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86話 ACT19-16

 今だに【ボディイン】は、リンカを包み込んでいる。ガインの言う事が正しいかどうかは疑わしいが、【マジックアロー】を纏ったシキの正拳を【ボディイン】に打ち当てても何の支障を来たさない。これ以上の攻撃もなくはないが、中にいるリンカへの影響や、その後のガイン、臨まないがマリアとのバトルを考えるとこれ以上のMP消費の過度な消費は割けたい。


 以前【ボディイン】から帰化プレイヤーに変化してしまうまでの流れと比べると、確かにリンカが【ボディイン】に掛かっている時間帯は長い。ガインの言うとおり、本来であれば意識を失いキルしているからこそ、帰化プレイヤーへの変化をさせられるのであれば、今、彼女は意識がある中で、すぐに帰化プレイヤーに持っていかれる事はないのだろう。だとすればなぜ意識を失いプレイヤーとしてキルする前のリンカに【ボディイン】を掛けたのかは、勿論言わずもがなで理由はそれなりに想像できる。


 ガインのシキの対する態度や言動を状況と照らし合わせを考えると、ガインの言葉を鵜呑みにしても問題ないだろう。片付けなければいけない問題は山積みであるが、確認しなくてはいけないもう一つ大事な点を今ここで片付けてしまいたい。


「改めて聞くぞガイン。セリカをなぜまた支配下に置かなかったんだ?」


 シキが執拗に問い詰めるセリカの処遇について、ガインは呆れて返答する。


「貴様も大概よなあ。セリカをまた俺様の支配下におけば、また俺様から奪えると思ったか?」


 ガインにとってセリカは、一人の存在の前に組織におけるコマでしかないのだろうか。シキが追求したいガインの本質にはそもそも論点が向かっていかない。


「そう言うことを言ってるんじゃない。自分の仲間、いや、忠実な部下だったとしてもだ、自分に反旗を翻す奴をもういらないって言うのか?その存在を消してでも」


 ガインはシキの真意が見えない。シキにとってセリカがそこまで大きな存在になっていたのも驚きがある。

 

「何がいいたい?」


「あいつは、あれだけ苦しんだ。お前はその姿を見てきて知ってんだろ?何かに寄りすがらないと生きていけない奴だが、自分の意思はある。EG(エンペラーゲート)にこのまま残っていても幸せな未来が見えなかったから俺に寄り添ったんだ。見てる景色が変わっただけで存在を消すまでしたお前の感覚が俺にはわからないんだよ。俺を評価する前に、ずっと一緒にいたセリカにもっと敬意を払えよ」


「ぬははは」


 ガインはシキの言葉が奇麗事過ぎたのか、腹の底から馬鹿にしたように笑う。シキは、セリカがガインの本質について否定していなかったのを見ていたからこそ、信念や大儀の違いこそあれど、人ととしてガインに対してセリカが一緒にやってきた中での想いがあるのではないかと思っていた。


 だからこそ、ガインの本質を見極められるなら見極めたい。誰もが彼と接して感じるような、どうしようもない暴君なのか、彼の中になる何かがもしかしたらシキ達が求めている何かと一緒で、それはただ手段が違っただけなのかもしれないと、そう信じたかった。だからセリカが消滅した事もどこかで信じられなかった。本当にガインがそんな事するのか、と。


 だが、シキの問いに対するガインの対応を見ている限り、セリカがガイン対して感じていた想いと、ガインがセリカに対して感じてる想いには、大きな乖離があるように見える。その乖離を知れば知るほど、シキの中で、胃がむかむかするような怒りと同時に想いの空振りに対する虚無感が同化する。


「何がおかしい?」


「いやあ、滑稽滑稽。貴様は何か、セリカに惚れているのか?」


 ガインは尚はぐらかしてくる。分かっていてあえて的を得ない返答をしているように見えるガインの対応に、シキは苛立ちの増幅はもちろん、セリカが一時とはいえ信じてついていった姿を考えるといたたまれない。


「ふざけんな、いつ俺がそんな事言った」


「まあ、そんなに本気になるな。このままセリカを生かしておいて本当にあいつは幸せになれるのか?」


「・・・、消滅するよりマシだろ?もう存在しないんだろ?」


 ガインは、シキが拘っているセリカの生存に対する考えをくみ取り始める。同時に彼の中で見えている価値観と違う価値観がシキに存在しているのも認識した。そんなシキに対してため息混じりにガインは語り始める。


「存在し、生きてさえいれば幸せなのか?小童。だったらなぜこの世界にやってきたんだ?あれだけ世界に裏切られてきて、最後の砦である世界と組織にも裏切れられたんだ。いや少し違うな、自分から離れていったのだ、あやつは。現実世界を見限り、理想世界を見限り、そして貴様と共に歩む世界が最高だと。貴様も心の底から思っているわけでもなかろう」


「その時その時で自分が正しいと思った道を選ぶ事がそんなにおかしいか?」


「ブレる事を良しとするか。ふん、まあいいか。また帰化プレイヤーに戻ろうが、貴様の下に降ろうが、幸せな未来などないだろう。なぜならあいつは常に自分の枠組みの中でしか世界や人を判断できない奴だからな。だったらここで葬ってやるのが、せめてもの情けではないか。貴様に謝ってくれといっていたぞ。何をどうセリカが貴様に誤りたいのか、俺様にはわからんが、依存する対象者の顔色を窺いながら、築き上げていてる関係値になっている時点で、あいつに幸せはない。だから消滅させてやったんだ。まさか俺様の所へ寄越した時点で消滅させられるケースを想定しなかったわけでもないだろう。貴様も同罪ではないのか?」


 シキはガインの考えを改めて、いやここまでしっかりと聞いたのは始めてだった。そういう思考を持つガインがセリカを消滅させた経緯と考えを聞くと完全否定できない。ガインなりのセリカへの幸せを考えたのだろうか。

次回も月曜日19時に投稿します。

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