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87話 ACT19-17

 確かに先の見えない世界や関係値に希望がないのであればと、そんな考えもあるかもしれない。


 瞬間、ガインの思考に同意してしまいそうになるシキだったが、思い留まる。もちろん、そういう考え方もある。大人になればなるほど、その考えが正しいと思う人は多いかもしれない。


 ただ、ガインの考え方が正しいと受け入れるかどうか、判断をしていいのはセリカ本人だけだとシキは信じたい。ガインが言うように彼女は示してほしかったかもしれないが、彼女だって潜在的には示してもらった道筋を最後は自分で判断したかったはずだ。短期的にそう彼女が判断できずに望まなくても、諦めずに未来を見せてやるべきだろう。


 だが、どんなに想いや考えを巡らせても、今現在においては、すべて後の祭りである。結果だけ見ればガインの言うとおり、シキはセリカをガインの下に行かせるべきではなかった。どんな行動選択であれ、判断が誤ってなかったとしても、すべては自分の力量不足が悪い。


 これでは鉄仮面と戦ってサラを救えなかった時の自分と一緒ではないか。シキは改めて無力な自分自身への怒りがこみ上げる。先ほど胃の中から全体へと嫌な怒りが沸々と湧きあがっていたのは、結局のところガインへ対する怒りではなく、この現状を作ってしまったシキ自身に対する怒りだ。


「・・・」


 言葉が出てこないシキ。


「ハァハァ、シーちゃん」


 自身への憤った怒りの矛先を何処に向けたらいいのか分からないシキに、一時は我に戻ったが、再びガインとマリアの出現により、帰化プレイヤーとしての自分と本当の自分との間で目に見えない何かを戦っているサラは、眩暈を通り越し貧血で倒れてしまうのを我慢しているような苦しい表情でシキの傍に寄り添う。


「サラ・・・」

 

 シキの肩に手を掛けるサラは、その手で身体を支えていないと立ちつづけるのが辛そうだった。セリカ対するガインの考えを聞いて困惑しているシキにそっと笑顔で声をかける。


「シーちゃんが何考えているかなんてお見通しだよ・・・。セリカさんが消滅させられたのは、また自分のせいだって思ってるんでしょ?」


 じっとシキの目を見てくるサラ。シキは不意に目をそらしてしまう。意識を保っているのも辛そうな顔をしながら出来る限りの笑顔で接してくるサラを見て、自分の考えがいかにお見通しなのかに気付かされる。


「そうだろ・・・」


 肩に掴まる手で立ち続けられなくなったサラをシキは抱きかかえる。呼吸が荒い・・・。毒や病気に侵されているとすれば、どんどん悪化している末期状態のようにさえ見えた。そしてサラは甘えるように抱きかかえられたシキの身体に両手を回し体を支える。


「そうじゃない!!そうじゃないんだよ。シーちゃんは相手の事を考えているようで考えてないんだよ。私はシーちゃんのせいでこうなったなんて思っていない。だからシーちゃんにそう思われたら辛いよ。きっとセリカさんもリンカさんも一緒だと思う。セリカさんと最後、話せたわけではないけれど、私はセリカさんの気持ちが分かる。彼女はシーちゃんの力になりたかっただけなんだよ。元気に戻ってこれたなら、そんなに幸せな事はないけれど、シーちゃんの糧になれたなら彼女は消滅したとしても幸せだと思う。リンカさんもそう」


 シキに抱きかかえられたサラは、ふとリンカのほうを見る。いまだに光に包まれて宙に浮かび上がり横になっているリンカもまた、震えながら意識が飛びそうな自分と抗い戦っている。


「俺がすべきことは・・・」


 自分の考えを探すように空を見上げるシキを見つめるサラ。


「うん、そう、私達に起こった状況を見て一喜一憂するんじゃなくて・・・、もっと大局をみて。シーちゃんはなんの為にこの世界に戻ってきたの?」


 シキとサラは再びじっと見つめあう。サラの瞳はシキの奥底に入りシキが見つけられていない指針を一緒に探してくれているようだった。


 サラの瞳をじっと見つめながら深く考えるシキ。


 なんの為に・・・、この世界をどうしたいんだ・・・。


「俺は、、、サラ、リンカ、セリカ、もちろんマリアの思いもすべて含めて引き受けてこの狂った野望を打ち砕く為に戻ってきた」


 シキの表情を見て、初心と本質の軸を確認できたのに安心したのか、サラは少し力が抜けたような表情を和らげた笑顔になった。まるで先ほどまでの笑顔は意識して作り上げていたような、姉が弟に、母が子に導きたいと思っている時にするような、安心を与えるために見せる笑顔から本当に安心しきって力が抜けたような笑顔に変わっていく。


 つくづくサラは、シキにとって掛け替えのない存在なんだと、そう心に深く染み入る。


「そう・・・、シーちゃんしかできないし、それがシーちゃんの為すべき事なの。私達はみんなそう信じていると思うよ。少なくとも私は絶対そう思っているから・・・」


 そう言いシキに抱きかかえられたまま気を失い崩れ落ちそうになるサラを見て、シキは自分自身の中にある糸が大胆に切れる。胃の底から湧きあがるような不快感が露になった。そしてその感情がトリガーとなりアバターに圧がかかる。この圧を受け入れた後、最高の進化が待ち受けているのをシキは肌で感じた。


次回も月曜日19時に投稿します。

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