48話 ACT13-1
HP回復薬を飲んだムキムキ男は意識を戻したようで、動ける状態になると、瞬時に敵側から離れんとするように魔女側にその自身の位置を移動する。
「あら、ありがとう。粋な男気かしら。フェアな戦いが望ましいとか?」
「いや、そうじゃない。そいつに問いたいと思ってさ」
魔女側に立ち臨戦体制に入っているムキムキ男に顎で指すシキ。
「何をだ?」
「お前は多分、今帰化プレイヤーになっていると思うんだが、その自覚はあるのか?」
「帰化プレイヤー?」
ムキムキ男の反応を見る限り、自分が帰化プレイヤーという、プレイヤーとは違う存在になった自覚はないようだった。
「なぜお前は俺らを攻撃するんだ?」
自身が帰化プレイヤーという存在になった認識をしていないのであれば、なぜプレイヤーをキルしようとする行動に出るのだろうか。
「なぜとは?おかしな事をほざくのだな。お前達はこの世界を破壊しかねない敵だからだろう」
「ふむ。なるほどな」
ムキムキ男にとってシキやリンカは、言うまでもなく倒すべき対象である。それはまるでプレイヤーがAHの世界を脅かそうとするモンスターを倒すべき対象である事と同じ質問をされて、当たり前の返答をしているにすぎないムキムキ男の反応のように思える。
つまり、帰化プレイヤーとは、自身が帰化プレイヤーとしてプレイヤーとは違う存在になったという認識の元、プレイヤーと接する訳ではなく、自身の立ち位置は変わらずに今まで同じ存在であったプレイヤーが別の存在にすり替わってしまう洗脳のように思えた。
「なるほど、そういうことなのね」
ふむふむと考えているシキを横目に、一連の行動の意味するところも含め理解できたリンカ。ちゃんと説明してよ。と言いたい気持ちもあるがこの状況下においてはしょうがない。とも思い直す。
リンカの性格上、自分を置き去りにして物事を進めていく事を良しとしない傾向にあるが、今のシキに対する信頼はそのスタンスをも変えてしまうほどのものではあった。
「ボウヤ、意外と策士なのね。お嬢さんだけでなくボウヤも気に入ったわ」
「ありがとよ。だけど俺は、お前のことは全然好きになれないからここで仕留めておくわ」
「減らず口を。あの二人を殺しなさい」
「了解した」
魔女の命令により、シキやリンカに対してバトルモードに入るムキムキ男。体を肥大化させ、元々2mほどある身長が2周りも大きくなっていく。これが特殊スキルなのだろうか。もはや人間とは呼べないほどの分厚い筋肉に覆われたムキムキ男は巨体を感じさせないスピードでシキとリンカに迫る。
だが
「【ファイアーボール】」
凄まじいスピードで襲い掛かってきたムキムキ男。そして、とても人の拳とは思えないほど大きい拳に対して、【ファイアーボール】を宿して繰り出されるシキの右ストレートは、いとも簡単に腕だけでなく体ごと吹き飛ばす。魔女はもちろんこと、リンカですらシキの攻撃力に度肝を抜く。
シキのレベルが想像を遥かに超えてる・・・・。
リンカは、自身の成長を遥かに超えたシキを目の当たりにする事になった。
ムキムキ男自体、魔女に不意打ちをくらい、すぐ遷移喪失して逃げ出そうとする意思の弱さをさておけば、見た目の通りそれなりの強さを持っているはずである。それに加えて帰化プレイヤー化した事で、強みである筋肉を増徴させる特殊スキルを得たとなれば、その破壊力を考えれば、ソーサラーのスキルと武道の近接攻撃を兼ね備えた攻撃とは言え、そこまでの圧倒的な差を想像していなかったのではないか。
シキ以外は。
ふき飛ばされ魔女にぶつかろうとしているムキムキ男。もはやシキの狙いはムキムキ男ではない。その先の魔女に攻撃対象が移っている。避けようが、反撃しようが、シキは次なる攻撃を仕掛けていく準備に入る。
ところが
魔女の前に、身長をはるかに超える大剣を持った全身を黒い鎧で纏っている騎士が突如現れる。
その騎士はまるで小剣を振りかざすように簡単に大剣を扱い、吹き飛ばされてきたムキムキ男は真っ二つに切り落とされそのまま光の粒子となって散ってしまった。
「な!!」
追撃をしようと魔女の前に接近しようとしていたシキは立ち止まる。突然現れた敵にムキムキ男が切り捨てられた事に威圧されたわけでも恐怖したわけでもない。今のシキであれば、それ相応の敵が突然現れたところでそこまで警戒感を示す事はない。はずだった。だが、言いようがない暗黒騎士が放つオーラはレベルという概念では計れない何か異質なモノに圧倒されてしまった。全身を黒い鎧で纏い、黒紫のオーラを放っている騎士は暗黒騎士と呼ぶにふさわしい成り立ちをしている。
