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95話 ACT19-25

 そう、マリアはそんな場面になる時間軸が頭の中で結びつかない。


 混乱しているマリアの下へ降りてくるシキ。


「・・・、何が起きたの?シキさ・・・、あなたは【エクスプロージョンクロウ】を食らったはず、では・・・?」


 マリアは受けたダメージを体から吐き出すように深い息をして、上半身を両肘で支えて起き上がる。その隣にはシキが立っている。だが、攻撃してくる気配はない。


「あれは中々やばかったな、マリア。頭が混乱するのは分からなくない。俺も自分でビビっている。自分のスキルを完全に把握できてるわけじゃなかったからな」


 理解しがたい状況だが、理解をしなくてはいけなかった。マリアは自分が認識している記憶だけを整理しても整合性がつかない。だが認識している記憶ではなく、起きている”状況"から判断しなくてはならない。


 破壊された鉤爪、発動されなかった【エクスプロージョンクロウ】、地面に叩きつけられて戦闘不能状態の寸前にまで陥っているマリア。


「【スラッシュ】」


 シキやマリアがいる場所から少し離れた場所からスキル詠唱と共に、空気を切りつけた際に発動する斬撃の波動スキルがシキに向かって飛んでくる。不意打ちをつくほどのスピードだったが、シキはその斬撃の波動をものともせず右の籠手で弾き飛ばす。【スラッシュ】を発動した相手はガイン。距離を置いて一切戦闘に関わってこなかったガインがここで動き始める。


「やっと出番か、ガイン」


 だが【スラッシュ】の役目はダメージを与えることではなく、シキを次の行動に起こさせない為の役割を果たす為だったのか。そこからガインの連撃はなく、マリアの側に移動し別の行動をとり始める。


「ふん、戯言を」


 ガインはシキを尻目にマリアの元へしゃがみ込み、HP全回復薬、MP全回復薬を飲ませる。


「お前、まだ俺とマリアを戦わせるつもりなのか?」


 ガインはマリアにHP全回復薬、MP全回復薬を飲ませている最中、シキに背を向けていても、後ろから攻撃を仕掛けてくるとは微塵にも思っていないようだった。戦う気配すら感じない。


 シキがマリアを回復させているガインの動きを止められもしなければ、隙を狙った攻撃をしてくる事もできないのをガインは見透かしていた。


「当たり前だろう。何を今更言っておる。貴様の甘い考え等お見通しだ。キルまでいかないレベルに持っていき帰化プレイヤー解放条件を探しているのだろうが、そうはさせんぞ。貴様がどれだけ最強の力を手に入れようとも甘い考えを持っている限り、その結果には絶望しかないことを示してやろう。さあ、戦えマリア。お前の先には勝利か死しかない。敗北はない。生か死かだ。貴様が選んだ未来を掴み取れ。そして俺様と共にこの世界を掌握するのだ」


 立ち上がるマリア。マリアがパッシブスキルをかかっている状態での全回復はシキにとっては少し部が悪い。マリアと戦い前の状態に戻っているわけではない。先ほどのマリアとの戦いでシキも当然HP、MPを消費している。


 シキが今保有しているアイテムは


 HP全回復薬1個

 MP全回復薬2個

 状態異常回復薬2個

 HP回復薬7個

 MP回復薬9個

 毒消し12個


 である。この後の戦闘を考えれば無駄にはできないアイテム数だった。


 だが


 HP、MPが完全回復したはずのマリアの表情が芳しくない。やはり帰化プレイヤーであろうとも最大出力やパッシブスキルの過剰な掛け合わせは体調パラメーターに影響するのだろう。その点が見えてきただけでもシキにとっては大きな収穫だった。


 当初シキは、マリアがあまりにもパッシブスキルを乱発するので、思わしくない仮説を立てていた。


 シキ含む他プレイヤーがパッシブスキル組み合わせ後に特殊なスキル発動をかませた最大出力攻撃後、著しく体調パラメーターが低下する事象がある。


 それは帰化プレイヤーに於ては起こらない無双状態になるのでは?と思っていたが、杞憂に過ぎなかったと確信する。


 無論、現状においてはAH(アストラルホライズン)で存在しないはずの魔法拳士というジョブを得ているシキのほうが無双状態になっていると言われても否定はできないが。


「すいません、ガイン様。私はもちろん理解しています。この先にある未来は力で掴み取る以外にはありえないと。だからシキさんは刺し違えてでも倒します」


 マリアの言葉が胸に刺さる。揺れるシキ。マリアを完全にキルまで持っていかなくてはいけないのか?マリアの言う通り結局シキは大事な人を失っていくだけで救う事はできないのか?


 だが、マリアの言動によってよぎった悪い思考をかき消すようにシキの体の周りからは波動が放たれる。


 まるで体が悲観的な思考を打ち消すように。


 自分には今、この世界で存在しない最強のジョブがついている。常識にとらわれてはいけない。シキの周りに小さな竜巻のような突風が起きる。


 シキの威嚇に気を引き締めるマリア。だが万全なようには見えない。そこへ口を割るガイン。


「それはそうと小童よ、貴様、さきほど何をした?」


 このままマリアに戦闘を任せるつもりではないのか、はたまた、今回起きた事象がガインに取って悩みの種となりそうなのか、ガインはマリアとシキが再度戦いを始める前にこの件は解決しておきたかったように見えた。


「さきほどって?」


 もちろんシキは先ほどマリアから【エクスプロージョンクロウ】の挟み打ちを受けて大爆発を受ける瞬間、”何か"を起こした。


 【エクスプロージョンクロウ】がまるでなかったかような状況を作り出し、逆にマリアを地面に叩きつけた状況を指した問いをされているのは分かっているが、はぐらかす。


「とぼけるな。時間制御能力でも発動したか?」


 ガインの指摘に戦慄が走る。

次回も月曜日19時に投稿します。

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