78話 ACT19-8
EGが、AHに帰化プレイヤープラグラムを組み込んだとして、その中心人物に兄がいたとする。
消息を絶ってから兄は、EGと帰化プレイヤープラグラムに対して、我を忘れ、まるで人としての感情をどこかにおいてくるような、きっとそんな没入感で多大なる情熱と時間を使っているはずだ。
兄は、そういう傾向の集中力を持っている。
そんな情熱の対象が崩壊した時、崩壊の原因がマリアだったとして、そこに兄妹のつながりがあろうとも、兄が、そんな妹を受け入れるわけがない。
確実に妹という対象への情は度外視され、兄が望んだ世界を壊した人物として敵意を持たれるだろう。
マリアは、そう思うと、怖くて動けなくなった。それならば、いっそ善悪の是非を考える事すらやめて、EGに下ってしまおうかとさえ思った。
それが、兄の望む世界であれば・・・。
だけど、
自身が望んでいる兄がいなくなっていた現実を目の当たりにして、思考停止に陥ったマリアに対して、シキは変わり果てたサラの姿をみて、戦意喪失したにも関わらず、その壁を乗り越えてきた。
その事を、改めてマリアは思い出す。
なぜ、シキは信じていた未来を否定されても立ち直れたのか?
突き詰めれば答えは簡単だ。
人は強い信念を持つ時、例えその対象が人であっても、そこに忖度や、こうであってほしいなどと言う淡い幻想を軸にしてはいけない。まるで逸脱した価値観が押し付けられるような印象を相手に与えようとも、その人と過去培ってきた揺るがない関係値があるならば、覚悟を持って、相手に自分の考えや想いを伝え続けるべきだ。
例え、どれだけ時間がかかろうとも。
シキは、どこかでサラに対して受動的になっている自分がいる。自分の目の前にいるサラは、いつも自分が望んでいるサラであると。だが、そうではなかった時、シキは、自分が知っているサラこそ、彼女自身も望んでいる姿だと、信じなければならないと自分に言い聞かせた。元へ戻す事が大事なのであり、その経緯において、サラの意思を問わないほどの覚悟と信念を持ちはじめる。サラが自分を信じていなくても、サラを信じているシキを、シキ自身が信じることで。
そのようにして乗り越えたきたシキだったが、マリアは、自分がシキだったらきっとその壁を乗り越えられないと思っていた。だからあの時、何も言えなかったし、何もできなかった自分がいる。あの時シキが感じた絶望を自分に置き換えた深層心理があったと、今この瞬間に気づかされる。
潜入先であるEG幹部のセリカは、シキとの間できっと何かあったからこそ、今、マリアを助けてくれている。そんなセリカから与えられたエールは、最高の形でブラッシュアップされてマリアを気持ちの整理へと導いた。
そうだ。
関係ない。兄がEGの中心人物だったとしても。兄を取り戻そうとするマリアの意思の妨げにはならない。今、兄の意思や気持ちを忖度する必要はなかった。そうでも想わなければ、信念を貫き通す事なんて、できやしない。
「セリカさん。ありがとう。もう大丈夫」
「そう、よかった・・・」
マリアは、覚悟と意思が固まり、霧がかって見えていた世界は、はっきりと見えてきた。だが同時に、別の事にも気がつく。セリカは、マリアへの説教をしているその最中もガインから放たれた猛攻撃を捌いていた。セリカに引っ張られながらも、半ば意識が飛んでいて状況の理解をしていなかったマリアは、今しがたこの事実に気がつく。
セリカが発動していた【ブレーダーレイン】の黒い渦と刃は、そのほとんどが姿を消している。みれば身体中にダメージ、そう【スラッシュ】によって切り刻まれている跡があり、疲労困憊になっているセリカの姿がそこにはあった。いかに壮絶な戦いの場面の中で、セリカがマリアへの会話に時間を割いていたのかが分かる。
マリアをひきづり回していたセリカの動きは止まり、今にも倒れそうなセリカに体重をかけまいと、マリアはそっとセリカの腕から手から離し立ち上がった。立っているのすら厳しそうなセリカを横目に、じわじわと迫りくる気持ち悪さの先に目を向ける。もちろん、そこにいるのは、ガイン。
「残念だなあ。セリカ。状況が不利になったとはいえ、マリアなんぞ見捨てておけば、ここまでの状況にならなかったろうに」
