81話 ACT19-11
「ぬはは、悩め悩め。貴様等のすべてを出し切った後に、無に返す絶望は、俺様にとっての最高の愉悦だ」
マリアとセリカの戦闘モードを察したか、ガインも臨戦態勢に入る。全力には全力を持って制し完全なる敗北を与える。もう、どうあがいていも勝利がそこには存在しないのだと。敗北後の絶望を持って可能性の未練を断ち切る。ガインは遊びでない戦闘において相手が二度と立ち向かわないように、最大の礼節と己の満悦を両立させた思考を持っていた。
「あの人、絶対、向こうでもこちらでも友達いないですよね」
「ふ、そうね。こんな時に面白い事言わないで頂戴」
マリアの突拍子もない発言にセリカは少しだけ緊張の糸がほどける。
「だって、あんなにわかりやすい嫌われキャラがNPCではなくてプレイヤーですよ。なるべくしてなったほどの悪役だと思います。相当性格がねじ曲がってます」
マリアの冗談はセリカにいくばかのリラックスを与えた。同時にセリカはそれをマリアが意図して発言している事にも気がつく。防戦態勢のガインを崩していくには今まで以上の消耗戦耐久戦が強いられる。緻密な計算を元に攻撃を仕掛けていければ、負けずに済むはずだ。ただし計算を誤れば、勝てた後のスタータスの消耗具合ではセリカはここで脱落するかもしれない。
もう一度、あの人、シキの元に戻りたい・・・。けれどそこに多くの期待はしてはダメね。戻れたら幸運と思って、まずはガインをここで食い止めないと。
深呼吸し集中するセリカ。
「さて、そろそろいきましょうか。ご希望はある?」
「・・・」
「確かに、それは面白いわ。消耗戦耐久戦ならもっともわかりやすい戦法かもしれないわね」
「はい。ありがとうございます。わかりやすくて、そして一番辛くて、一番勝てる見込みがある戦術ですね」
マリアとセリカは再び目を見合わせた。ガインの上空には、まだ【ブレイダーレイン】アンリミテッドの黒い渦に多数に存在している。先ほどまでガインをほぼ覆っていたほど数は出現できていないが、これから仕掛ける戦法から考えれば十分な数だ。そして今のこの状態までガインが何も仕掛けてこないのは、余裕を持つにも程があるように思える。言葉通りの絶望の為なのか、それとも、また別のガインの中で思う何かの検証なのか。その真意を確かめる事をセリカはもうできないが。
「ガイン、これが本当に最後の戦いよ。私達のすべてを受けなさい。【ブレイダーレイン】アンリミテッド」
再びガインに降り注ぐ針地獄が空から降ってくるような刃の雨。しかしそんな刃の雨にも懲りぬなあ、とガインは溜息を混じらせながら大剣を振り回し弾いていく。無論、体に刺さっていく刃もあるが、そこは砂を起こし攻撃回避をさせる【サンドオーバー】によってHPの消耗を和らいでいる。ここまでの先方であれば勿論有利な戦況に持っていけない。だがもちろん、今回は戦術が違う。大剣を振り回し刃を弾くガインの絶妙な死角に現れるマリア。
「【速度上昇】(スピードアップ)、【バックキル】」
死角から受ける【バックキル】は、ガインに小さいダメージを与えていく。小さいダメージに意味があるのかとガインは今にも問うて来そうでもあるが、【速度上昇】(スピードアップ)が追加された攻撃は、ダメージをすさまじい勢いで細かく刻んでいき、中々のダメージを与えていく。通常パッシブスキルを重複して使う事は、最大出力を同じように体調パラメーターに大きな負担を与えるが、マリアにとっては大きな負担よりも勝つための確実生を選んだ形だ。
この攻撃パターンの連続性にはガインも舌を巻く。
「貴様等、そのリスクの取り方は悪くないぞ」
セリカが放つ【ブレイダーレイン】の刃がガインを襲い、その死角でマリアが【速度上昇】(スピードアップ)を重ねてハイスピード【バックキル】攻撃を起こす。一見すばらしい連携のように見えるが、この攻撃パターンをガインがリスクと言うには、理由がある。
先ほどのように一撃暗殺を狙った攻撃パターンと違い、マリアは【バックキル】の連続攻撃を仕掛けていく。ただしスピードが速すぎる為、マリアの連続攻撃にあわせてセリカは都度都度【ブレイダーレイン】の刃の雨を止められない。それはつまり、マリア自身が流れてくる刃の負傷を受ける覚悟を意味する。この攻撃パターンはまさに肉を切って骨を断つという言葉にふさわしい。ガインには確実なダメージが刻まれていく。【ブレイダーレイン】の刃に対しても、一つ一つのダメージが大きくないとはいえ、すべて受けるわけにはいかないので、零れていく刃を覚悟しながら振りはらう。そしてその死角を毎度狙ってカウンター攻撃を仕掛けてくる【バックキル】のコンビネーションは、中々にガインを次の行動へと移しづらく、着実にHPを減らしていけた。
しかし、先ほどマリアが【バックキル】を連続攻撃していた時に、突然何か糸が切れたような逆上をするガインの苛立ちが今回はない。先ほどの攻撃の何倍もの比にならないほどの攻撃を受けているにも関わらずである。
だからと言って、この状況を覆すような決定打となる反撃展開をガインが仕掛けてくる様子も窺えなかった。
一体、何を考えているの?ガイン・・・。
ガインの応戦にマリアは一抹の不安を覚えるが、疑心暗鬼になり過ぎて絶好の機会を見失うわけにはいかない。マリアもダメージを受けて攻撃する捨て身の状況で戦っているのだ。不安は募れど、最新の注意を払う意識を保ちつつ、このまま一気に仕掛けたい。
迷いを断ち切っていく心理状況と連動するように、マリアは段階的に【ブレイダーレイン】と【バックキル】のコンビネーションの頻度を早くしていった。段階的に【バッキル】を増やしていき、ガインを致命的な状態に追い込んでいく。もちろんその分マリアのHP消費も激しくなっていた。合わせて、セリカのMP消費もマリアのHP消費ほどではないが、余裕がある状態ではなくなってきている。この攻撃戦術を続けていれば勝てるかもしれない。だが各々のステータスの消費具合を寸分の狂いのない計算をするようにガインのHP、マリアのHP、セリカのMPを見ていく。やはりマリアとセリカのほうが、まだ分が悪いように見えた。その誤差は何度も何度も互いのステータスを見比べていかないとわからないほどだったが、より確実な勝利を求めたマリアはこのタイミングで最終の仕掛けに入った。
「【ヴォーパルバニー】、【エクスプロージョンバックキル】」
基本、暗殺を主たる生業としているアサシンにおいて、同じ相手に何度も同じスキル攻撃を発動していくのはこれ以上ない屈辱だろう。本来、相手を欺いてこそのアサシンであるべきだ。だが勿論そんな自尊心を優先するほど、この戦いに甘く見ていない。できる戦術はすべてとるべきである。希の確率で相手を即死に追いやる事ができるアサシンのスキル【ヴォーパルバニー】は、そんなマリアの焦りから発動されたパッシブスキルだった。
それほどまでに、マリアは追い詰められていた。
その事は重々に承知である。
だからこそ、今度こそ、ここで本当に決めたい。
しかしながらマリアの切なる想いは、ガインの次なるスキル発動詠唱によって打ち砕かれた。
次回も月曜日の19時に投稿します。




