80話 ACT19-10
そう、マリアは、ガインが適切なタイミングでスキル発動をしていない違和感を感じていた。そもそも前提としてジョブは協会に行かないと変更できない。ところがジョブスイッチをどこでも行える仕様を帰化プレイヤーは得ているようで、こともあろうかガインはバトル中に行ってきた。先刻の戦いにて、マリアはガインに対して基本職ファイター、上級職バーサーカーと判断した戦術で戦っていた為、ガインがソードマンスキルのスイッチを行った際に戦況のバランスを崩している。だから今回こそは、思い込みで他の選択肢を排除しないよう、慎重を期した。その最善の注意を払った情景で、マリアがガインであればするだろう行動が出てこなかった一つの違和感だった。
戦術の失敗によって覚えた痛みは、戦いの状況を冷静に判断できる眼をもたらし、セリカが参入してくる事で、さらに客観視もできた。そこで気づかされたのは、わざわざガイン特有のスキル、黒紫オーラで特有結界を作る【フェアマインド】を解除してまで、【ブラッドブロー】を放つことの意味だ。当初は、スキル発動における消費負担を考えての事かと思っていたが、そもそも【バックキル】の攻撃に嫌気が差していたのであれば、【ブラッドブロー】ではなく、攻撃回避スキルの【サンドオーバー】を発動をすればよかったはずである。
スキル発動における大量消費を防ぐ為に、わざわざ【フェアマインド】を解いたのであれば、【ブラッドブロー】を発動した後、再び【フェアマインド】をを発動すればよかったものだが、ガインは【フェアマインド】を発動することなく、【サンドオーバー】を発動した。さらにさきほどまで放っていた【スラッシュ】が【ダブルスラッシュ】に変わり、疑惑は確信へと繋がる。【ダブルスラッシュ】はソードマンに付随されたスキルだ。ジョブをバーサーカーからソードマンにスイッチしたのだろう。
同時に【バーサーク】、【攻撃力上昇】、【集中】も解かれていた。なぜならば、この3つのパッシブスキルは【フェアマインド】と当時に発動しているからだ。ガインは当初、遠隔攻撃のみである【ブレイダーレイン】アンリミテッド時対策として、基本職ファイター、上級職バーサーカーの組み合わせで、【フェアマインド】、【バーサーク】、【攻撃力上昇】、【集中】状態を作り、通常攻撃及び【スラッシュ】で戦術を組立てていた。
だが、カウンター暗殺スキルを持つ、アサシンのマリアが相手側に加わることで状況は一変する。一撃必殺でセリカの遠隔攻撃をタイミングに合わせて排除しようとした戦術は、逆に自身が一撃暗殺される立場になるかもしれない危険を察知し、防御に重点を置いた【サンドオーバー】が発動できる基本職ファイター、上級職ソードマンに切り替えたのである。
だからその前段階として【フェアマインド】を解く必要があった。
一連の経緯と動きから、手に取るようにガインの思考を理解したマリアは、【エクスプロージョンバックキル】で放てば、先ほどのマリアとガインの一騎打ちの時の二の舞になってしまう、と判断し、早期に決着を付けたい気持ちを押し殺して【バックキル】のみの攻撃に留めた。
フレンドチャットは思っている事をテキストで送れるのはもちろんだが、自身が見てきて思った映像と感情を、映画のナレーションを見せるようにそのまま相手へ意識メッセージとして伝えられる。その為、マリアはこの自身の仮設検証を意識データとしてセリカに送った。
「なるほど、そういう事なのね。つまりは」
「はい。防戦にシフトしたガインへの攻撃パターンの組立て、または戦略は変えなければいけません」
ガインも状況をただ余裕持って嗜好しているわけではない。マリアとセリカが言動の少なさに比べて、二人の表情が何かを掴んだように晴れやかになっているのを見て、フレンドチャットで意思疎通をとっているのだと気付く。
「ふははは。さすがだな。マリア。俺様もついつい、興が過ぎたかもしれんな」
ガインは、マリアとセリカに自身の弱点とも思われる箇所を悟られたとしても、意に返さなかった。そもそも"それ"が分かったからといって、マリアとセリカがガインを確実に仕留めるだけの必勝パターンは出てはこないだろう。
「余裕なのが、悔しいわね」
余裕のガインに言葉で返すセリカにだが、マリアは引き続きフレンドチャットでコミュニケーションを図る。ガインに聞かれたくない会話の続きがあるようだ。
《大丈夫です。セリカさん。防戦にシフトとしたと言う事は、逆に言えば、私達の連携の攻撃を恐れているとも取れます。あわせて》
《防戦にシフトしたという事は、私達をキルしやすい環境ではなくなっているという事ね》
《・・・、さすがですね。そうです》
《想定と違ったので、少し困惑したけれど、冷静に考えれば、むしろ好都合なのではなくて?》
《はい。私もセリカさんの戦術には、当初反対していましたが、ガインが防戦状態での戦闘を意識してくるのであれば、私達が狙っている消耗戦耐久戦は、さらに苦しい戦いになろうとも、負けにくくなると思います》
この子・・・。だから私の【ブレイダーレイン】アンリミテッドに先ほどまで否定的だったのね。
セリカは、マリアの消耗戦耐久戦に対する反対を、彼女の純粋な気持ちに心を温められつつも、結果を出さなくてはいけない状況において、子供が自分の感情のみを理由に駄々をこねるような印象を覚えていた事に反省した。マリアは消耗戦耐久戦に対するチキンレースのような戦術に悲観的だったわけではない。自分達が消耗戦耐久戦に持ち込んでいる中で、すべてを吹き飛ばすような一撃必殺攻撃をガインから掛けられてしまう危険をマリアは感じていたのだ。
そう、【バックキル】を連続して行っていた時に発動された【ブラッドブロー】のように。
バーサーカージョブで発動されるスキル攻撃は、発動する自身へのダメージを代償として相手に与えるダメージが計りしれない。そんなバーサーカーとの戦闘において、スナイパーが距離を保ち続けられる保証はどこにもなかった。しかし、暗殺攻撃、カウンター攻撃に特化したアサシンとの連携をとれるのであれば、バーサーカーは近接戦闘を仕掛けようにもいつ襲ってくるかわからないアサシンを意識しなければならないだろう。その為、スナイパーとの距離を縮められない。この組み合わせであれば、基本職アーチャー上級職スナイパーの帰化プレイヤー仕様で遠隔戦闘極振りしたセリカは、バーサーカージョブを保有している状態のガインに対して、近接戦闘極振りとの距離を保ち続けられ、最高の戦術を組みやすかった。
その状態を危惧したのか、だったらとガインはセリカのもとへいきなり近接攻撃を仕掛ける可能性があるバーサーカーを捨てて、防戦も含めてバランスがいいソードマンを上級職のジョブとして選んだ。圧倒的勝利よりも、確実な勝利を臨んでいるのだろう。逆にいえば、バーサーカーの一撃がなくなるので、セリカの下に及ぶ一撃大ダメージの危険ははるかに下がる。マリアセリカにとってこの状況は、精神衛生面悪くない。
セリカは、マリアの見解からこの戦いの先にあるものが暗闇に満ちていた世界から、一筋の光、そして大きな光路となっていくように見えた。言葉足らずとはいえ、マリアが見ていた先の世界を自身が理解してなかったのが少し恥ずかしい。そして、光が見えたならその先にある路への達成だけだ。セリカとマリアはお互いの目を見合わせて、今度こそ最後の戦略、戦術となるであろう戦闘準備を始めていく。
次回も月曜日19時に投稿します。




