73話 ACT19-3
セリカにとって、理想郷になるはずだったAHの世界はいつの間にか、ディストピアになっていた。だからこそ、この世界を一旦フラットにしなくてはいけない。その為にセリカが出来る事。セリカの中で一番高い勝算の戦術の取り組みで行く事である。 そこまでの事を伝えて理解をしてもらうには、もう少しだけ大人になったシキではないと厳しいかなと思うが、その言葉は紡ぎながら続ける。
「とにかく遠慮は無用よ。私達がセパレートして各々のバトル地点にいく形を取るのが、最適なのは間違いないわ。その中でも最善は、貴方がリンカさんのところへ行く事なの。早々にサラさんとの決着をなさい。そして、すぐにリンカさんサラさんを連れてマリアさんとガインのところに向かいなさい。それまでは私がしっかり、マリアさんと連携してガインと戦っておきますから」
私がマリアさんと連携してガインを倒すので安心なさい。という言葉を選ばない事までは、シキは汲み取る。セリカの指示が正しいかどうか、シキには判断はつかない。だが、どちらにしろ、苦戦を強いられるのであれば、心にシコリを残している状態を早々に無くすためには、シキがリンカとサラのバトル拠点に行くことには、同意できる。
結果、元々のチーム戦にしろ個人戦にしろ、当初、シキ、マリア、リンカが想定していた、自分たちは分が悪くないという判断は、相当な見誤りである事に、気付かされる事となる。セリカの言葉を、そのまま安易に受け取ることが正しいかどうかまでは判断つかないが、どの選択肢をとったとしても、苦しいのはわかっている。セリカ自身も、相当に苦戦を強いた戦いをガインとする事になるのだろう。だからこそ、すべき事は一つである。最短でサラとの事は、ケリをつけて合流する事である。
「わかった。俺がリンカのところへ。セリカはマリアのところへ」
「あら、セリカって呼んでくれるのね」
また、妖艶なジト目でこちらを見つめてくるセリカ。
「その対応はやめてくれ。どうしていいかわからなくなる」
せっかくの決意表明に、妖艶なセリカの対応は、ほとほと困る。顔を背けて視点を他に移すシキ。
「ふふ、ごめんなさい。でも、大丈夫?私から言っておいてなんだけど、私はこう言っているだけで裏切るかもしれないわよ」
「それはない」
「・・・」
シキから放たれる言葉に、二人の契りから生まれた関係への絶対的信頼を揺るがすものが何もない事を、セリカは改めて痛感させられる。
もう、この子は・・・。こういう事を話すときだけ、いっぱしの顔をするんだから・・・。
「シキ」
「ん??」
言葉をかけられると共に、真正面からセリカに抱きしめられるシキ。
「お、おい!!」
セリカの中で感じている予感。その予感を言葉や思考に移すわけにはいかない。できるだけ考えないように、考えないようにしたい。その為に、セリカが落ち着く為に、求めている深呼吸に近い行動が、この行為である。
「黙って」
「・・・、お、おう」
しばらく流れる沈黙の時間。丁度、シキの胸板辺りの位置にセリカの頭がある。抱きしめられた両手は、しっかりシキの背中を回り込み、ギュッと締め付けられている。その締め付けが、もちろん苦しいことはない。シキは、言葉に出来ない照れと、不思議な感覚と、黙ってと言われた以上、どうしていいか分からないが、色々な感情が入り混じった。
だが、時間と共に、ひとしきりの混乱と感情の入りまじりに慣れてくる頃には、セリカの気持ちを極力汲み取る事で、ただただ、この時間をしばしの安らぎの時間にする事に、シキは意識した。
もちろん、分かっている。この行動が、セリカ自身の気持ちを落ち着かせる為にある事は。
その奥深い真意が、ガインのところへ向かうセリカ自身の存続までかけての重い決意である事とは、シキはこの時点では理解することはできなかった。
「・・・、ありがとうね」
「あ、ああ」
「それじゃ、すぐに合流なさいよ」
「セリカ」
「何?」
「無理するなよ」
「・・・」
シキの言葉に笑顔で答えたセリカは、このバトル地点に、まだ存在する転移石のブラックホールの穴に飛び込んだ。一緒に向かってもよさそうなものだが、彼女なりに少しここまでの行動で照れたものがあったかと思うと、シキもだんだんと恥ずかしくなってきた。
だが、その余韻に浸っている時間もない。シキはすぐに気持ちを切り替えて、ブラックホールに身を投じた。
時は戻る。
マリアの直球の言葉を受け入れらないシキ。
「は?!、お前、何言ってんの?」
「小童、貴様こそ、何を言っておるんだ。俺様を裏切り、俺様に歯向かってきたセリカを生かしておくわけがなかろうて」
黒紫のオーラを放つ暗黒騎士ガインは、リンカを抱き抱えながら、マリアの言葉を受け入れないシキに追撃するように言葉をかけてくる。
「シキ・・・。貴方がここに来れたのは、セリカのおかげだったんだね・・・」
今にも、意識を失ってしまいそうな面持ちのリンカ。リンカもセリカと短い時間だが、戦い、そしてお互いの考えをぶつけあった仲だ。無論、セリカの考え方は、受け入れられるものではなかったが、こうしてシキと分かれて、マリア、ガインのところへ向かった事実と、セリカが屠られたという事実を重ねると複雑な気持ちがこみ上げてくる。
でも、きっと、彼女は本意だったと思うわ。
そう言いたい気持ちを堪えて、シキの怒りに震えた顔を下から見つめるリンカ。今、その言葉を投げ掛ける事は、セリカに対する手向けであっても、シキに対する配慮にはならない。
「シーちゃん・・・」
サラもまたシキの元に近づき、状況の把握を務めながら、シキの苦しみを受け止めてあげられずにいた。
次回も月曜日19時に投稿します。




