93話 ACT19-23
「ビジョンだよ。プレイヤーとして、人として、お前自身のビジョンがそこにはないんだよ」
少しの沈黙を置き、笑い始めるマリア。
「あははは、ビジョンですって。ビジョンってなんですか?シキさん、兄を求める私には意義がないんですか?逆に言わせてください。シキさんこそ意義なんて言ってるから大事な人をどんどん失っていくのではないですか?今だってサラさん、リンカさんを失おうとしている。セリカさんに至ってはもう帰らない人になっています」
ここで挑発に乗ってしまっては意味がない。マリアに向けた指を下ろし、再びじっと目を見ながら話すシキ。バトルモードは少しづつあげていく。
「今だけを見ればそう思うかもな。だが俺は最強の力を手にいれた。だからサラやリンカを取り戻す。もちろんマリア、お前もな。セリカだって諦めてない」
シキの言葉に現実味を感じてしまったマリアは、これ以上の笑いを続けなかった。悔しいが今、シキは有言実行できそうな力を持っている。少し自身のとってきた選択肢に”誤り”という言葉がよぎるが、その感覚を振り払うようにシキへ睨みつけるマリア。
「言い切りますね、解決策だって見えていないのに」
現時点で起きている状況に対して的をつくマリアだが、言葉を慎重に選ぶシキ。
「マリア、どんな手段でもいいから手に入れたいと思ってお前が得た強さには、ビジョンが紐付いてない。ビジョンは生き方なんだよ。仮にお前が得た強さで兄貴を取り戻して、どう一緒に居続けるんだ?」
思考の深堀りをさせマリアに反論ではない形で追求するシキ。
「・・・私に力がなかったから離れ離れになったのです。強さがあれば、もう二度と離れずにいられます」
マリアはシキの質問の意図を理解し始めているはずだ。だがマリアは言葉の応酬でシキが求める方向に会話を持っていくわけにはいかない。少しでもその方向の道筋を認めてしまえば、今の自分を否定しなくてはいけなくなる。強さに答えを見出したマリアは、兄を取り戻す環境さえ作れればそれで万事問題がない前提だが、シキはもちろん追随を止めない。
「マリア。それはただのお前の願望であり、空想だ。兄貴とお前が一緒にい続ける為には、兄貴が求めている”何か”を覆すお前の”ビジョン”が必要なんだよ。兄貴がまたお前から離れようとしたら、力をねじ伏せるのか?強さや力は強大だからこそ使い方を誤ってはいけない。同じ強さを俺とお前で持っていたとしても、その力を得たプロセスにビジョンがある俺とないお前ではその先に見える景色と得られる結果が変わってくるんだよ」
マリアは、シキの言葉を受け入れそうになってしまう自分が嫌になり反論する。
「ビジョンなんて、結果論でしかないですよ。最後に残った者が誇りを口にするかしないか、ただそれだけです。今だけでいえば、そこいらの雑魚が言っているレベルにしか聞こえません。それくらいの気持ちにしかならないです」
シキはここまで振り切るマリアにこれ以上の詮索は不要だと判断した。
「そうか、ではその答えは戦闘で求めようか。行くぞ!!、マリア」
その言葉と共にシキは姿を消す。マリアは全神経を集中させる。現われたのは左斜め後ろ、マリア自身が気付くよりも先に言葉が来た。ガインの言葉だ。
「後ろだ、マリア」
ガインの言葉、マリア自身の気付き、その0コンマ何秒の誤差でシキの裏拳が飛んでくる。マリアに出来ることはその裏拳に鉤爪の反撃をする事でもなく、両腕に付けられた鉤爪をクロスして盾代わりにする事だった。
当然、シキの裏拳を受けたマリアはふき飛ばされ、鉤爪も破壊される。鉤爪は何度破壊されようとも復元にすぐに可能だ。そして復元の度に強度は増していく。すさまじく消費してくMPさえ気にしなければだが、今のマリアが悠長にHP、MP共に消費量を考えて戦っている余裕はない。だが、シキとのスピード勝負にさえ負けなければ次第に劣勢状況は覆せるはずだと信じている。
「【速度上昇】(スピードアップ)5th」
マリアはさらに【速度上昇】(スピードアップ)のパッシブをかけ続ける。強度と加速度の掛け合いが自身の気持ちにもブーストがかかっていきスピード勝負にも自信がついていく。だが急激なブーストに身体は対応しても目が追いついていかない。ふき飛ばされた自身のもとへすでにシキが向かっているのは気付いている。もうシキの攻撃からは遠慮を感じない。その為、次のシキの攻撃を読めなかったマリアは、不規則な動きをする事でシキの攻撃を免れようとした。
シキがどこにいるか分からないマリアはすばやく着地をし、着地に合わせて飛ばされた場所へとマリア自身を蹴りの反動で突き飛ばす。シキの姿は見えない。だが、強大な気配は感じる。タイミングが合うかどうかわからないがマリアは右腕でに付けられた鉤爪を大きく右斜め斬り落とす。
マリアの想定は当たっていた。大きく振り切った鉤爪はその刃が最後まで振り切れる事なく大きな障害物と衝突することになる。
ぶつかった衝突は、右斜めに振り切ったマリアの鉤爪と【マジックアロー】を覆った右斜め下から向かってくる鉤爪に左斜め上に振り上げたシキのアッパーだった。
「当たりですね、シキさん」
感にほぼ近いマリアに想定は読みどおりに二人の動きはこの二つの攻撃のぶつかり合いによって、一瞬で、動きを止めた。
次回も月曜日に投稿します。