今のシキのレベルであれば、以前、全く持って歯が立たなかった鉄仮面でさえ、圧倒的戦力差を感じるまでには至らないはずである。また、目の前にいる騎士が鉄仮面よりも格段にレベルの高い上位プレイヤーのようにも思えなかった。
だが、異質なオーラを放ち、モンスターのような扱いでムキムキ男をキルした暗黒騎士に、あの時に鉄仮面に感じた威圧や恐怖と同じモノを感じるものがあった。今思えば、鉄仮面から感じていた感じていた威圧や恐怖もレベル差ではない何かがあったのかもしれない。その真意は再び鉄仮面に接触するその時まで分からないことではあるが。
「セリカ、何をやっておるんだ」
「あら、どうしてここへ?」
「予定の時刻になっても戻ってこず。遠視してみればお前が遊んでいるのを見かねてな。これ以上ここで騒ぎを立てるな。諸々影響を与えるだろう」
「そうね、ごめんなさい。どうしてもこの子達がほしくなってしまって」
暗黒騎士は、セリカと呼ばれている魔女と、シキやリンカとの戦いの応戦に来たような素振りではなかった。「遊んでいる」と言う言葉にすべてが集約されているかのように、ただ迎えに来ているような口ぶりをする。
まるでそこにいて戦っている敵であるはずのシキやリンカを敵と見なしていないように。
「シキ、大丈夫?」
「ああ」
リンカはシキの側まで駆け寄る。シキはセリカや暗黒騎士と一定距離を置いたまま動かずにいる。リンカもシキと同じく暗黒騎士から感じる異質なオーラに圧倒され、すぐに攻撃を仕掛ける動きにならなかった。
暗黒騎士は、セリカの言葉でようやくシキやリンカへの興味を示し始める。同じく一定距離を置いたままお互いが動かない時間が続く。その間、わずか10秒も立っていない時間帯ではあったが、シキやリンカにとっては数分以上にも長く感じられた。
先に動き始めたのは暗黒騎士だった。石を地面に投げつけ、割れた反動で周りに電気を起こし小さなブラックホールのような穴を生みだす。
あれは以前サラも使っていた転移石・・・。
シキはサラが転移移動手段として使っていた転移石を思い出す。どこかに移動するつもりなのか。それとも奴等は何か時間に追われているようなやり取りから、ここからそのまま去るのだろうか。その二人に対してシキはどうするべきなのか。
「ここでこれ以上騒いでもらっては困るのでな」
暗黒騎士は右手で手招きすると同時にセリカ、シキ、リンカはブラックホールに取り込まれる。
以前サラが使っていた転移石は、空気中に現れる入り口程度の小さなブラックホールに自ら飛び込み移動する流れだった。
それとは、暗黒騎士が呼び出したブラックホールとはそれとは違う動きだった。
瞬間、完全な暗闇の中にその身を置かれ、宙に浮いているような感覚に襲われる。
「リンカ」
暗闇の中で声を掛けるが返答はかえってこない。
しばらく暗闇に身を置くと、大きな森林公園の中央に位置するような場所が目の前に広がる。その広さは何万人がその場にいても窮屈にならなそうな広さに、四方すべてはるか先に森林がある。
シキがこの場所に転移してから数秒後にリンカ、セリカ、暗黒騎士が同時に現れる。
「シキ、大丈夫だった?」
「ああ、これって転移石での移動だよな?」
「そうね。私の知ってる転移石とは少し違うけど」
リンカの反応からしても、やはりこの暗黒騎士が使っている転移石は通常とは違う物のようだった。これも帰化プレイヤーに関するアイテムという事なのだろうか。相手の同意を得て移動する本来のそれと、相手の同意も得ずに空間移動させる事ができる、それとは、大きく効果が違う。最悪のケース、敵方を自分が有利とする場所にいつでも強制移動させられる事を意味しているのだから。
「本来、貴様らのようなゴミプレイヤーの為にわざわざ用意するステージでもないのだがな。ちょうど明日、ここでイベントもあり、前日である今はプレイヤーの出入りもない。セリカが目をかけているのであればと用意させてもらった」
セリカへの扱いや言動からも、上の立場の帰化プレイヤーなのは分かる。ここから先は、セリカの意思ではなく、この暗黒騎士の考えに対してシキやリンカは対応を考えなくてはいけなくなる。
「ここで続きをやりましょう。って事でいいのかしら?」
「そういうことね」
「お前達は幸運だ。帰化プレイヤー徴兵は本来セリカでさえも、手にかけてもらうことすら本来あまりないのだ。そのセリカに加え、EGイース支部ギルドマスターのガイン様も直々に手をかけてもらえるのだからな。お前達は有能な帰化プレイヤーになれるぞ」
次回も月曜日の19時に投稿します。




