44話 ACT12-2
(そうか、了解。それじゃ2時間後に酒場で俺と合流しよう)
(はい。宜しくお願いします)
本日、先に帰化プレイヤー装う準備をする予定のシキは、マリアとのチャットで待ち合わせのやりとりを終えて内容をリンカと共有する。その後合流までの時間を使って色々準備をする事にした。まずは一緒にアイテムショップに向かう事へ。
「EGへの潜入が成功したら、俺は帰化プレイヤーという事になるから集会のタイミングまでは会えなくなるな」
一緒に横並びで歩いていたリンカは少しだけ歩きを早めてシキの斜め前で振り返り、後ろ歩きをしながら応える。
「そうね。たった1日じゃない。寂しいの?」
心を探るような揶揄いの笑みを少ししながら揺さぶってくるリンカの対応に可愛いらしさを覚えるシキは、その心の声を押し殺して答える。
「寂しいとか、子供か?」
「そういう意味じゃないわよ」
再び前を向いて歩き始めるリンカ。
そのリンカについていく形で少し後ろを歩くシキ。
・・・、どういう意味なんだよ。
「呑もうぜ。って話していた件、もう少し先になりそうだな」
「私を口説きたい呑みの件ね」
「いや、ちげえって」
「そんなに全力で否定しなくてもいいじゃない」
「あ、悪い」
「ふふ、いいのよ。私も言いたいだけだし」
「言いたいだけかよ」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないわよ」
「どっちだよ」
「なんでもかんでもハッキリさせようとするのはよくないわよ。せっかちな男性はダメ。そうね。呑みにいく件はこの作戦が落ち着いてからね。マリアさんも一緒に三人で呑みましょうよ」
「・・・、そうだな」
この作戦が落ち着くとは一体どのタイミングを指しているのだろうか。第三ステップなのか第四ステップなのか。抗争が現実化した時にゆっくり三人で呑んでいる時間があるのだろうか。
その事についても触れてみようかとシキは思ったが、やめておいた。
少なくとも今は、その事を一つの楽しみにして今からの作戦に臨んでいこう。
今話している落ち着いた環境が現実的でなかったとしても、それが願いである限り。
シキとリンカはしばらく歩いていると、以前帰化プレイヤーの情報収集をしていた際に、酒場でやりとりした柔道着をきたムキムキ男の存在にリンカが気がつく。
「あら、こんにちは」
「おう、また会うとはな」
「よう」
リンカの方だけを見てリンカには応対し、シキの声かけにはそのまま反応しないムキムキ男。
おいおい、こいつ、本当ダメなやつだな。女としか話さないってか。
ソロプレイヤー気取ってけるけど、そんなんだから単純に友達がいねえんじゃねえか。
シキはムキムキ男によほど一言言ってやろうかと思ったが、同じ心境だったリンカからは余計なことを言うんじゃないわよ。とアイコンタクトでクギを刺される。
はいはい。
空気と化しておきますよ。
「ちょうどいい所で会ったな。今から歴史的な瞬間をその目に焼き付けておくか?」
身長は約2m近くあるであろう大きな体で腕を組み、上から目線でリンカを見るムキムキ男。
情報収集時にムキムキ男から聞かされた選ばれたプレイヤーのみに声がかかる儀式の事を指して、歴史的な瞬間と表現していることはリンカもシキもすぐに分かった。つまりは本人の認識とは違う経緯を経て、きっと真実を知れば望んでいない帰化プレイヤーへ堕ちていく道筋を今から辿ろうとしているわけである。シキとリンカは目を合わせ、再び余計な事は言うんじゃないわよ。とリンカからシキへアイコンタクトを出す。
「その歴史的瞬間をみてもいいの?」
「よかろう」
今この瞬間もムキムキ男にとっての会話対象は間違いないくリンカひとりだった。必要以上のシキへの無視にツッコミたい気持ちはあるが、今はそれどころではない。シキはこの状況を汲み取り、リンカに行ってこいよと言う手振りをするだけに留めてそのまま先に一人で歩いて行く。
「ごめんね。後でね」
「了解〜」
シキと離れ、ムキムキ男についていくリンカ。大柄のムキムキ男の歩幅は広く、歩くのが早いのもあり、少しだけ駆け足でついていくリンカ。一定の距離感を保ちながらもその道中、ムキムキ男から話しかけれらることはなかった。男性にはトコトン冷たくする態度の割りには、女性と二人になるとその空気感は苦手なのか沈黙が続いた。せっかくの移動時間である。リンカはムキムキ男の考えを探る。
「ねえ、あなた、どうして特殊スキルがほしいの?」
「プレイヤーであるならば誰もがほしがるだろう。お前はそんな事ないのか?」
「そうね。ほしいには、ほしいけど、なんか怖いかなって思って」
簡単に手に入る力に魅力なんてあるの?と思うところが本音ではあるが、もちろん言うつもりはない。選ばれし者としてこれから特別な力を手に入れる、厳密には自分の自由意志と引き換えに魂を売り渡し手にいれる特殊スキルになる可能性が高いわけだが、もちろんその心境にあるわけではないムキムキ男の考えに、リンカの完全に真逆の本音をぶつけてもしょうがない。本音とは違うが、いかにもムキムキ男が喜びそうな言葉を選んで話すリンカ。
「ガハハ。女だとそんなもんか。俺の特殊スキルを見れば考えが変わるかも知れんぞ。お前にその権利が得られるかどうかはわからんがな。俺から特殊スキルを与えてやれるなら検討しないでもないぞ」
女は関係ないだろ。古き良き男尊女卑のイメージがムキムキ男の頭の中にはあるのか。こいつ絶対ダメな奴だ。と心でツッコミを入れながら笑顔で返すリンカ。
「そうね。ありがとう」
賑やかな街並みから離れた裏路地の近くに着く。リンカはムキムキ男から近くの建物の影に隠れて見ているように言われる。言われた通り建物の影に隠れて、ムキムキ男及びその周辺の視点から入らないよう観察する。
しばらくすると、ムキムキ男から聞いていた風貌と同じ格好のマント付きフードを被ったプレイヤーが現われた。
「お待たせしました。少し待っていただくお時間いただいてて、ごめんなさいね」
「大丈夫だ。それだけ俺に渡すスキルの選別が難しかったのだろう」
なんとも都合のいい返答をしているムキムキ男に少し呆れながら見ているリンカ。喋っている言葉や声からマント付きフードを被っているプレイヤーが女性である事を知る。
「そうね。この後すぐにあなたの理想に近づけますわよ」
フードを被った女性プレイヤーがそういった瞬間。
後ろには誰もいないはずの空間から突如刃が出現しムキムキ男の背中を突き刺した。
次回も月曜日19時に投稿します。




