76話 ACT19-6
「セリカよ、貴様は有能な部下だったぞ。少しばかり減らず口の多い女だったがな。その皮肉を形成する貴様の過去を想像するだけで、なかなかいい女だったと、思えるほどにな」
「天下のガイン様にそこまで思っていただけるのは、大変喜ばしい事ね。だけど私は、貴方のように自分の価値観でしか、物事を判断できない人が、すごく嫌いなの。両想いになれなくて残念ね。ただ、この世界は力がモノを言う世界ですものね。私に勝つ事ができるなら、その力を持って私を支配すればいいわ」
「ふん、最後まで減らず口を」
「ありがとう。このやりとりが最後になる事を願うわ。【ブレイダーレイン】アンリミテッド」
基本職アーチャー、上位職スナイパーによって放つ30本の矢の雨【アローレイン】を、セリカが持つ帰化プレイヤースキル刃の状態にて放たれる【ブレイダーレイン】。さらにリンカやシキとのバトル時には、出さなかったアンリテッドと呼ばれるスキル発動は、まさにセリカにとっての決死の覚悟を持ったものだった。なぜならば、ただでさえ負荷の高い特殊スキルの発動を連続するだけでなく、”上限なし”で詠唱するのは、もはや、自身のステータスが先に尽きるか、その前に相手を倒しきるか。そのどちらかしか選択肢がないスキルを発動しているからである。
「ほう・・・。最大にして最高のスキル発動をこの場で放つわけか。本来であれば、小童との戦いにて苦戦してるのであれば、本来出すべくはずのスキルのようにも思えるが・・・。どの時間軸において貴様の思考の変化があったか。貴様のその思惑。面白いな。貴様の望んだ決死の覚悟、【フェアマインド】とともに最高の状態を俺様も提供する事で迎えてやろうではないか。【バーサーク】、【攻撃力上昇】、【集中】」
【バーサーク】。基本職ファイター、上位職バーサーカーの持つスキル。攻撃力上昇のパッシブスキルだが、ファイターが持つ【攻撃力上昇】を重ねてのスキル発動である。
空間を支配する【フェアマインド】に【バーサーク】、【攻撃力上昇】、【集中】。
セリカは、このスキル発動ですらガインにとって本気でないのは分かっている。ガインの中で、まだ遊びの気持ちが残っているのか。或いは、油断、情。その答えを求める事はしない。もちろん【ブレイダーレイン】アンリミテッドを発動したところで、優勢になるとは思っていなかった。ガインのこのパッシブスキル4連続の発動が決して様子見で発動されているものとは思えなかったが、この後にさらに強度なスキルが待っているとするのであれば、今、ここで決着をつけたい。
最大にして最高の特殊スキル発動の【ブレーダーレイン】アンリミテッドは、セリカの真上の上空に数十レベルの黒い渦を生み出し、そこから出てくる刃がガインを目掛けて飛んでいく。一つの渦から放たれる【ブレイダーレイン】ですら30の刃が放たれるのである。その数十の渦から放たれる刃は、刃の雨を通り越して、針地獄が上空から迫ってくるようだった。
ガインは、迫り来る刃をまるで気にしていないかのように、セリカの元へ走って向かっていく。大剣を素振りするかのような軽い太刀筋を右斬り下ろし、右斬り上げ、右横斬りで薙ぎはらっていく。
しかし、セリカにとっては驚くべき事ではない。ガインの発動された【バーサーク】、【攻撃力上昇】、【集中】を考えれば、このような動きは想定内だった。想像以上に吹き飛ばされる刃の数は、また別の見解として。
迫り来るガインから、距離をさらに離し、自身の頭上にしかなかった黒い渦を、ガインを中心として囲い込むように移動させていく。今のこの状態のガインの攻撃は一撃で決まってしまう危険もはらんでいる。セリカにとって勝ち目は、ガインとどれだけ距離を空けて、自身が発動し続けられる限りの【ブレーダーレイン】の黒い渦と無数の刃の雨をガインを浴びせ続けられるかである。
ガインを囲い込む事に成功した黒い渦達は、四方八方から刃の雨を振らせていく。さすがのガインも四方八方降ってくる刃を大剣一つの太刀筋にて振り払う事ができずに、次々とその体に刃が刺さっていく。
これぞ、セリカが狙っていた戦術である。ガインとの距離を空け続け、ガインを刃で四方八方囲い続ける事で、少しづつでもダメージを与えていく。ガインのHPが尽きるのが先か、その前にセリカのMPが尽きるのが先か、そして最大特殊スキル発動となっているセリカはMP以外の体調パラメーターの変動も気にしなければいけない。すべてにおいてステータスとの戦いになってくる。
無論、この状態での戦いが続けばである。
セリカは、この戦術がはまった事による一旦の安堵感と共に、これで終わるわけがない危機感が入り混じった。見る限りは、セリカに向かってきながらも、その速度は次第に落ち、四方八方迫り来る刃を捌くことに専念せざるを得ない状況になっているガイン。
「ほほう。この戦術、面白いな。貴様と俺様の戦力差、属性を考えれば、たしかにこの手法は、俺様が貴様の立場でも取るな」
突然、喋りだすとと共に、セリカに向かうその足を止めたガイン。立ち止まれば、さらに四方八方攻めてくる【ブレイダーレイン】アンリミテッドの刃の嵐を最大限に受ける事になるはずである。
なぜ?
セリカの危機感はさらに加速する。
なぜ、そこで足を止めるのか。無限に迫りくる刃の雨をすべてなぎ払い続ける事ができないガインにとってその行動を意味を探る事すら、危機感を倍増させる。
大剣の切れ味を楽しむかのように振り下ろし、上に上げては回転させて、その圧ですら刃を吹き飛ばしこそすれど、徐々に徐々にその体に刃を突き刺さっていく。
「あら、お褒めの言葉ありがとう。このまま貴方の体力が尽きて断念してくれる事を願うわ」
セリカは危機感を覚えながらも、その心情を悟られないに気丈に振る舞う。
「そう思うか?」
思っているわけがない。どう考えても余裕を持ちながら大剣を振り回して刃を振り払っているガインと、全力で【ブレイダーレイン】を発動し続けているセリカでは、ガインのHPの消費とセリカのMPの消費を見る限り、割に合わない。
だが、それでもセリカの中には、一物の狙いと願いがある。
その狙い通りになってくれれば・・・。
次回も月曜日に投稿します。




