43話 ACT12-1
集会の1日前である本日はシキを。
当日である明日にリンカを。
各々マリアの前で種族変更させ一度特殊なスキル発動を確認した後、マリアからEGの招待コードをマイページに送りギルド参加受付の受理をする。
ここまでが第一ステップ。
当日である明日には、シキ、リンカ含め、ギルドメンバー宛に送られてくる集会場所と時間を受け取り各自そこに集合する。シキ、リンカ共に別の角度から旧ギルドマスターの側まで接近し、イベントの進行に合わせて新ギルドマスターのお披露目をされるタイミングまで待機。お披露目、発表のタイミングを持ってマリアが旧ギルドマスターへの暗殺を仕掛けるので、新ギルドマスターの応戦を防ぐのをシキが、他の警護の応戦を防ぐのをリンカを請け負う。
ここまでが第二ステップ。今回の一番の大所である。
暗殺がうまくいき次第マリアはギルドマスターの権利をすぐに取得し、EGのギルドメンバーであり帰化プレイヤー達にプレイヤーとの即時抗争を指示。
シキ、リンカは指示された帰化プレイヤー達よりも早くイースの街に戻り、種族を戻し、EGの脱退要請をマイページ上で行う。脱退承認をマリアにしてもらうことで、迫ってくる帰化プレイヤー達と戦いを始めていく。
そしてその騒動に気づいたプレイヤー達に応戦を求めていく。抗争が激化したタイミングでマリア自体は、EGのギルドマスター権利を破棄する。その後プレイヤー側として参戦する。
EGはこの一連のマリアの行動によってトップを失い混乱状態に入ると見ている。
マリアが即席のプレイヤー側をまとめ上げたチームよって、数日もかからないうちのEGイース支部を鎮圧を目標とする。
ここまでが流動的であるが第三ステップである。
その後、イースの街での事件を他の地域にもいち早く情報伝達していき有志のプレイヤーを募り、EGを超える大規模ギルドを作る。
第四の最終ステップである。
作戦が失敗した時についての内容はすごくシンプルだ。
作戦が失敗した時は、次の機会を伺えるように極力目立たずに撤退の記載への意識を求めていた。
それは、マリアにとっての作戦の失敗はこのミッションの失敗を意味するものではない。あくまで自分の失敗として終わらせれば良いという考えである。
あなたがいなくなったら、もう機会なんて作れないわよ。
極端なまでのマリアの考えに関して異を唱えたい。
その気持ちを寸前のところで抑えるリンカ。
その言葉を発言してしまったらマリアの覚悟を受け入れた事にならない。
マリアが抜けた後、再び同じような奇襲を起こす事の難易度は、言わずもがなマリアが一番分かっているはずである。にも関わらずその表現をしているマリアの気持ちを汲み取らなければいけない。絶対に何があっても成功するんだ。と。
「シキから聞いていた情報より相当細くなっているわ。ありがとう。私もこの作戦にジョインされているのね。想定していたの?」
「ありとあらゆる事を想定したカードを用意しておくのは当然の事です」
この世界を帰化プレイヤーに支配されないように考えたこの作戦の実行パターンを、来る日も来る日も色々なケースを想定しながら立てていた。きっとシキや他の特殊なスキル発動を使えるプレイヤーに会えなかったとしても自分一人で決行するカードもあるはず。
「マリアさん、絶対に成功させましょうね」
「はい」
マリアはこの作戦が成功した後の自分の処遇について考えている。帰化プレイヤーとはいえキルする事。AHの世界でチーター、犯罪者の烙印を押されてしまう禁忌のスキルを使おうとしている事。結果的にプレイヤーを帰化プレイヤーから救うことになるとはいえ、その瞬間では戦争を起こした戦犯として扱われるかもしれない事。
リンカはできればマリアの口からその後、マリアに責任の矛先が向かわないような展開を願ったが、その確認を今する事はしなかった。リンカがマリアの立場であれば覚悟を決めた時点で、その後のリスクヘッジは考えれない。考えてしまったらきっとこの作戦を実行する為の決意を揺るがすことになる。
見た目だけで言えば守ってあげたくなるような可愛らしさを持つマリア。
彼女の中から溢れ、感じる信念や決意に敬意やサポートはあっても、揺るがしたり邪魔するような事はしてはいけない。
リンカはマリアに対して自分自身も相応の覚悟を持つべきだと自分に言い聞かせた。
マリアとの話を終えたリンカは、マリアがリンカの部屋退出するのに合わせてシキと連絡を取る。
「お疲れ」
「お疲れ様」
「その、あれだ・・・、マリアとはどうだった?」
作戦参加のオファーを受けた際に、リンカも関わらせる事を提案した。
その際のマリアのリンカに対するコメントがよくなかった印象がいつまでも残っていた。
シキからの説明にその印象を覚えてしまったのか、リンカがマリアに会うまでの間に時間を要したも拍車をかけた。会う前からの印象の悪さをお互いに与えてしまった事で、いい着地を願いながらも、想定できなかった時の対処法を伺うようにシキはリンカにマリアとの密談の感想を確認する。
「何歯切れの悪い聞き方してるのよ。大丈夫。ちゃんとしっかり話したから」
「そうか。安心した。それで?」
「それで。って何よ?」
リンカはさきほどマリアから渡された作戦の手順が詳細に書かれた内容のメモを、シキのいるほうへ向かって机の上をすっと滑らして渡す。
「私も帰化プレイヤー装って潜入する作戦に切り替わったわよ」
「え?そうなのか?俺が聞いていた話と違うな。脅したのか?」
「脅すわけないでしょ!!何言ってるのよ。そもそも脅してどうにかなる話じゃないでしょ。あなた、馬鹿なの?」
「いや、冗談だよ。でもなんで・・・」
特殊なスキル発動を持たないリンカの潜入を認めたのだろうか。
そう思いながらメモを読んでいると
"集会の1日前である本日にシキを、当日である明日にリンカを、各々マリアの前で種族変更させ一度特殊なスキル発動を確認した後、マリアからEGの招待コードをマイページに送りギルド参加受付の受理をする。”
シキは自分の目を疑い、記載のメモを何度も読み返す。
「リンカ、もしかして」
「そうよ。文句ある?」
「いや、ないけど。っというか最高じゃねーか。なんでもっと早く言わねーんだよ」
「なんとなくよ。そんな言うほどのものじゃないかと思って」
何言ってんだよ。前に言わなかった時、怒ってたじゃねーか。とツッコミを入れたくなるシキだったがそこは喉まで出たのを押し返す。
「そうか。それは朗報だな。特殊なスキル発動を得ることは、希少な属性として狙われたり危険に晒されることになるとは思うけど、そんなのは言うまでもなくリンカは上等だよな。まあ、がんばるか」
「そうね。がんばりましょ」
サラがシキの成長を喜んでくれたように、シキもリンカの成長を喜んだ。嬉しいはずだが、素直に喜ばないリンカを見ていると前の自分のようだと少し笑ってしまうシキだった。
次回も月曜日の19時に投稿します。




