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85話 ACT19-15

 シキは、セリカ、マリアの二人がガインの臣下に下り帰化プレイヤーとして再び現われ、敵対した形で戦いを強いられる可能性もある程度想定はしていた。だが、マリアだけが居て、セリカが存在しない状況においては想定外だった。この状況を理解するには、気持ちに圧し掛かる重荷は大きい。セリカはキルされそこで終わった、と告げられた事実の言葉を理解し吸収し認識する為には、状況整理の時間が必要だ。


 セリカの存在自体がAH(アストラルホライズン)から消滅している?

 なぜ?

 気化プレイヤーはキルされると消滅してしまうのか?

 消滅されたプレイヤーの本体であるリアル世界での意識はどうなるのだろうか?


 この世界に来ていて、ふと思い浮かんでは考えないようにしていた一つの疑念の答えが今、シキの中で出ようとしていた。


 だがその疑問の前にシキは、誰もが疑問に思う、ある答え合わせをしなくてはいけなかった。帰化プレイヤー、プリイヤー共にキルされその存在が消滅してしまう可能性の追求も大事だが、セリカというガインにとってぞんざいに扱うべきでない相手をガイン自身の手元においておかなかった真意の確認をせずに話を先に進められない。


「ガイン、なぜセリカをキルしてそのまま消滅させた?違えたとしてもお前にとっては長い時間共にした仲間だった奴だろう?またキルした後に、また自分の支配下に戻せばよかったんじゃないか?そんなに裏切りが癇に障ったか?」


 だが、シキに状況の整理する時間すら与える気がないガインは、シキが抱きかかえているリンカに対して、シキにとってはできれば聞きたくない一つのスキル発動を唱えてしまう。


「【ボディイン】」


 意識を失っているリンカは【ボディイン】と共にシキの手から離れ、光に包まれて宙に浮かび上がる。


「ガイン、お前何やってんだ!!」


 ガインに飛び掛ろうとするシキにマリアも臨戦態勢になる。シキの後ろにはサラもいる。今の時点でサラ自身は臨戦態勢には入っていない。先ほどまで分かり合えていたはずのサラは、この状況においてはどのような精神状態なのか把握はできなかった。シキはサラに何か声を掛けたいが、そもそもサラが正気を取り戻したのをガインやマリアは気付いていないはずだ。ここで余計な詮索をされるのはまずい。リンカ、サラ、マリア、そしてセリカ。シキの中ですべて何一つ解決しない事柄が増えていく。


 光に包まれて宙に浮いているリンカを見つめるシキ。光の中で横になっているリンカは目を開き、意識を保っているのすらやっとなのか、震えながらシキのほうへ顔を向ける。


「私は、大丈夫だから・・・」


 勿論、リンカの声が聞こえるわけではない。シキには目と目があったリンカの口元がそう動いたように見えた。


 大丈夫な訳がない。リンカはこのままだと帰化プレイヤーになってしまう。今ここで【ボディイン】から解放して救わなければならない。


 焦りを覚えたシキは即座に斜め上頭上の光に包まれているリンカに向かって飛び出し、光の壁に拳を繰り出す。


「【マジックアロー】」


 【マジックアロー】に覆われたシキの右拳はリンカを包む【ボディイン】の光の壁に叩き込む。だが、大きな衝突波でシキの右腕は弾き飛ばされるだけに終わってしまった。


「く!!」


 【ボディイン】の光の壁はあまり硬かった。あまりの硬さとはいえ、こちらも特殊なスキル発動の攻撃である。本当に何一つダメージを与えられていないのか気になり、【ボディイン】を見上げ、くまなく見るシキ。そんなシキにガインは追い討ちの言葉をかける。


「無駄だ小童!!、誰であろうとも【ボディイン】を破れはしまい。本来キルされプレイヤーたる存在を失おうとしているその時にこの【ボディイン】をかけられたら最後だ」


 ガインの言葉をそのまま鵜呑みにして素直に諦めるシキではない。再びの行動を起こそうとするシキに「だがな」とガインは続ける。


「一つの可能性を示唆してやろう。完全なるキル状態であればすんなりと帰化プレイヤーへの生まれ変わり進化を遂げるが、その小娘においてはまだ意思がある。それであれば乗り越えられぬかもしれぬぞ。可能性を模索するのであれば無駄な悪あがきをせずに、その小娘に残されたわずかな意思の強さに頼るんだな」


 シキは驚く。ガインがわざわざ【ボディイン】や帰化プレイヤーの性質まで語ろうとは思っていなかった。なぜガインがシキにその旨を伝えてきたのか。失言をするようなタイプには見えない。


 シキは【ボディイン】への再びの攻撃を止めて、ガインへと振り返る。


「そんな事を俺に教えてもいいのかよ?」


 シキの問いに不用意な発言をしてしまったと思わせるように肩を竦めて首をかしげるガイン。その素振りがもはや、わざとらしい。


「おっと失言だったな。だがな小童よ。俺様は貴様に対してそれなりの敬意は払っているんだ。ここまで俺様やEG(エンペラーゲート)を梃子摺らせた相手はお前以外に居はしまい。そしてここまで来たら貴様には二つに一つしかないだろう」


 ガインは、マリアやサラをチラッと見る。サラは、毒素に侵され意識を保っているのがやっとのような苦しい表情をしている。今、サラはどんな状態なのだろうか。シキはサラに今の心境を問いたい。だが、サラの表情から、サラは支配されそうな帰化プレイヤープログラムと戦っているのが汲み取れる。対してマリアは完全に帰化プレイヤーとしての意思になっている。表情は愚か視点に何の迷いもゆらぎも感じない。これはサラが完全に帰化プレイヤーとして支配されていた時にシキが感じた印象と同じだった。


「ガイン、俺はお前を倒し、EG(エンペラーゲート)を破壊し、サラもマリアもリンカもセリカも救う」


「または、俺様に破れ、貴様もEG(エンペラーゲート)に降るかだな」


 シキはガインが今までの印象と違うように思えた。絶対的な王であり、どんな相手であろうと対等に扱わない。下衆を見るような視線に、奴隷に対して取るような言動をする。唯一、自身の愉悦の対象の時、その言葉は少しだけ人間味を帯びたような発言もあるが、そもそもその様子すら道徳のある人間であれば許さざる行為だ。そんなガインが愉悦を感じ、対等までとは言えないにしろ、相手に配慮がある発言があったのは、先ほどの各自の戦いの場の提供を提案した時だけだった。それだけガインは他人に対する態度を改める条件が限られている中、現在のシキに対する対応は異例に感じる。ガインがシキの言動に対して否定をせず、可能性をいくつも提示してきているのだ。

次回も月曜日19時に投稿します。

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