92話 ACT19-22
帰化プレイヤーは体調パラメーターに支障をきたすような問題は発生しないのだろうか?
吹き飛ばされたマリアは、宙から着地し、破壊された鉤爪を復元させる。
「マリア、お前は強さを求めた結果、本当に手に入れたいモノを手にする事はできるのか?」
マリアに問いかけ続けるシキ。こうして戦いが始まった今でも、どこかでマリアとの戦いを避けている。腹をくくっているはずなのに。強さに任せた戦いを繰り広げたところで、抜本的な解決策に向かうわけではないのは分かっている。だからこそもっと本質的なマリアが抱える闇と戦わなければならない。
「当たり前じゃないですか。それでなければここまで来た意味がないです」
声高に感情をむき出しにして答えるマリアを見ると、断定とまではできなかったマリアに対する疑念は確証まで持っていける。やはりマリアはガインとの戦闘で帰化プレイヤーとして臣下に降る決意を自らしている。プレイヤー前段階の記憶あまりにはっきりしているのがその答えだろう。
再び、向かいあうシキとマリア。
「EGを潰し、AHの構造を変えようとしたお前の意思は苟且だったんだな」
目的を完遂する為の”手段"として必要だった強さが、いつの間にか”目的”になってしまっている。焦りにより取った判断や行動が、本質を見失っている状態を作り出している。シキにはマリアがそこに陥っているように見えた。
改めて思う。マリアが結果EGを潰し、AHの構造を変えたいと思った経緯は何なのか?もちろんなんとなく、マリアの中で”覚悟”と”信念”に近い何かが存在しているのは分かっていたが、”それ”が一体何なのかまで、シキは特定できていなかった。
シキは言葉を選び、マリアの根の中ににある闇の根本を探ろうとしている。だがマリアは気づかずシキの煽りにすっかり乗ってしまい怒りを露わにした。
「失礼ですよ、シキさん。私には、当初立てた作戦が執行できなかったとしても、今こうして補正をかけられている自負がある。だからこの先にも私が描いた未来が待っていると信じています」
マリアの言葉からは、強さを軸として考えれば、確かに彼女の中ではブレていないように思える。どんな手段を使ってでも強くなり続ける事が目的となってしまった今では、最善の選択肢なのだろう。やはりマリアが強さに捉われる原因を見つけなければならない。感情的になっているマリアから直接聞き出すのは難しい。
ふと、シキは、自身がマリアと関わっていなかった場面でのやりとりを探ろうとする。フレンドチャットで送信者の意思を持って送る場面ログをシキは本人の意思確認をせずとも引き上げようとした。
【ログスティール】とも呼ぶべきだろうか。そんなスキルが存在しうる事をガイン、マリア、サラ、リンカはもちろん、シキ自身も気づいていなかった。
だが、現にシキは確かに【ログスティール】を発動しようとしている。
シキ自身も口元が緩む。
どこまで自分の想像を具現化したスキルが発動できるのか。自身の思い描く想像から具現に結びつく実現性に可能性しか感じなかった。【ログスティール】からシキは、共に行動していなかった時の言動ログからマリアが発していた兄への想いの場面を探り、汲み取る。
描いた未来を強さによって得られる想いにブレがないマリアだが、根底にある想いはそこではない。シキは強さの先にあるマリアの本質を見つけた。
「そうだな。こうしてお前が強さによって掴み取った先に兄貴がいたとしよう。だがその道筋には、兄貴にどんな考えがあって、その考えのもと、なぜその行動をしているのかを考えはしていない。お互いの言動に一切”共感"がなかったとしても、お前は”力”を持って兄貴を支配できるのであればそれでいいんだろうな?」
驚くマリア。
「なぜ、兄さんの事を?」
笑うシキ。もちろん可笑しくて笑っているわけではない。マリアを誑かす為だ。今は心を掌握する事が大事だ。一挙手一投足意識して対応しなくてはいけない。ガインは気づいているはずだが、ちゃちゃを入れてくる素振りはなかった。無論、ガインがどんな思惑でいようともシキにとっては対話の邪魔をしてくる以上のデメリットは考えられないので、シキからもその点は指摘しない。
「問題はその点をじゃない。マリア、お前、本当は気づいているだろ?お前が求めた強さの根幹は、兄貴に対する依存そのものだ。兄貴の側にいたい。自分のすべてをさらけ出せていた兄貴が側にいない自分の人生が見えていない。不安なんだ。だからお前は兄貴の側にいる事へ固執する。兄貴を手に入れる為にとった手段が強さだった。だけどなマリア、俺には兄貴の側にいられるなら私はどんな手段でも取ります、と言っているお前が求めている強さは、物質的な戦闘力であって、そこにはお前自身に足りてない徹底的なものがある」
指をさすシキ。再びバトルモードに入る。
「徹底的に足りていないもの?なんですか、それは?」
マリアの表情が、指摘に対する苛立ちと、自身もどこかで気づいていたかもしれない”違和感”に対する答えを求めているようにシキには見えた。
マリアが本能では理解しているのだと汲み取れるだけのやりとりにシキは思えた。
対話の先に未来があればそれに越した事はない。だが、対話だけで物事が望む方向に進むのであれば世界はもっと敬意に溢れた世界になっているはずだ。バトルモードはこのやりとりの後に二人が再び戦いに身を投じるのだと、そう示唆するような行動になる。ここまでやりとりしていてマリアが納得いく着地に持っていけるとは思っていない。対話の後に戦いがあり、力でねじ伏せた後、この対話に意味が生じてくると信じている。頭の中では受け入れても、心が受け入れない”何か”を戦いの後、冷静になり、納得感をどこまで本人が許容していくのか、今話している内容にはその道筋への想いしかない。
次回も月曜日19時に投稿します。




