表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

88/155

88話 ACT19-18

 シキは自身の変化を感じながら、走馬灯のように経緯を思い返していた。社会のコミュニティでそれとなくやっていく難しさを感じて、距離をとっていた自分に新しい世界を見せてくれたサラへ感謝の想い。


 ログイン方法またはスキルの使い方がトリガーとなったのか、本来プレイヤーでは得られなかった特殊なスキル発動を取得した経験もある。そして、リンカ、マリア、セリカへの思い、すべての思いを受け止めるだけの器をシキは持たなくてはならない。


 その進化した器を考えれば、AH(アストラルホライズン)の世界において用意されている基本職、上位職は、もちろん帰化プレイヤーの亜種系職種も含め、進化したシキを受け入れられるレベルのジョブではない。


 シキは、自分にしかできない使命を全うしなくてはいけない決意を今まで受け入れてこなかった浅はかさにも怒りを覚えた。その先にあるものは、きっとまた新たなる特殊なスキルを得る事ではない。スキルの根底となるジョブ職のさらなる進化だ。


 思えば、新たなスキル発動は願いがそうさせた。自身の武道経験が魔法職、ウィザード・ソーサラーのスキルとの組み合わせに新たな可能性を結びつけたのだろう。さらなる願いは、武術と魔法の本格的な融合にある。その力を得てシキは理想郷だったAH(アストラルホライズン)の思想をもう一度根底から覆さなくてはならない。


 そのシキの想いと共に、シキやサラを中心とした大きな唸りの突風が巻き起こる。


 シキにとっての最強のジョブはソーサラーではない。違和感を感じながらも続けていたジョブだった。発動した魔法を自身のプレイヤー武術スキルに合わせた亜流を作りだしたところで、それは本流ではない。本流としてシキの持つ潜在能力を最大化させる為に必要なのはジョブの転換である。もちろんAH(アストラルホライズン)に今存在するジョブではない。シキのシキによるシキの為のジョブ。


 シキやサラを包んだ大きな唸りの突風は金砂の竜巻となり、その幅や規模を大きくさせていき、ガイン及びガインの背後にいるマリア、【ボディイン】に包まれているリンカさえを中に巻き込むほどになっていく。


 その竜巻の中たるや四方八方の風圧でまともに立っているのすら大変なほどで、少し宙に浮かされ体が飛ばされてしまうのではないかと想像してしまうほどの暴風にさらされた。


「一体・・・、何が・・・、起きている・・・」


 マリアはおろかガインですら、今起きている状況の理解ができない。ただ分かっているのは、シキが何かしらの変化、いや、進化を遂げようとしている状況だ。


 AH(アストラルホライズン)の全てを把握し、支配構造を作りあげるための組織、EG(エンペラーゲート)を率いているガインにとって認識できていない想定外の事象が自身以外に起きているのは、精神衛生上、心が掻き毟られるような思いに駆られる。とても受け入れられるような状況ではなく、本心では受け入れ難い事実だが、避けては通れない。認識さぜるを得ない心境だ。


 そんなガインの心境をよそに、少しの時間を経て、金砂の竜巻は、上空を見上げるとその先が見えないほど小さく遠かった先だったものが、段々と上層の渦巻きを無くし、大きく近い空が近づくにあわせて竜巻としての形状を無くしていった。


 見れば、戦場として選ばれた《サウスイーストフォレスト》の草木が生い茂る公園の中央部のような作りだった地面と、四方すべてが森林の壁に覆われている草葉は、シキを中心として剥ぎ取られてしまったような格好になっている。


 いかにガインが黒紫のオーラを放とうとも、その場所の形状が変わるような変化はなかったのに、だ。それほどまでに今しがたシキが巻き起こした竜巻の力の凄さが物語る。


 そしてその竜巻が立ち去る。


 中心部にいた以前ブラックのレザ-ジャケットスーツとレザーアームだったシキの姿は、上半身は体の線に合わせた黒のレザーが覆い、その上にふわっと動きに余裕を持たせるような黒布の胴着に真紅の帯、下半身は同じ形状の黒布の胴着にグレーのブーツ、漆黒エメラルドのような輝きをもった籠手を両腕につけた姿に変わっていた。


 武道家として戦うには適した姿である。本来であれば、装備している姿とは違う見た目の姿を変える事ができるAH(アストラルホライズン)の世界のルールを逸脱したように、変身と呼ぶに相応しい格好の変化をシキは遂げた。


 帰化プレイヤーこそでAH(アストラルホライズン)の世界の最高峰プレイヤーであり、理想なのだ。帰化プレイヤープログラムでさえ、隠しプログラムとして扱われ、選ばれたプレイヤーにしか与えられないモノだったはずだ。


 しかしながらガインが目にするシキの姿は、帰化プレイヤーが放つ”それ”とは違う何かを持っている。


 何処まで言ってもプログラムで作られた世界。なぜ、帰化プレイヤー以上の隠し仕様がまぎれこんでいるのか?何の為に?開発者の思考は帰化プレイヤーに託されたのだと、EG(エンペラーゲート)の帰化プレイヤー達は想っていた。だから思想を追求できたのだ。


 しかし、今やその想いを踏みじられ、気持ちが追いつかない目の前の現実を目の当たりにしなくていけない。ガインは、進化したシキを受け入れなくてはいけないと悟った時、築き上げられた価値観が音を立てて崩れていくのを悟られないよう意識する。


「貴様、何をした?」


 ガインは圧をかけてシキに問いかける。目の前に立っている一見ただの拳闘士ともに思えるそれではない"何か"を追い詰めるように答えを求めた。

次回も月曜日19時に投稿します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