「あら、何を今更。私がこの行動をとる事をわかって、マリアさんへの攻撃を増やしたんでしょう?」
「まあ、そう受け取るな。【スラッシュ】の乱れ打ちが、たまたまそうなっただけの事よ」
「ふん、私の事を言うわりには、自分の事は棚に上げた減らず口ね」
「ぬはは、なかなか楽しかったぞ、セリカ、マリア。どうだ、最後に二人でできる最高の攻撃で俺様を迎えてみるのは?一瞬でも有利な戦況状態を作ったにもかかわらず、それを捨ててマリアを救ったんだ。その行動の答えが間違ってなかったと、そう俺様へ思わせるような最高の連携攻撃を仕掛けてみよ」
喋りかけるだけで攻撃してこないガインは、まるで歪んだ性格の強者が、弱者をからかって余興を楽しんでいるように見えた。そんな状況に悔しさを覚えながらマリアは、自身が持つ回復薬の在庫を確認し始める。残りHP全回復薬2個、MP全回復薬3個、状態異常回復薬3個だった。確認後、マリアは1個づつセットをセリカに投げ渡す。セリカは言葉を返す事なく、受け取ったすべての全回復薬を飲み干した。セリカが飲み干した姿を見届けてからマリアは飲み干す。
「そうね、マリアさん、せっかくガインがあのように言ってくれてますし、私達二人の最大をあの人にぶつけてみましょうね」
「そうですね・・・」
HP、MP全回復薬、状態異常回復薬を摂取したところで、最大出力と最大スキルを発動しすぎたセリカとマリアは、万全な状態にならなかった。仕掛けるとすれば次が最後。しかもガインは、セリカやマリアがステータスを回復させたにも関わらず、自身は特に回復薬に手をつけていない。今まで、ガインの圧倒的な強さを見てきたセリカとマリアだが、それでも少しは追い詰められていると信じていた。だが、ガインに、そこまでの余裕を見せられると心が折れそうになる。
ただ、セリカとマリアは、ガインがシキと最大スキル衝突後、マリアの奇襲を受け、そこでは明らかにキルに近いダメージを与えられている姿を見ていた。
だからこそ、もう一度、あの場面を再現できれば、ガインを倒すチャンスはあるはず。
「マリアさん、今更、私達が連携を試みたところで、拙いものになるのは目に見えてるわ。私が、空間コントロールによって出現する刃を生み出すスキルで、相手を包囲し追い詰めるタイプなのは、わかるわね?」
「はい。私は、アサシンという名の通り、相手を必殺するのがジョブでありスキルです。だから、相手がダメージを最も受けやすいカウンター状態によって、私の攻撃は、最高の結果を出せます」
「そうね。だったら、やるべきことはシンプルね。私には、あれ以上の攻撃方法はないもの。MPが続く限り【ブレイダーレイン】アンリミテッドを発動させてもらうわ」
「セリカさん、でもそれって・・・」
マリアは放心状態だったとはいえ、さきほどの戦闘を見ていた。あの戦闘スタイルは、セリカにとって相当具合の悪いスキル発動である。しかも、発動したところで戦況の有利に立つのかすら怪しい。つまり、消耗戦において、セリカが無事に乗り来れるかは、早期にマリアが決着をつけられるかどうかにかかっている。
マリアがガインに対して勝機を見出せるその瞬間まで、セリカは自分の命を切り刻んで戦う事の決意を表明されたのである。マリアは、通常では受け入れられにくい提案だが、セリカがそれほどのまでの決意をして、【ブレイダーレイン】アンリミテッドを放つその想いを汲み取った。今度こそは、マリアの最大スキル【エクスプロージョンバックキル】を確実にガインに放ちすべてを終わらせたい。
だからマリアは、心配を口にする発言を抑えて別の言葉を選んだ。
「ううん。わかりましたセリカさん、私は、最高の舞台の整えられる準備をさせていただきます」
「汲み取りが早くて助かるわ。ありがとう」
「【速度上昇】(スピードアップ)」
セリカとマリアへ、この間も喋りかける事しかしていなかったガインだが、二人の気配の変化とマリアが発動した【速度上昇】(スピードアップ)のパッシブスキルによって、バトル再開のキッカケになったとすぐに察知する。
そしてガインは、セリカとマリアが最大攻撃に向かおうとしている覚悟と決意に対して、まるで客人を最上級の持て成しをするように自身の大剣を大きく振りかざした。
次回も月曜日19時に投稿します。




