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96話 ACT19-26

「ガイン様・・・、今、なんて?」


 パッシブスキルを重ね合わせた結果、体調パラメーターを悪化させ、立っているのすら覚束ない状態をひた隠ししているマリアは、ガインの発した言葉に絶望する。聞き間違えたのだと願うように、その表情は間違いであってほしいとすがるように問いかける。


 マリアの質問にガインが返す前に、ガインの質問に答えるシキ。


「そうか、俺が起こしたのは時間制御か」


 両拳をしっかり握りしめてやや持ち上げ、己の拳をしっかりと見つめるシキ。シキの発言からも答えあわせを求めていたのは明白だった。





 時間は少し遡る。


 マリアの【エクスプロージョンクロウ】によって触れれば大爆発を起こす両鉤爪に、はさみ打ちされたシキは、そのスピードをもってしても躱す事は不可避に思われた。だがシキはついにこの不可避な状況で魔法拳士のスキルを発動させる。


「【心操身隷(しんそうしんれい)】」


 時間操作スキル。


 わずか数秒の間だが、すべての時空の時を止め、時を刻まない僅かな時間での行動がシキのみに許された。


 今、まさに【エクスプロージョンクロウ】の両鉤爪がシキの両側に迫る瞬間、【心操身隷(しんそうしんれい)】の発動と共に時空が止まる。その全てが止まっているその僅かな時空でシキは次なる魔法拳士スキルを発動した。


「【虚影一閃(きょえいいっせん)】」


 相手の可視スキルを打ち消すスキル。左右の人差し指で拳一つ分が入る程度の術式を描き、描かれた術式の塊に両手を差し込み、術式に覆われた拳を相手のスキルに打つける。一見最強スキルのように見えるが、あくまでも相手の可視スキルを無効化させるスキルの為、相手の攻撃自体を無効化するわけではない。


 よって今回においては、【エクスプロージョンクロウ】の触れれば爆発を無効化し、シキはすかさず【マジックアロー】を発動し、【マジックアロー】を帯びた拳でマリアを地面に向けて叩きつけた。


 これがマリアやガインの視点から見た時に、突然マリアが【エクスプロージョンクロウ】で爆発が起こったと思った瞬間に地面に叩きつけられた真相である。





「なるほど、貴様、魔法拳士の力を使いこなせている訳ではないのだな」


 シキの返答にガインは少々の安堵を覚えた。いや、本来であれば、ガインは安堵を覚える事にも苛立ちが隠せない気持ちも強いが、今、ガインの把握を超えてしまった状況になっている以上、それどころではない。青天井に想定外の動きをしてくるシキの限界を見定めていかない事には、戦略の練りようもなくなってくる。


 無論、ガインがそのような心理状態にある事をシキは認識できていない。だが別の疑問がシキには過る。


「ガイン、お前はなぜ分かった?」


 シキの問いにガインは笑う。


「ぬははは、貴様、俺様を舐めているかのか?」


 そして、ガインは怒りを露わにする。


「貴様が先ほど使用した【ログスティール】。相手プレイヤーの行動や言動を映像と音声でイメージ共有できるログを相手の許可を得ずに盗みだすスキルだったかな。それを使わせてもらったわ。貴様だけの特殊能力だと思ったか?勘違いするなよ小童」


 シキは先ほどガインが発していた言葉を思い出す。


---

「いいや、なに、これだからAH(アストラルホライズン)は面白い。次から次へと我々の想像を超えた事象が起きるようだ。貴様にとっては自身にしか起きない事態だと想っているようだが、帰化プレイヤーたる存在が生まれた時もまさしく今のようの状況だった。常に進化しているのだよ。この世界は。今、この瞬間にしかない貴様だけの特権を味わっておくのもいいだろう。しかしな、それはわずかの間だけだ。その不明なジョブも不明なステータスもすぐに俺様が凌駕してやろう」

---


「ガイン、お前、まさか」

「そのまさかだよ。貴様、俺様が負け惜しみでも言っているのかと思ったのか?」


 ガインの指摘通りだった。シキは自惚れていたのかもしれない。シキにしか起きていない状況は今もこれからも他の誰が追随してくる事はないのだと。


 しかし冷静に考えれば、当たり前の事だ。思えばシキよりも先にガインはAH(アストラルホライズン)の世界で、ガインのみにしか得られないスキルを得てきたのだった。そんなガインだからこそ、今シキに起きている状況を問題なく再現できるようになっているのだろう。


「そうだな、完全に俺が見誤っていたよ、ガイン。それじゃ、俺も自分のジョブを理解して始めてきた頃合だし、そろそろウォーミングアップも終わりとするか」


 シキが素早く構える。空気が張り詰める。だが仕掛けない。もちろんガインの出方を伺っているからだ。


 ガインが順次シキの持っているスキルを今後も得ていく可能性があるのであれば、今シキに起きている特殊な状態が起こす優位性は無くなっていく。そうなればただでさえ勢力としては分が悪いシキの強みは失われる事になる。


 慣れない状態を試し試しで動かしながら進めていくやり方では、もう時間をかけていられないようだ。保有するアイテムが心もとない中で、シキはマリア、ガイン両方を相手にしながら戦う選択肢も視野に入れ始める。


 しかし


「その焦りよう、悪くないな」


 ガインはそう言うと、再びマリアとシキの元から離れる。


「ガイン、どういうつもりだ?」

次回も月曜日19時に投稿します。

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