52話 ACT14-2
数万人の人が押し込める広さに、草木が生い茂る公園の中央のようなつくり。四方すべては森林の壁に覆われている《サウスイースフォレスト》と呼ばれるこの場所は、《イースの街》から南に5kmほど離れた場所にある。
ガインの転移石によって移動してきたこの場所では、シキとガインのバトルによっていつくかの箇所が抉られていた。
さきほどまでのすさまじいバトルとは打って変わり、静けさと森林独特の涼しさを肌に感じながらも、この状況の緊迫感による体熱の向上のほうが勝っていて、いささか息苦しく感じるほどであった。
「サラって、まさか、あの子が、あなたの知り合いの、サラなの?」
リンカの問いに答える事なくガインの隣にいる帰化プレイヤーを見続けているシキ。リンカの質問を無視したわけではない。帰化プレイヤーになってしまっているだろう事は想定していたが、ガインの窮地を助けるほどの存在として、この場に現れているこの現実をシキは受け入れられずにいた。
AHでサラのアバターがしていた姿は、エルフ種族を連想するような淡い黒のアームウォーマー、ニーソブーツ、スカート。上半身は無地の白の体のラインがしっかりわかるノースリーブの姿。また、リアル世界でしていたお団子頭ではなくセミロングの髪型や蒼色縁メガネをしていなかったのは変わらずだったが、髪の色は銀色になり体の色も白い肌から褐色の肌色になり、瞳は赤くなっていた。
髪の色、肌の色、瞳の色の変化は帰化プレイヤーによるものなのか。AHへ一緒にログインした当初とは随分と変わってしまっていた。
リンカは、返答をしてこないシキの心境を汲み取り、再度ガイン、サラらしき帰化プレイヤー、セリカに視点を向ける。三人に視点を向ける際に横目で視界に入ったマリアは無表情のままだった。
「貴方達は、なぜ私の事を?」
自身がサラであることを返答する帰化プレイヤー。シキの事も認識していないような口ぶりである。姿だけではなく、声からもまさしく、そこにいるのはサラだった。
「お前、俺の事わかってないのか?」
「ふぁははは。貴様、サラの知り合いか?」
サラの隣に立っているガインは、サラに救出された際に、ステータスをすべて回復させてもらったのか、先ほどまでのダメージもなくHPゲージも満タンである。
「サラ、お前、その組織が何をやっているのかわかってるのか?元々はこちら側にいて、俺と一緒に行動してたんだ。今のお前は操られてるだけなんだよ」
「笑止。サラ、貴様は、自分の意思で我々と一緒にいるわけではないと?貴様は、何か事情があり、自分の意思とは違うが、我々と行動せざるを得なかったと?」
「いえ、そのような認識ではないですね」
「では、サラ、その上で、貴様は何の目的を持ってこの場に現れた?」
「ガイン、私は、あなたからEGイース支部のギルドマスターの後継者として引継ぎをする予定です。引継ぎ後、あなたは本部業務に集中していただき、私は、《イースの街》における帰化プレイヤー増加作戦を加速化させる。今、ここに現れたのは貴方のサポートに入るため」
「そういうことだ、小童!!」
「シキさん、残念ですが・・・」
シキとガインとサラのやりとりを、ずっと沈黙を保ち続けてみていたマリアが、ここで言葉を発しシキの肩に手をかける。シキにとってはAHでの一番の目的はサラを見つけて救うことである。
仮にサラが帰化プレイヤーになっているだけであれば、まだ救う事に対する行動は単純だったかもしれない。しかし、ガインの後任ともなってくると、サラが《イースの街》におけるEG帰化プレイヤー増加作戦の最終責任者である。サラを救いたい一心のシキの想いとEGイース支部ギルドマスターの権利を剥奪したいマリアとでは、サラに対する対応が異なってくる可能性は十分にありえる。
それはシキも分かっている。だからこそリンカは、シキに声をかけられなかった。そしてマリアは残念と言う言葉でしか、シキに声をかけられなかった。
「ふう、ボウヤも、複雑ね。もういい加減私達の邪魔しないでこちらの仲間になってしまったほうが早いのではなくて?」
「黙れ!!」
言葉とともに【マジックアロー】をセリカに向かって投げつけるシキ。
セリカは、自身に襲ってくる【マジックアロー】を避けようとも防ごうともしなかった。その理由はすぐ様、【マジックアロー】は、ぶつけてきた槍によって、セリカのところまでたどり着くことがないのが、明白だったからである。
槍を放ったのはサラ。その挙動はスナイパーが弓で矢を放つそれとは違い、軽くスナップ利かすように動かして何かを放りなげるような仕草だけで空間から現れた槍が放たれた。
「ふふ。どう、昔の恋人に裏切られた気分は?」
「恋人じゃねえよ」
「そ、そうよ、何言ってるのよ。大事な幼馴染なのよ」
シキだけでなくリンカも反応する。
「あらら、とんだ三角関係ね」
「うっさい。黙りなさい」
「リンカさん、シキさん落ち着いてください」
マリアの言葉に少し我に返り、恥ずかしがりながらも、次の言葉を発さないように気をつけるリンカ。シキも同様、セリカのからかい言葉に反応してしまった事に気がつき冷静になる。
「え、ええ」
「ああ、そうだな」
「もう、マリアさん、残念ね」
「セリカさん、相変わらず人をからかうのがお好きなようで。シキさん、残念ですけど、目の前にいるサラさんは、シキさんの知っているサラさんではないです。一度気持ちを切り替えてもらえませんか?」
そうシキに向かって話すマリアの表情から、この作戦をどうにか成功させたい、彼女のすがる想いが伝わって来る。たださえ状況は悪い方向に向かっている。油断させてダメージを与え、無防備に近い状態だったガインへの最大スキルの攻撃は、サラの救出によって妨げられ、3対3のほぼノーダメージのフラットな状態からまたバトルに持っていかなければいけなかった。
そんなマリアの想いも虚しく、シキはこの状況を受け入れられずにいた。
「気持ちを切り替えるっつったって、俺はサラを救うために・・・」
シキの言葉に、マリアもこれ以上の言葉を発さなくなる。ここまで戦意喪失しているシキに、どんな言葉をかけてやればいいのか迷っているようだった。三人は、共に何かしらを問題を抱えて、その問題を解決すべく、このAHの世界に身を置いているのである。
問題解決の道筋が帰化プレイヤーという一つのキーワードであった三人も、サラを救うための帰化プレイヤー調査という意味合いが強いシキと、大事な人が居なくなってしまったタイミングと帰化プレイヤー発生のタイミングにつながりの疑惑を持って帰化プレイヤーの調査をしているリンカと、帰化プレイヤー増加によってAHの世界が支配される事を防ぎたいマリアとでは、同じテーマのキーワードだったとしても、掘り下げれば本質的に求めている答えに違いが出てくる。
そして、サラが帰化プレイヤーでありEGイース支部ギルドマスター後継という最重要ポストにつこうとしている事実はこの三人、特にシキとマリアの方向性の違いを明らかにさせていた。
そんなシキとマリアを見て、ガイン、セリカもただ見届けているだけだった。ここで分裂するのであれば二人としても悪いことではない。サラだけは自身がこの問題の中心にいるにも関わらず、我関せずだった。
そんな中、この状況を打破したのは、リンカだった。
次回も月曜日の19時に投稿します。




