74話 ACT19-4
時はさらに、絶望に伏したマリアと、まさにそのマリアへ最後のトドメを刺そうとしていたガインの場面に遡る。
攻め手を失い、兄の思考をガインから聞かせれ、戦意喪失しているマリアに、容赦なく大剣が振りかざされる。
その瞬間。
「ブレイザーダブルショット」
その掛け声と共に、ガインからマリアに振りかざされた大剣に2つの刃が打つかり、その衝撃でマリアの頭部からずれた所に大剣の剣先は向かい、地面を叩きつける形となる。セリカはその瞬間を狙いマリアの間合いまで入り、マリアを抱きかかえガインとの距離を空ける。
「え・・・、セリカさん・・・、なぜ貴方が?」
「もう、情けない。マリアさん。貴方も一度、自分の信念を貫いたなら、何があっても突き通さなければ駄目でしょう?」
放心状態のマリアを引き続き、地面に座らせ、ガインのほうへ向き直すセリカ。
「ほう、貴様のその行動。中々面白いぞ。何を持ってして、己の主にその行動をとっているのかを、語ってみよ」
セリカは、ガインが表情の見えない仮面の下でほくそ笑んでいるように見えた。その雰囲気から、この展開も想定していたようにも。
「そうね。貴方が私の主である事の異論はさておいて、私のこの行動は、見てもらった通りで、語るまでもないのでは?」
「ぬはは。これだから面白い」
一見、理想郷を求め、最速でその世界を構築したがっていたように見えたガインのこの反応。そもそも各自の戦闘スタイルに持っていく処を考えると、ガインの中で何かしらを抱えているのも窺える。袂を分かったとはいえ、相当な時間を共にした仲である。セリカは、この機会に色々問いただしてみたくなる。
「ガイン、貴方、この一連のお遊びとも言える行動の真意はどこにあるのかしら?」
「貴様がそれを、俺様に問うか?よかろう。貴様に分かるように表現するならば、試しているだけだ。色々とな」
「・・・」
「貴様自身も分かっているように、思えるがな」
共にAHで、理想郷を求めた同士として、作り上げられたEG。しかしながら、EGの方針には聊か疑問が多い事は確かだ。その事から、セリカもガインも初期、帰化プレイヤー組は、帰化プレイヤープログラムのアップデートを進んでしなかったのは、お互いに理解していた。
そう、共に、EGはおろか、AH世界における、帰化プレイヤープログラムに違和感を感じていた。当初、プログラムは思考や共感により得た仲間に、特殊なジョブやステータスやスキル発動を与えるプログラムとしてその機能を果たしていたように思えた。
しかしながら、アップデートに合わせて、また規模の拡大にあわせて、当初、ガインやセリカが経験してきたような経緯をすべて通さずに、いわば強制的に帰化プレイヤーを増やしていく工程に進んでいく事となる。
そして、強制的に帰化プレイヤーになっていくプレイヤーは、ほぼ洗脳に近い他のプレイヤーへの憎悪は、少なくとも初期段階におけるガインやセリカのプレイヤーに対する思考とは、大きく違うように見えた。それは、セリカが帰化プレイヤープログラムのアップデート及びEGに違和感を持ち始めてきたタイミングでもあった。
徐々に感じる違和感をかき消すかのように、EGの拡大と帰化プレイヤーの増加は始まっていき、セリカは、そこに個人の感情を表現する機会など持つことはできなかった。
疑問は疑惑になり、疑惑は不信に代わる。
セリカ自身も、そこまで大きな流れに自分の身を投じていたのもあり、我に返るタイミングを見失っていたのは確かである。
シキ達に会うまでは。
その心境を、本来であれば、セリカより中枢部、いや、セリカの立場からしても中心人物だと思っていたガインが同じような思考を持っているような発言にセリカは驚いた。
「貴方に見えている景色は、私達よりもはっきり見えているのではなくて?」
「ほほう、だとすれば、どうだというのだ?」
まるでガイン自体が、自身の持つ疑惑、疑念、仮説を持っていて、その検証結果を一つ一つ求めているようにセリカは聞こえた。
「だとすれば、その心は、私と一緒ではないの?」
「片腹痛いわ。貴様がしている行動の意味を問うた上で、俺様への苦言を呈しているつもりか?」
「どういう意味かしら?」
「よかろう。俺様が貴様の代わりに答えてやる。AH及びEGに対する不信は、やがて貴様の重すぎる依存心に耐えきれなくなったのであろう。そこへ現れた小童シキ。まあ、弱ってる女を誑かすのは、容易かろう」
「黙りなさい」
セリカから放たれた刃は、ガインの額に向かって飛んでいく。そんな刃をガインは、ただ大剣を振りかざすかのような動きだけで薙ぎ払う。そう、その攻撃自体に大きな意味がない事をお互いに分かっている。セリカはただ、図星だった自分への恥ずかしさに耐えられず、また、その指摘をまさかガインに言われたこの状況を、すぐにでも無くしたかった。それ以上の言葉をガインに続けられる事を避けたかった。ただ、それだけの攻撃だった。
「まあ、そう、熱くなるな。貴様とも、それなりに時を共にした仲だ。このような結末になる事もいくつかの選択肢においては、想像ついていたのでついな。俺様なりにも思うところがあると言うところだ」
「・・・」
「貴様の求めている答えを述べてやろう。結局のところ、貴様や、俺様が求めているような理想郷がこの世界、AHにあるという思想は、幻想という事になるな。帰化プレイヤーという人ならざる兵士を作り続けて、その結果、何になるというのだ。それがEGによって支配された世界が何になるというのだ」
「ガイン、貴方、そこまで分かっているんだったら、なぜ?」
セリカには、ガインの会話の件が理解できなかった。
次回も月曜日19時に投稿します。




