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82話 ACT19-12

 ガインは、この時を待っていたかのようにニヤリと笑い、マリアの戦術算段をまたもや狂わせるスキル発動を行う。


「【リーサルストライク】」


 シキとの戦闘時、黒紫のオーラを纏う【フェアマインド】と共に発動された【ダークリーサルストライク】の通常版スキルである。このスキルは、"バーサーカー”のスキルだ。このタイミングでガインは攻撃と防御のバランスがいいソードマンから、またバーサーカーに切り替えてきた。


 マリアの最大スキル【エクスプロージョンバックキル】を前にして、ダメージを回避しやすく軽減させる【サンドオーバー】をわざわざ解いてまで。


 それほどまでにガインは焦っているのだろうか?否、そのようには言動を見ていて思わなかった。むしろ、何か思惑があって無心の攻撃を繰り返しているように見えたのは、ソードマンからバーサーカーに切り替える伏線だったのだろうか?


 なぜ?


 【エクスプロージョンバックキル】をガインにぶつけるマリアは、【エクスプロージョンバックキル】の攻撃に真っ向から大剣を小回りに動かし【リーサルストライク】をぶつけてくるその瞬間が、何分、何十分にも感じるほど、疑問の想い巡りと共に、その瞬間を長くさせた。


「これで終わりだなマリア。HP消耗戦は中々に楽しかったぞ。」


 ぶつかり合うその瞬間に語られるガインの言葉にハッとするマリア。


 そう、【リーサルストライク】とは、200%攻撃を起こす事はもちろんながら、相手のHPが20%以下の時、ごく稀に相手を即死させる効果を持っていた。マリアは自分のHPが大量消費している状態を甘く換算していた。あくまで大剣からの攻撃と【ブレイダーレイン】から流れる刃のダメージ分しか考えていない。


 またもやマリアは戦術を見誤う。前回のバトルに合わせてまたもやガインに虚を衝かれるのは、自身の浅はかさを表しているようで、かみ締めた唇から血がにじみ出るほどに悔しい。もちろんガインの秀逸さが抜きん出ているのは言うまでもない。生まれながらにして持っているセンスを感じる。


 この戦いはそもそも無謀だったのだろうか。ガインという戦略と戦術の天才を前にして、マリアやセリカが描く戦術など取らぬ狸の皮算用だと思わざるを得ないのか。少なくともマリアにとってはこの一撃で自身の最後を迎えるのは間違いない。思う所はあるが、まだすべてを出し切っていない。まだセリカが残っている。もう少し最善の状況で繰り出したかったが、そうも言ってられない。


 今、ここしか、もうチャンスがない。


《セリカさん、ここで仕掛けて》


 数分、数十分と感じるこの時間も、現実的には数秒の世界だ。マリアができるフレンドチャットで流せる最後の言葉はこれしかない。いつくか残していた戦術カードを状況にあわせて出したかったマリアとセリカは今が最善と判断する。きっとこれ以上にスキル発動の連携がとれる場面は存在しないのだから。


 【エクスプロージョンバックキル】と【リーサルストライク】の衝突は、ダガーと大剣のぶつかり合いによってうまれた衝撃波によって、二人の影像が見えなくなる程大きな爆発を起こした。


 突如フレンドチャットで入ってきたマリアのメッセージと大きな爆発。マリアの安否を心配するセリカは、状況の把握に気持ちが傾いてしまうが、メッセージ内容と爆発から考えれば、彼女の心境を受け止めなければいけない。目元に重い圧がかかってくるほど気持ちは苦しいが、感傷的になっている場合ではない。マリアが求めている、そしてセリカにとって最高で最大のスキルを発動に向けて準備を始める。


 マリアさん・・・。


 最高で最大のスキルであろうと、ガインに対してカウンター攻撃を仕掛けられるタイミングであろうとも、不安は募る。当初立てていた戦術より早い判断だ。もちろんリアルタイムで状況が変わっていくのは当たり前だが、そもそものステータスで不利なのだ。どれだけの準備やパターンがあろうとも安心できる訳がない。


 それでも、仕掛けなければならない。これが本当に最後の攻撃。


「【クリティカルスナイプ】、【ボムシュート・ブレイザーアロー】」


 【クリティカルスナイプ】は基本職アーチャー、上位職スナイパーが持つパッシブスキルだ。確率でクリティカルヒット、つまり大ダメージを相手に与えられる。暗殺確率が上がる【ヴォーパルバニー】を発動するマリアと同じ思考である。可能性のあるものはすべて発動させておきたい。体への負担がどれだけかかろうとも。


 そしてセリカはシキとの戦闘時に発動した最大スキル【ボムシュート・ブレイザーアロー】を発動する。相手に突き刺さると爆発し大ダメージを与える【ボムシュート】、大量出血状態を起こす【レイザーアロー】の矢を刃化させる帰化プレイヤーセリカ仕様版【ブレイザーアロー】だ。この二つが組み合わさり、右手掌によって作り出された黒い空間から飛び出すまるで地獄で受ける炎のような赤黒く燃えた巨大な刃が、ガインとマリアの衝突によって生まれた爆発の先に襲い掛かる。


 爆発の中心部にもしマリアもいたとすれば、この赤黒く燃えた巨大な刃は彼女にも危険を及ぼすだろう。いやいるに決まっている。いなかったすればガインとの先ほどで衝突で彼女の体が吹飛ばされた事を意味してししまう。そのほうが悲劇だ。だから結局何処までいってもこの攻撃は望ましい攻撃ではない。だが、マリアもセリカも覚悟をしている。覚悟をしているからこそ、マリアから《ここで仕掛けて》という言葉なのだ。

 

 覚悟。


 自分の死を引き換えにしたとしても為すべき事を為したい、そして為してほしいと願う意思を持った言葉だ。マリアの覚悟ほどこの世界で重みのある業があるだろうか。AH(アストラルホライズン)EG(エンペラーゲート)に関わるプレイヤーや帰化プレイヤーでさえ、悪しき業を背負った人間達は多い。しかし、その中で深怨ともいえる業を背負っているプレイヤー達がいて、その中でもマリアは世界を現実と向き合って変えてこようと立ちはだかる壁と向かい合ってきた子だ。その子の最後の覚悟を受け取ったマリアは、一縷の願いに自身をすべての託す。


 そしてセリカは自身が持てる最大の攻撃をここで放つ。マリアの安否については、現実的に考えて厳しいのはわかっている。だけど、どうか、願わくば、マリアが無事であってほしい。その一粒の願いを託して。

次回も月曜日19時に投稿します。

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