77話 ACT19-7
「動き続けなければならない貴方と発動スキルが大きいとは言え、自由に動ける私とでは、選択肢が変わってくるものよ」
セリカは、左掌をガインに向けながら、右手にMP回復薬を用意して飲み干す。
「ぬはは、笑止。貴様のその戦術。MPの消費とHPの消費の耐久戦でもするつもりか。残念だったな、貴様が後、どれだけのMP回復薬を持っているか知らぬが、俺様のこの程度のHP消費で、耐久戦の時間を費やせると思っているのか」
ガインは、振り回していた大剣を大きく振りかざす。
振りかざした大剣の先が地面に刺さるほどの角度までにいくほどまでに。
「【スラッシュ】」
振りかざした大剣の切れ先から放たれる波動をガインは、さきほどと同じように刃を振り払う形で、大剣を振り払い続け始めた。ガインの立ち位置を中心として、【スラッシュ】の波動は、四方八方に飛び出し、ガインを覆うような形で降っていた刃の雨とその刃の雨を生み出していた黒い渦が次々を消されていく。
「く!!【ブレイダーレイン】アンリミテッド」
消された黒い渦をさらに発動させるセリカ。この状況はさすがに、分が悪すぎた。ガインに対してそれまでに大きくダメージを与えられてなかったが、それでも消耗戦耐久戦に持ち込むことでのわずかな勝利への希望は、このガインの反撃により潰えた。よもや、アンリテッドスキル発動をガインが、しかも軽々しく発動させている。ガインのHPの消費を減らすばかりでなく、MPの消費も明らかにセリカの【ブレイダーレイン】とは比較にならないくらいに少し消費で済ませていた。
【ブレイダーレイン】の刃だけでなく、黒い渦も突き破った【スラッシュ】をさらに追撃で起こしてくる【スラッシュ】にセリカはたまらず回避するための移動を強いられる。変わらず、放心状態にあるマリアは、ガインから無作為に四方八方放たれる【スラッシュ】を受けてしまう。
「マリアさん!!」
「おいおい、マリアを気にしてる場合か?貴様の置かれている状況を理解した時に、奴を助けるだけの余裕が貴様にあるのか?」
消されていく【ブレーダーレイン】の黒い渦を再び発動させて刃を出し、さらにその黒い渦をスラッシュの波動によって消され、さらに発動をする。次第にガインを囲っていた黒い渦は、ガインから相当な距離を空ける羽目になってしまっている。状況はどんどん悪化してしている。それでもセリカは、【ブレイダーレイン】の発動を緩めることなく【スラッシュ】の波動を交わしながら、他の【スラッシュ】に当たり吹き飛ばされたマリアの元に向かっていく。
「さらに、分の悪い状況を作ってどうする?」
「うるさいわね。ほら、マリアさん、いい加減に我を取り戻しなさい。お兄さんに会えなくてもいいの?」
迫りくる【スラッシュ】を交わしながら近づき、マリアの首根っこを捕まえて引きずる形で移動を重ねるセリカ。引きづられながらも、セリカの「兄」という言葉に反応するマリア。
「セリカさん、兄さんの事知ってるの?」
「当たり前じゃない」
当たり前と言うセリカの言葉にさらにマリアは絶望する。この質問に対する返答があまりにも当たり前の事のように返答されている以上は、兄がガインの言うとおり、中心にいる仮説は、より濃厚になってくる。
「貴方は、お兄さんが、自分の願いと違うことをしていただけで、戦意喪失してしまうの?」
「そ、それは・・・」
「それなら、さきほどのシキと一緒じゃない?」
「そんなことは・・・」
「そんな事あるわよ」
意図せぬ状況で、帰化プレイヤー状態のサラと出くわしてしまった時のシキと、同じ状態に自身がなっている事すら冷静になれていないマリア。そんなマリアを先ほどまでは、俯瞰して楽しんで見ていたセリカは、この状況の変化に笑ってしまう。一度、人は、状況によって自分の感情のコントールすらできないものである。
「いい。マリアさん、貴方は先ほど、シキがどのように気持ちを改めたか、見ていたでしょう?」
「・・・。リンカさん」
「そうよ。あの場でシキに喝をいれられるのは、リンカさんとシキの信頼関係からだと思うわ。こう言うのなんだけど、貴方はあの時何もできなかったわよね?」
「・・・。はい」
「だから、聞いてね。今、この状況においては、私と貴方も同じ状態なのよ。私は貴方の事を大して知らないし、関係性も深くないわ。ましてや、私が自分で言うのもなんだけど、少し前までは、私達、敵同士だったのよ。そんな私の言葉を聞いて、貴方の気持ちや戦意を取り戻せるなんて思ってないわ」
「・・・」
「だから私の言葉だと思わないで聞いて。リンカさんがシキに言った言葉を思い出して。なんの為にこの世界に来たの?」
「私は・・・」
「愛する兄の為に、自分の感情を捨てて、自分の気持ちや立場を偽ってここまでやってきたのでしょう?兄を変えてしまったEGやAHを壊すために」
「セリカさん・・・」
マリアは、シキやリンカと仲間になったとはいえ、シキやリンカに今までの自分の経緯を話してきたわけではない。ずっと辛かった。一つの目的の為に、日常の本当の自分のすべてを失う事が、これまどまでに苦しい事だというのを知らなかった。帰化プレイヤーを偽って過ごしてきていた自分の中で、少しづつ何かが蝕み始め、壊れ始めてかけていた。
だけど、兄を救う。兄とまた一緒に暮らせる日々を取り戻せた先を想像する事で、マリアは自分の壊れそうな心を支え続けた。
その支えがなくなってしまった。そう思っていた。
次も月曜日19時に投稿します。




