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69話 ACT18-3

 時は遡る。


 鉄仮面によって、心臓を突き破られながらも、シキを強制ログアウトさせる事に成功したサラ。


「嗚呼、悲しい羽虫よ。己の欲望の為だけに、未来ある有志を突き放し、己を捧げるとはなんと愚かな!!」


 倒れこんでいるサラを虫けらのように見下し、さらに追い討ちをかけるように言葉を続ける鉄仮面。


 シキに対する評価と、サラに対する評価が、最初から大きく違っていたのは、分かっていた。だが、サラは、ここまでの言い様には、違和感を覚える。なぜならば、シキだけに起こりうる特異な状況を踏まえたとしても、上級プレイヤーのサラと、ビギナープレイヤーのシキでは、パーティーを組む相手を選ぶ時に、シキを選ぶプレイヤーがほとんど居ないほどのレベル差である。そのレベル差が検討の余地にすら入らないほどに、希少なプレイヤーを失ったと物語っているのが伝わる鉄仮面の怒りをサラは感じていた。


「残念だったわね・・・。これで・・・、貴方は、シキに近づけない」


「ふう、困ったメス蟲ですね・・・。アバターとはいえ、今、この瞬間、自身が消え失せるほどのダメージは、痛みもあろうて。その痛みに耐え、怯える事もなく、その意思を貫くの強さ、評価に値しましょう。あの少年のことだ。きっと羽虫を追って戻ってくることでしょう。その時、あの少年を迎えられるだけの力を、今、与えましょう!!」


 その鉄仮面の言葉を最後に、サラは、自分の意識との戦いが始まる。【ボディイン】と呼ばれるAH(アストラルホライズン)の公式ガイドでは、聞いた事もないスキル発動と共に、自分の感情が、今まで経験した事がない、誰かの感情が紛れ込んでくるような状態へと移っていく。


 生まれてこの方、人に対して憎悪を抱くことなんて、なかったのに、言い知れぬ感情が。

 AH(アストラルホライズン)に中途半端に関わっている人、プレイヤーに対して、その存在すらを許す事ができないような憎悪に襲われる事になる。


「ん・・・、あ、は、っふ、、、うん・・・」


「嗚呼、悲しい!!なんと嘆かわしい声を出すんだ・・・。耐える事なく、喘ぎ、喘ぎ、喘ぐんですよ!!その美しい喘ぎ声に相応しい成長が、羽虫から貴女に生まれ変わるのです。苦しみ、痛み、憎悪、人格者としての尊厳を、勇ましい精神を、私に見せてもらいましょう!!耐えて、耐えて、耐えて、愛と自己顕示に塗れて、さらなる高みを見せましょう!!」


 サラは、もはや鉄仮面から発せられる言葉に、反論する事すらも出来ない状態にまで、陥ってしまっていた。ただただ、この自分ではコントロールしようがない、この感情に、負けたくない、押しつぶされたくない、打ち勝ちたい、と、気持ちを集中させる。抗おうとすればするほど、苦しい。この苦しみから逃れようとするには、自分の生命の終わりを迎えたほうがいいのではないかと思うほどに苦しかった。


 シキを想う。シキを想って想って想う。シキの為に、今、この感情の支配に負けてはいけない。負けたら、きっともう、シキに会えない。そんな事はサラの人生において、絶対にありえない。自身の死よりも受け入れられない。感情の支配に対して、シキへの想いを糧にした反発が、サラが抗い続けられる最後の砦となった。


 そこからは、時間の経過が分からないほど、苦しみ続けた。生まれてからずっとこの苦しみの中で居るのではないかと思うほどに。心が蝕まれてしまうほどに。何時間、何日、経過したか分からなかった。その苦しむ姿を、当初、楽しんで見ていた鉄仮面が、サラの元から居なくなってしまうほどに時間が経過していた。


 抗い続けた。抗い続けた先に、支配される感情に打ち勝つ結果があると、信じていたから。


 けれど、その想いは虚しく、抗い続けた精神は、気づけば、蝕まれ、感情の支配どころか、サラは自分が何者であったかすら忘れてしまうほどになる。


 次第に薄れていく意識の中で、最後まで想い続けたのは、シキの事だった。


「シーちゃん・・・、ごめんね・・・」





 時は戻る。


 サラは、シキに掴まされている両方の振り上げた腕を、下ろしていく。その姿を見届けて、後方にいるリンカに目を向けるシキ。その視線の先にあるリンカの表情は、どこか、母親が、子供達のいざこざを心配している見届けながらも、その状況を終えて、安心し始めた時に向けるような、そんな表情のようにシキには見えた。


 そんなシキの受け取り方とは相反して、その表情を、一生懸命作る事に心がけたリンカがいた。リンカは、自分が一番シキを分かっているつもりでいた。いや、いたかった。冷静に考えれば、そんな事があるはずはないのに。一緒にいた時間の濃厚さによって、ここまでリンカは、自分をシキに晒け出せた。だからこそ、シキもそうであると。思いたかった。ただし、その想いはマリアの登場と共に、願望である事に気づかされる。そして、今、さらに、リンカは自分の知らない時間を、一緒に過ごしてきたサラとシキの関係性に、また心動かされるものがあった。


 この気持ちを、なんといったらいいか、その答えは分かっているけど、この気持ちを、答えを、言葉にしてしまったら、きっと、この先の関係を考えた時に、よくない。それは、分かっている。だから、この気持ちは、リンカの中で、シキとサラの二人が通じ合えた事の喜びで覆い隠す事にする。


 きっと、時間が解決してくれるはず・・・。





 そんな、リンカの気持ちとリンクするように、正気を取り戻したサラも、いい知れぬ想いがある。

 サラは、自分の知らない、このAH(アストラルホライズン)で、シキと関われなかった時間がある事は理解できている。その間に、シキが、リンカ、マリアと過ごしてきた時間がある事も理解している。サラがシキと一緒にいられなかった時に、シキを支えてくれた感謝が二人にはある。それと共に、サラは、リンカがサラに感じてる感情と、少しだけ同じ想いが、リンカの完璧なまでに作り上げられた表情を見て、入り混じる。


 やってやったぜ。と言わんばかりのシキの表情を見て、彼の子供っぽさを感じながらも、リンカがシキに対して持っている感情を、サラは気づかされる。


 ただ、そんなお互いがお互いを分かって上げられるそんな時間が、今は、サラやリンカにとって、束の間の安らぎだった。


 そして、その安らぎは束の間。


「あぶねえ!!」


 リンカを見ていたシキが叫びこちらに向かって来ようとする。


 リンカは、そのシキの姿を捉えた映像が、コマ割りのように見えた。また、音声が、断片的に聞こえてくる。リンカは背後から現れた誰かによって、完全な無防備状態で、完全回復したにもかかわらず、そのHPを全て消滅させてしまうレベルのカウンター攻撃を受ける事となる。


 そう、想像をする事もなかった、アサシンのジョブの特殊なスキル発動である【エクスプロージョンバックキル】によって。

次回も月曜日19時に投稿します。

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