはいけない。それは途方にもくれる行為だが、戦闘中に苦戦を強いる中で問いかけ続ける事で、相手が素直に受け入れられる環境を作り出し、嘘偽りなく納得してもらう流れが必要だった。


 今までの戦いで築き上がられてきたシキの言動とガインの言動には、その言動に紐づく想いが正反対であるが、根底には似て非なるモノがある。


 世界の理に絶望し、絶望を解決する想いが世界の支配構造に向かったガイン。

 何にも期待しせず、情熱も注がず、世界や環境に無関心になったシキ。

 

 ガインのほうが些か極端であり、シキがやや曖昧ではあるものの、向かう想いや指針が同じ方向に向かう可能性はいくらでもあった。希望の反対は絶望だ。希望の意義を見出せなくなり、絶望しないのであれば無関心しか対応はない。もちろん無関心の先に絶望ももちろんある。


 だがガインは絶望まで行き、シキが無関心で留まりそして再び希望に向かって動き出せたのは、人とのつながりの違いだろう。シキにはサラから始まり、リンカ、マリアといった支えてくれる仲間達の存在が大きい。


 ガインには部下はいても仲間はいない。ガインに異を唱える人が存在しないのだ。闇に落ちそうな時、人は一直線に向かっていく事はない。寸前の寸前まで人には迷いがある。だからそうなる前にマイナスであれば留めてくれて、プラスであれば背中を押してくれる仲間がいるのといないのでは、大きく変わってくる。


 自分一人でいつ何たる時でも結論を出さなくてはいけなくなったガインだからこそ、是非は別として明確な指針がある。だからセリカのように依存性が高く物事を安易で感情的に捉えてしまうタイプには明確な否定をしてしまう。


 逆にシキのように優柔普段かもしれないが、大事なところで時にはレンガで頭をたたきつけられるような説教をしてくれる仲間が側にいると、総合的な判断の下、指針を決められる。


 だからこそ、シキはセリカやマリアの抱えている”業"を完全な否定から始めずに進めていけたのだろう。何かあれば助けてやる。だから自分の意思で物事を切り開いてみろ、と。つまづいた時、迷った時は、物事を冷静に見直す為に立ち止まってもいいんだ、と。


 ガインが明確な答えや指針を相手に圧倒的な力をもとに受け入れさせるやり方も、シキのように間違っているやり方を指摘しつつも甘える事も助ける事も全面的に受け入れて、自分一人で全てを解決しようとしない事を説くやり方も、手段は違えど、相手の為を思っている事には変わらない。相手を思わないのであればただ排除すればいいだけなのだから。


 ガインはもちろん分かっている。シキが自分と違う経緯を辿って今がある事を。セリカに続きマリアに対しても、同じようにガインが納めた臣下達を続々と説き伏せている事を。今、目の前にいるのはガインが築きあげようとしている帝国の根底を覆そうとしている存在だと。独裁的な革命に民主的な調和では立ち向かわれているような、そんな現実の世界でも歴史上起きてきた流れを、ガインはシキという存在の行動によって受けようとしているのを肌で感じた。


 そして、ガインが自身のやり方がシキのやり方で覆られそうとしていて警戒している事をもちろんシキは分かっている。シキはガインにも考えを改められないのかと期待しているのである。それもまたガインは分かっているからこそ腹ただしい。


 二人が一気に戦いの場に持っていかない理由をお互いがお互いに理解し始めてきた。二人は己のイデオロギーを他の戦いを通して計りあっていたのである。


「ぬははははは。面白い、面白すぎるぞ小童。貴様の考えと指針と言動とそれがもたらす結果もな」

 

 距離を空けていたガインは再びシキとマリアの下に歩いて近づいてきていた。


「そうか、俺はうまく言えないし整理できてないが、ガイン、お前の思惑に一矢むくいれられたのであれば言う事はないよ」


 二人の間に沈黙が訪れる。時間にすれば数十秒の話だろう。しかし、二人にはその時間が何分、何十分にも感じ取れた。


「さすがだよ、小童、貴様と俺様、どちらが神に求められた存在になるのか、もうしばしでその答えに結び付けられるだろう」


 構えるシキ。構えないガイン。発言からしてもここから先は二人の信念と信念の戦いになるはずだが、ガインからは未だにバトルモードを感じない。


「どういうつもりだ?」


 シキはバトルモードに入らないガインに問いかける。このまま攻撃を仕掛けても問題はないが、シキは戦う意思のないガインと戦うつもりはなかった。このスタンスはセリカやマリアでも徹底してきたやり方だ。ガインの本質も見いだし解決に持って行く為に追求は続けていくつもりだった。


「どうもこうもないわ。貴様、決定的に一つの事象を忘れていてるぞ」


 そう言い視線を斜め後ろとシキの後ろに視線を持って行くように顔を動かすガイン。その先にあるものをお前も見ろよと言わんばかりに。


 その先にあるものは、【ボディイン】に包まれたリンカと倒れていたサラだった。

次回も月曜日19時に投稿します。

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