45話 ACT12-3
「ぐお!!」
予期しない攻撃に体制を崩すムキムキ男。続け様に両腕両足にも突如出現した刃に突き刺されそのまま倒れこんでしまう。
「何を・・・、する?」
「あら、失礼。特殊スキルを得るためには必要な儀式なのよ。少しだけ苦しいけど、その後は想像もつかないような快楽を得られるから、今は我慢してね」
想定通りの事態になったが、いざ目の当たりにするとなんとも不快な光景である。
帰化プレイヤーはPKされた後になる流れであることは、今までの経緯からも頭では理解していた。しかし、本人の同意を得ずに半ば強制的に持って行こうとするその行為を目の前に見るのは、想像をはるかに超えた嫌悪以上の感覚を覚えるリンカだった。
都合のいい事しか考えていなかったムキムキ男とすり合わせができなかったのもあるが、どのタイミグで彼を助けていいのか見えていなかった。
このタイミングで助けに入っていいのだろうか?しかし、このタイミングで助けに入るという事は決定的な場面を見逃す事になる。フードを被った帰化プレイヤーと思わしき女性がその後の対応ではぐらかした場合に、リンカという存在だけが知られる事になり、明日の作戦を考えても相当に分が悪い。また結果として特殊スキルを得る事ができなくなるムキムキ男は事態の把握をすることができず、リンカを敵視し、女性プレイヤーに肩を持つ事になったら、尚更最悪のパターンである。
そう考えるのであれば、帰化プレイヤーになるタイミングをしかとこの目で見届けるべきなのだろうか?その場合に帰化プレイヤーからプレイヤーに戻す方法を知らないリンカは、その後、彼がプレイヤーに戻りたいと懇願した時にできない可能性も考えなくてはいけない。いやむしろ、その戻せない可能性の可能性のほうが濃厚である。戻す事への模索は、シキがこの旅の目的地として定めているくらい難しい事なのはわかりきっている。
思考が入り混じり動けずにいるリンカに対して、ムキムキ男からの声が聞こえてくる。
「娘ーー!!、フォローに入れ」
色々な思考をすべて吹き飛ばしてくれたムキムキ男の助けの声が、リンカの迷いを消し去った。存在を知られるリスクを検討し、できればシキとチャットで相談する時間があれば理想的ではあったが、そこで助けを求めている人がいるのであれば、迷う余地もなく、助けないわけにはいかない。
「あら、あなた、仲間を待機させているなんて、裏切ったのね?」
「貴様がなんの説明もなしに攻撃を仕掛けてくるからだ」
「私があなたに声をかけてあげている立場なのよ。あなたが私から親切丁寧に説明を聞く立場にあって?」
追加の刃が倒れこんでいるムキムキ男に襲い掛かろうとしたその瞬間、リンカから放たれた【スラッシュ】、斬りつけた剣の波動が刃をふき飛ばす。
「あらお嬢さん、こんにちは。不意打ちを狙ってなんて、性格の悪さが剣に滲み出てるわね」
「それ、この人を背中からいきなり刺したあなたが言う?」
倒れているムキムキ男に刺さっている両手両足4本に背中に刺さっている1本の刃、計5本を抜きとるリンカ。
「ぬおーーー」
「ほら、男なんだからもっとシャキっとしなさい。回復薬はある?」
「す、すまん。ない」
「もう。ほら」
リンカから渡されたHP回復薬を倒れこんだ状態で飲み、立ち上がれる状態にまで戻るムキムキ男。
「それでお嬢さんは、どういうつもりでこんな事をしているのかしら?」
「知らないわよ。この人が特殊スキルの習得見せるやるって言うからついて来ただけよ。行きがかりで巻き込まれただけ、私は」
リンカは自身の存在が知られてしまったと言え、可能な限りマリアの作戦に支障をきたさない状況にしなければいけないと言葉を選ぶ。最悪、リンカの作戦の参加を見送る方向も考えつつ。
「あらそうなのね。ではそこのムキムキさんは、特殊スキルを得ようとしたら痛い思いしなくちゃいけないのが嫌で、こんな綺麗なお嬢さんに助けてもらってってことなのね。この後はどうしたらいいのかしら?」
「き、綺麗って」
「あら照れちゃって。私、あなたみたいな子は好きよ。ちょっとイレギュラーだけど特殊スキルに興味があるなら私に身を任せてみない?」
「ありがたいお誘いだけどやめておくわ。私も痛いの苦手だし」
「そんな事言って。なんの迷いもなく断るところあたりが怪しいわね。本当はわかってるんじゃないの?この一連の動きが何を示しているのか」
確信を迫るような聞き方をしてくる女性プレイヤー。当人及び彼らEGかもしれない帰化プレイヤー達は、自分達の行いに対してチェックを入れている対象者がいる事も認識しているような口ぶりに聞こえる。リンカは、反応はしない。反応をすれば認めてしまうのと同じである。
フードを被った女性プレイヤーはそのフードと覆っていたマントを取る。
深紅と呼ぶにふさわしい美しい赤いロングヘアーの髪、尖った耳に黄金がかった瞳の色、黒のパンツとマントに紫のベストを着ている。
いかにも魔術師を彷彿させる姿である。
妖艶と言う言葉が似合うほどに美しいエルフの魔女と呼ぶにふさわしい姿に見入ってしまうリンカ。
「娘、すまんが、ここは一旦一緒に引いてもらえんか?」
ムキムキ男はすっかりこの魔女に恐怖してしまったのか、退散をリンカに懇願する。助けに入った立場や狙いを問われているリンカとしては願ったりかなったりである。なるべく早く、この魔女に自分の印象を残さずに退散できるのであればしたい。
ただそう易々と退散させてくれる事はないだろう。バトルが開始したとあれば、戦意喪失したムキムキ男が戦えない以上、彼を庇いながら戦っていくのは相当分も悪い。
少ない可能性を信じて、ムキムキ男の言葉に乗っかるように退散を意思表示をしてみるリンカ。
「そういう事だから、今日はこの辺でおいとまさせてもらうわ」
「それがまかり通ると思って?」
やはり難しいか。っと思う事の瞬間的な余裕すら与えないほどに、魔女の先制攻撃が繰り出される。その言葉とともに、すさまじいスピードでリンカの横を通りすぎ、ムキムキ男の心臓を一突きする刃。
「え??」
「っんが!!」
「残念ながらその人は先約済みよ。この時点での離脱は認められないわ。本人の意思はこの段階においては関係ないの。少し遊んでいきたかったけど。それよりももっと興味ある子に出会ってしまったから、先に片付けさせてもらうわね」
再び刃を今度は相当数出現させ、ムキムキ男を四方八方串刺しにする。
「【ボディイン】」
四方八方、刃で串刺しにされHPゲージが0になったムキムキ男は光の粒子となって消えそうになっていた。その瞬間を魔女から放たれたスキルによりムキムキ男は光に包まれた状態になり横たわる。
ここまでの一連の動きがあまりに早すぎた為に、リンカは一切の動きを取ることもできなかった。
次回も月曜日19時投稿します。




