56話 ACT15-2
「そう言うお前の意図は、ガインを倒したところでEGの崩壊には繋がらないと?」
「そうね。大方、一連の行動を見ている限り、ガインの持つギルドマスターの権利を狙っていたのでしょうけど、それができたところで流れは変わらないわよ」
シキは、マリアがギルドマスターの権利を狙っている事まで、セリカにバレている事に驚きを隠せなかった。だが、なぜ知っていたのかを問う事はしない。
今この段階も、マリアはギルドマスターの権利を狙ってガインと戦っているはずだ。セリカだけが気づいているのか、全員わかっているのか問いたいが、セリカ、ガイン、サラが今のこの瞬間も情報共有をしているのだとすれば、余計な詮索はまずい。
特に言葉の応酬においては、圧倒的にシキが不利である。余計な詮索によってカマかけられているのに乗ってしまう方がまずいので、今できる事とすれば、これ以上のリアクションを取らない事しかできない。
ただ、セリカは、シキがそのように思っている事を見透かしてるように、反応を楽しんでみているようだった。その事にも気づいているシキは、セリカの対応が気に入らない。
ただ、追求すべき点は見えてきている。ガインの意思がEGの意思なのか、もしくはそうではないのか。
会話の末に、セリカが、こちら側に加担するとは思えなかったが、場合によっては、ここで決着がつかなかった場合も踏まえ、ある程度、セリカの真意を知っておければ、こちらへの必要以上の妨害だけを防ぐ事ができるかもしれない。
「お前にとって、EGの目的が、そこまで重要じゃないなら、お前にとって何が重要な事なんだよ?」
「そうね。その前に、安心なさい。坊やが気にしているマリアさんがギルドマスターの権利を狙っている事は、ガインもサラさんも多分、気づいていないわ。私が気づいたのは、あの子の行動の不審点に気がついて行動を追っていたからだけよ。本人は完全に溶け込んでいると思っていたようだけれど、明らかに帰化プレイヤー増加に関する動きが鈍かったもの。バレバレよ。帰化プレイヤーは一番の優先順位がプレイヤーをキルする事と、思考をカスタマイズされているの。鈍い動きなんてできないのよ。ガインやサラさんは、マリアさんと接触する機会もすくなかったから、気づかなかったのでしょうけど。ガインも今回の奇襲で、ようやくマリアさんは違うのかもと思い始めているくらいじゃないかしら?それでも、こんな遊びを提案してくるくらいだから、ガインからするとどう想定しても問題ないと思われているって事よ」
「ああそうかい。大層舐められた話だな」
あくまでシキは、マリアがガインのギルドマスターの権利を剥奪しようとしている事について言及しない。セリカもそこを汲み取り、その点について続けてしゃべる事をやめて、シキの会話に合わせた会話をする。
「まあいいじゃない。坊や達にとって悪い話ではないはずよ。今回の戦い方は」
「それで、お前にとって、EGで活動する事に、なんの意味があるんだよ」
「結局、そこの追求はやめないのね。会話に踊らされない様、意識しているのかしら。坊やが私にその追求を止めない事で、何を狙っているか安易な想定ができそうだけど、答えてあげるわ。私にとって重要な事は、ある人の為になること。それだけよ。つまりはその人の考えが変わらない限り、私の行動も変わらないという事」
「ある人って?」
「それを聞くのは無粋じゃなくて?」
そう言うセリカは、始めて真面目な表情をしたようにシキには見えた。聞いて欲しくないのであれば、ある人の為などと、言わなければいい話だ。
その存在の詳細を、知りたくなる様な発言をしておきながら、その追求をする事を嫌がるその意図はきっと、その人の意思が自分の行動を示しているが、その行動の意思は自分のものではない。と。その真意をセリカは伝えたかったように、シキは思えた。
「俺に細かい配慮を求めんなよ。お前、自分の考えもなく人の考えに依存してどうすんだよ。そいつが居なくなってから、初めて自分で考えるのか?」
「倒すとでもいいたいの?」
「もちろん」
「そうね。貴方に倒されて、その人が居なくなるなら、私はもう帰化プレイヤーとしての活動はしないんじゃないかしら。そもそも、その人がいなければ生きる目的もなくなってしまうので、私としての存在の活動も終わるのでしょうけど」
セリカもガインも、その他帰化プレイヤーも元はプレイヤーであり、そしてリアル世界において、人として生活している。AHで帰化プレイヤーとして過ごす事は、EGの支配構造の意図はあれど、一番はリアル世界との遮断になる。
リアル世界との遮断を求めているその思考は、リアル世界に対する絶望にあるのだろう。リアル世界に希望が満ち溢れている人で遮断をしたいと思う人はいるわけがない。人間関係、環境、身体的な問題等々、色々あげればキリがないのがリアル世界。もちろんその中で頑張っている人もいるんだからがんばりなさい。と言われる事はあれど、人は平等ではない。
神が役割を与えたのか。はたまた役割がひとつのアルゴリズムのように組まれて割り当てられるのか。神はそのアルゴリズムを作っただけなのか。それは誰にもわからない。何かわからない見えない力によって人は平等でない環境の中で努力をしなくてはいけない。AHを好み、その世界のみで生きる事を望んだ人々は、もしかしたらリアル世界における不整合を非とし、整合性を是とした生き方を望んだ人々なのかもかもしれない。
シキはシャドウとのトレーニングを思い出した。シャドウからサラやリンカやマリアの事でメンタルトレーニングという名の説教を受けていたその内容は、シンプルにまとめるのであれば人の気持ちを汲み取れという事を尽きると思っていた。
思えばガインと最大出力のスキルで打つかりあっていた時も、リンカの傍に現れてスキルの衝撃波をリンカの分も含め防いでいたのは、少し視界には入っていた。ガインほど明確な思想は伝わってこないが、曲りなりにもEGの幹部。何かしら思いがあるのだろう。
その思いが帰化プレイヤーとしての行動に大きく関わっていくのであれば、本質は彼らを戦いで叩きのめす事ではなく、彼らが抱えている問題の解決もした上で倒さなければいけない。
会話を求めているセリカの真意を探り解決する事も意識するが、シキはセリカの抱えている闇を理解して力になってやれるかは自信ない。それでもこの流れの中でセリカの考えや思いを少しでも汲み取る事ができれば、何かが変わるかもしれない。見えない言葉のヒントから探りかけるようにシキは問うていく。
「自分の存在よりも大事な人って事なのか?」
「私には、もう誰かの為に何かをする気持ちは残ってないの。それに気づかせてくれたその人の為に動いておく事がもう唯一残された私の道かしらね」
誰かの為に何かをする気持ちがないと言いながら、絶望の淵にいたセリカを救ってくれたその人に今は依存しているのだろう。セリカの発言には自分の意思で物事を決めるという思考が欠けていた。ただそこをシキが追求したところで何か事がプラスに進む事はない。シキは次なる言葉を探す事に意識を向けていく。
「わかった。お前はただのかまってちゃんなんだよ」
「は?、な、な、何いってるのかしら」
次回も月曜日19時に投稿します。




