75話 ACT19-5
結局、ガインも言い方を変えているだけで、セリカは、自分が出している結論と同じように思えた。
「だから、片腹が痛いと言ってるだろう。幻想だったらどうなんだ?我々が置かれている、この環境に理想郷がないから、なんなのだ?この世界をまた否定して、元のリアル世界に戻るのか?その行動の先に貴様は何を得るんだ?」
「・・・」
「根本が違うんだよ。今しがた気がついた事への恥部を晒しながら、賛同者を求める浅はかな貴様と俺様ではな。そもそも俺様は、早期の段階で、EGと帰化プレイヤープラグラムの欠陥や愚かさに気付いておるわ。だが、貴様とは違い、俺様は、今の立場や権力を持ち続ける事を決意している。今持っている力や権力を持ってすれば、いくばくか、リアル世界よりは、マシな状況だろう。AHの行く末を否定したところで、リアル世界に戻ったところで、我々には力はない。その状態で何ができると言うのだ。しかし、AHにいれば、少なくとも力がある。すぐでなくても、一旦求めていた世界とは違う世界になったとしても、そこからいくらでも軌道修正かけて、変えられる力を俺様は持っている。そんな俺様は、目の前の事を否定する事しかしない貴様の考えに対して感じる、この大きい溝を、どうやって埋めればいいのだ?」
言い返したい衝動に駆られるセリカだが、ガインの言っている事は正しい。ずっと見てきたAHとEGと帰化プレイヤーの存在の違和感に気づきながらも、今の今まで気持ちに蓋をして、対応策を考えてこなかったセリカ。そのセリカと打って変わり、かなり早い段階で状況を見透かしていて、それでもこの世界で出来る事を見出したガインとでは、見ている景色が違うのかもしれない。
ましてや、セリカにおいては、AHがEGによって理想郷になるのが、幻想だと言う気づきのキッカケすら、敵であるシキからもらっている。その時点で、ガインのセリカへの評価は著しく低くなっていてもしょうがない。
結局、ガインにとって、セリカの一連の行動や想いも一つの答えあわせの事例でしかない。それと共に、その答えあわせの方法が、セリカが自分で導き出した訳ではない事に、あまりにも安易で呆れているように見えた。
「ガイン・・・。恥ずかしい限り。あなたの言う通りね。だけど、私にもプライドがあるの。貴方にとっては敬意に値しないプライドかもしれないけど・・・。ここで貴方の言葉をそのまま正しいと受け止める事は私にはできないわ。それが例え、人から与えられた考えであっても。私を受け止めてくれると言ってくれたあの子の為にも、私は、貴方をここで止める」
今だに戦意喪失状態のマリアを尻目にセリカは、シキの為に今、自分でできる事の最大を尽くそうと、今までで最高のスキル発動をできる準備に入ろうとしていた。
「ほう、能書きで俺様をどうにかしようという浅はかな考えはなくなったか、セリカ」
セリカから黒いオーラが放たれ始める。シキと戦っていた時のように自身のステータスを最大限に引き上げる為の準備である。
セリカをからかうように論破しつづけてきたガインは、返答をしてこないセリカに少しため息をしながら、対話の終わりを認識する。そして、ガイン自身も最大ステータスへの移行に向けて、状態を引き上げていく。ガイン自身もどこかで、セリカに対して理解を求めていたのかもしれない。そのまま忠実な部下として残ろうが、実験対象として別の行動を起こそうが、どちらにしろガインの欲している”対象”としての成果さえ残せば何でもいいと思っていたはずだが。そんな自身の想いに気づいてしまった事すら、ガインにとっては、自分の側面のひとつの成果として捉えつつも、こればかりは自身の人としての浅はかさも混じったため息だった。
「【フェアマインド】」
通常状態において、黒鎧にまとわれた暗黒騎士のその体からうなりでる黒紫のオーラは、近くにいる者を状態異常にしてしまうほどだ。さらに、その状態異常をはるかに超え自身のステータス向上を最大限に発動できる支配空間を作り出す【フェアマインド】をガインは、発動し始める。
セリカのはステータス引き上げは、所詮、ガインのモノマネレベルに近い。そもそも基本職アーチャー、上位職スナイパーのセリカには、パッシブスキルが存在しない。そんなセリカがステータス引き上げスキルを持てているのは、帰化プレイヤーでありEG幹部としての地位があり、ガインからその能力を拝借する事ができたからである。
だが、【フェアマインド】と正式詠唱して発動するレベルまでのスキルを与えられていない。だからこそ、本家本元のガインの前でやるには、甚だおかしく見えてしまうわけだが、セリカには、その事に気を使っている余裕すらない。
そんなセリカの心情をも読み取っているかのようにガインの【フェアマインド】は惜しみもなく、大きなうねりをあげ、セリカ、マリアのいる位置まで覆いかぶさろうとしていた。そして、その黒紫のオーラのうねりは、ガインの持つ大剣にもまとわりつき、まるで大剣が、空間の覆うオーラを生み出しているようにすら見えた。
実質、【フェアマインド】を自らの体感で感じるのは、二度目になるセリカ。一度目は、シキとの直接対決。その時、リンカと共に相当距離を置いて位置していたにも関わらず、体に何かが蝕んでこようとするこの感覚を今度は、セリカ自身を対象として放たれている。考えるだけで気分が悪くなるほどだった。
次回も月曜日19時に投稿します。




