53話 ACT14-3
「しっかりしなさいよ」
リンカから言葉と共に、これ以上見ていられないと、今までの中でも最大級にでかいビンタをシキは食らう。シキはもちろんの事、マリアも驚く。
「リンカ・・・」
「何もウジウジ、ウジウジと。ここに戻ってきた時から覚悟はしていたんでしょ?それがギルドマスター候補だっただけで、そんな風になっちゃうの?たとえ帰化プレイヤーだって、ギルドマスター候補だって、シキの事忘れていたって、念願のサラさんが、そこにいるんだからいいじゃない」
続けざまにシキの胸ぐらを掴みわなわな震えるリンカ。言い寄るリンカの勢いに、シキは思い出す。リンカが、自身の大事な人を求めて、藁にもすがる思いで、AHに訪れている事を。しかもサラと状況が違う。
リンカの大事な人はAHにいるかどうかすら分からない。そんなリンカの状況を考えれば、シキは自分の置かれている状況がどれほどまでにありがたい事か。
「悪かった。とりあえず、落ち着けってリンカ」
「落ちつているわよ馬鹿。サラさんを救うんでしょ。そこにいる人達全員倒して、無理やりサラさん連れ出してなんとかすればいいじゃない。なんとかするためにこの世界で頑張ってきたんでしょ。忘れられてギルドマスター候補だからって、それだけで諦めちゃうの?」
そうだ。
そうだった。
わざわざ自分の身の危険を呈してまだ現実世界に戻してくれたサラの気持ちを汲み取らないで、何があっても、何がなんでも、サラを取り戻すために、AHに再ログインしているんだ。
EGイース支部のギルドマスター後任として現れて、自分の事を忘れられているくらいで、落ち込んでしまうなら、最初から助けられるわけがない。シキは、改めて気づかされる事の多さに自身の未熟さを感じ恥ずかしくなってくる。
「・・・そうだよな。サラがそこにいるんだもんな。なんとかするだけだよな」
活によってシキの表情や言葉に変化が現われる始める。そんなシキを見て少しだけ安堵するリンカは少しだけマリアのほうへと視線を向けて目を合わせる。ただでさえ、状況はいい訳ではない。混沌としていた状況を打破してなくてはならない。
「そうよ、なんとかするだけよ。何、忘れられただけで落ち込んでんのよ。童貞がみっともない」
「いやいやいや、そこまで言う必要ねーだろ」
「そこまで言われるくらいダラシナイの」
「ま、まあ、そうだな」
「もう、大丈夫?ね?」
「あ、ああ、大丈夫」
「よかったわ、こんなところで立ち止まっている場合じゃないの。目の前の敵三人とこれからガチンコ対決しなければいけないんだから。ねえ、マリアさん」
さきほど目を合わせた時に不安に晒されていたマリアの表情も、今においては取り払われているのも分かっていたリンカは今度こそ、しっかりとマリアへと声をかける。
「そ、そうね、ありがとうリンカさん。リンカさんすごいですね・・・。私では、、、シキさんに、そこまでできなかった」
マリアは、シキへお願い事をしている立場である為、シキが戦意喪失してしまっている事に対して、なんとかしたい気持ちがあっても、どうしてもマリアとシキの利害の不一致がよぎってしまい、対応が見えていなかった。
しかし、リンカにとっては、そこは忖度する話ではない。シキにとっては、リンカが暗闇の中で道筋が見えていなかった自分を導いてくれた人である。リンカにとってもシキが心の支えになってはいたが、本質的にシキへ自分のしてほしい事の為に協力要請をしているマリアとはシキとの関係値も想いも異なる。
そんなリンカの想いや考えが伝わってきたマリアは、安易にリンカを今回の作戦やパーティーに巻き込む事へ懸念していたに反省をする。
マリアは、当初リンカに対しては、特殊なスキル発動を持っているわけでもなく、ただシキのパーティーという事だけの存在でしか見ていなかった。この作戦への参加是非を問われた事も意外だったくらいである。
だが、リンカは懸念の大きな理由とされていた特殊なスキル発動の取得にも成功し、今ここで戦意喪失しているシキに対して活を入れる立場にある。
マリアは、目の前のターゲットへの奇襲作戦も失敗し、新たな戦略に意識を向けなければならない時に、シキの戦意喪失というネガティブな出来事が重なり、自身もフリーズしかけていた。リンカのシキへの活は、大きな救いである。
「え、まあ、そんな、大した事ないわよ。大丈夫、マリアさん。シキがおかしくなったらいつでも活いれてあげるから」
「本当、、、本当に、ありがとうございます」
「おいおい、そんな二人で変な契り交わすなよ。もう大丈夫。なんとかするだけだからな・・・。なんとかしてやるよ」
こんな状況下であるが、三人は三人共目を合わせて少し笑う。
「あらあら、残念。勝手に分裂してくれると思ったのに」
「残念でした。あなた達の思い通りには、させませんから」
セリカの突っ掛かる言葉に体よく答えるリンカ。ついつい踊らされてしまうシキが受け答えする前に反応するようにリンカの中で意識した。リンカがそのように意識しているのもセリカは理解したようで続け様の言葉はなかった。
ガインは、ちょうどシキ、リンカ、マリアが立っている位置とガイン、セリカ、サラが立っている位置の間に転移石を3つ投げつける。割れた反動で周りに電気を起こし小さなブラックホールのような穴を生まれる。
「どうだ貴様等。ちょうど人数も同数。色々思うところがある人物との再会もあるようだしな。ここはひとつ、この3つの穴へ各3名づつ飛び込み、各所へ移動して1対1の戦いを繰り広げようではないか」
さらにその穴に向かって3つ、転移石を投げ放った。
「各々の戦いに勝ち抜いたものが、各所に放り投げた転移石を使ってまたこの場所に戻ってくる。その人数が多いほうが勝ちだ。もちろん戻って来た者同士でさらに戦うのも余興としては面白かろう」
「ガイン、そんな事をしている暇はあるのですか?」
しばらく無言を貫いていたサラがガインへ意見する。ただガインを助ける為だけではなく、明日のイベントに向けて、まだ調整しなくてはいけない事もあり、ここへ来たような含みを持たせているようだった。
「ふははは。余興も大事だぞサラ。配下へ与える任務に、遊戯も混ぜてやるのもギルドマスターたる仕事のひとつだ。引き継ぎ前のひとつの試行だと思って経験しておけ」
「任務に遊戯を混ぜる事の価値が、効率性を欠く欠点を補えるとは思えませんが、まだ貴方がギルドマスターである以上、従いましょう。では、セリカさんもご協力お願いします」
「まったくもう・・・、私もサラさんと同意見ですけど、わかりました」
シキは、ガインとやり取りをしているサラの言葉使いが、今までのサラの個性すらなくしてしまっているように感じた。プレイヤーから帰化プレイヤーになるという事は、記憶をなくしプレイヤーへの敵意を持つといった洗脳なのではなく、サラという本来の人格をどこかに押し込んで、違う別人格を出現させているのではないかとと思えてくるほどだった。
あの愛らしい親しみがあったサラを必ず取り戻す。
次第にシキは、目の前にいるサラに対して、シキの知っているサラとは違う対象者として、敵として見なせるようバトルへの意識を高めていく。
ガイン、サラ、セリカは、シキ、リンカ、マリアへの確認をする事もなく、各自が各々のブラックホールに身を投じた。三人はガイン達の行動に乗るか反るかの判断を迫られる事となる。
次回も月曜日の19時に投稿します。




