39話 ACT10-2
「し・・・」
シャドウから指摘された言葉は、リンカを恥ずかしさに晒す。それこそ考えないようにしていただけで自分でもわかっていた。わかっていたからこそ、その思考に持っていかなかっただけで、その思考への扉を空けてしまえば、心がかき乱される。
「リンカちゃん、分かってるよね?嫉妬は別に悪い事じゃないよ。ただ嫉妬の気持ちをプラスに変えていく方向性だけ間違わないでほしいの。そうしたらリンカちゃんの求める自分にしっかり近づいていくから。理想の自分になれるから。信じて」
まるで母親がふてくされている子供をあやす時の笑顔の表情でシャドウはリンカに語りかけHP全回復薬とMP全回復薬を渡す。
「簡単にはい。わかりましたなんて言えないけど・・・」
「私達、シャドウは本体プレイヤーを倒す事を目的としているわけじゃいから。そしてこの《時と補正のエリア》での私達のミッションは本体プレイヤーの短期間にレベルを上げる事だけではなく、上がっていくレベルに見合う人物の”器”も大きくしていく事を求められるの。だからこういうやりとりも発生してしまうの。ごめんね」
「そう・・・」
リンカはシャドウから渡されたHP全回復薬とMP全回復薬を飲み万全な状態になり、シャドウはリンカの完全回復にあわせてサラの姿からマリアの姿になる。
「こんにちは。この姿がマリアちゃんです」
「変身のオンパレードね」
「今回の《時と補正のエリア》におけるリンカちゃんの一番最適なトレーニング相手はマリアちゃんだと思うの。だからマリアちゃんとの戦いが本当の戦いね」
「なんでよ?」
「やればわかるよー」
マリアの姿をしたシャドウは突然、リンカの間の前から消える。
だがリンカは瞬時にシャドウが背後に回ったのを読み取り、シャドウが持つマリアのアサシンダガーの攻撃を小剣で防ぎ、距離を取る。
続け様にシャドウはリンカとの距離を縮めリンカにダガーの連続攻撃を浴びせる。
その全てが実体でいうところの急所を狙っている攻撃の嵐にリンカはすべて防ぎつつ、先ほどの防戦一方ではなくリンカ自身も攻撃を仕掛けていく。すさまじい小剣とダガーのぶつかり合いの中、少しづつリンカもシャドウも小剣とダガーが体に切り刻まれていく。
その一瞬の隙を見つけてリンカはマリアを左手で突き放し、空を切りつけた際に生まれる波動スキル【ダブルスラッシュ】を放つが、ダガーの幻影を放つ【ダガースロー】を打つけられ共にかき消す。
シャドウはアサシンらしからぬ攻撃で引き続きリンカとの間合いを詰め、攻撃を繰り広げていく。距離を空けては縮められ、距離を空けては縮められを繰り返してお互いの攻撃を止める事なく小剣とダガーをぶつけ合っていく。
お互いのHPゲージを見る限りこのままの応戦では先にHPがなくなってしまうリンカはここで一手打つ。
相手のガードを崩す事ができるパッシブスキル【ガードクラッシュ】。
相手の攻撃をいなし、カウンターダメージを与える【パリィ】。
この二つのスキル発動によりシャドウの姿勢を崩しダメージを与え、突きの最大攻撃スキル【スラスト】で一気に畳み掛ける。
だがここでシャドウは、相手を爆発させるダガー攻撃スキル【エクスプロジージョンダガー】とダガーを投げつける攻撃スキル【ダガースロー】を組み合わせた【エクスプロージョンダガースロー】と呼ばれる特殊なスキル発動をリンカの【スラスト】に打つけてきて、リンカのここまで優勢な状況をすべてひっくり返される。
体勢を崩していたシャドウに【スラスト】を打つけに行ったリンカは、目の間に現れた【エクスプロージョンダガースロー】に【スラスト】毎かき消され、ふき飛ばされる。
HPゲージはまたもや0に相当近い位置まで減らし、倒れているリンカの元へシャドウがすかさず現れHP全回復薬とMP全回復薬を飲ませる。
「はぁ、はぁ。なんなの今の?」
万全状態になったリンカの手を引き、起き上がらせるシャドウ。
「これがスキルとスキルの組み合わせを持つ特殊なスキル発動かな。そして今回リンカちゃんが一番得たいところかなって思ってお披露目しました」
「これが、マリアって子の持っているスキル発動・・・。プレイヤースキルと組み合わせるシキとはまた違うタイプね。それは誰でも得られるものじゃないって聞いてたけど・・・」
「うん。でもそれで納得いくような子じゃないでしょ。リンカちゃん」
今、目の前にいるマリアはリンカにとって始めてみる存在であるにも関わらず、本質を突いてくるそのコメントからはマリアを通してシャドウという、または自分と同じ感覚を持っているであろうその存在に、少しだけ親近感を覚えるリンカ。
「わかってるじゃない。さっきまでの嫌悪感は少しだけ訂正してあげる」
「ふふ。ありがと」
再びリンカとマリアの姿をしたシャドウとのバトルが始まる。
通常攻撃の接近戦は不利。
スキル発動して接近戦を有利にして追いつめても特殊なスキル発動を使われると戦闘不能状態まで一気に行かれる。あくまでも単発攻撃以外の接近戦は避ける事を意識してスキル発動の組み合わせをイメージして使っていく事を意識していく。
どこまでいってもVBCは、”イメージ”や”意識”の具現化をコマンドしている理論の世界である。
スキルとスキルの組み合わせという考えてみれば極シンプルなレアスキルを他の人ができて自分にできないわけがない。リンカの中での思いの膨らみがシャドウの言葉によって一気に膨張する。
劣等感。
嫉妬と劣等感がリンカの気持ちをさらに苛立たせていた。
認めたくないけれど。
どこかでリンカの中で大切で特別な存在になりつつあるシキが、シキの中でもリンカが大切で特別な存在になってほしかった。
その気持ちの温度差を感じていたのだろう。
その気持ちの温度差を縮めていく為に必要なのはお互いが同じ喜びや怒りや哀しみや楽しさを共有することであり、その為に同じ事ができる立場でいたかった。
だからきっと。
自分にも特殊なスキル発動があれば。
きっとこのフレストレーションがなくなり、次のステップに行ける。
そうして前に進み続ける事で”あの人”に近づける。
「【パリィスラスト】」
シャドウの背後に瞬間移動し攻撃する【バックキル】をいなし、シャドウのVIT、防御力を下げた状態で起こす突きの最大攻撃【スラスト】を組み合わせた【パリィスラスト】がシャドウの体を突き破るほどの威力を叩き出し、シャドウのHPを一気に0まで持っていく事に成功した。
「はぁ、はぁ、はぁ」
少しだけ自分の中での不完全さを感じながらも特殊なスキル発動を生み出す事ができたリンカ。
HPゲージの減りもそこそこであるが力が抜けてしまい座り込む。
「すごい。おめでとー。できたね」
さきほど光の粒子となって消えたはずのシャドウはすぐに現れ、自分がされた事とは思えないような対応でリンカの両手を握りしめ、成長を喜んだ。
「あなた、本当、変な子ね」
「本来であれば、《時と補正のエリア》で取得したい必要なレベルまで、シャドウを倒してはレベル補正が現れ、そのレベル補正のシャドウを倒しては。っというのを繰り返すのだけれども、リンカちゃんの場合、心理的な問題と特殊なスキル発動の問題が大きかったからね、この点をクリアできたので私の役目はひとまず終了かな」
「心理的な問題って・・・。嫌なことばかり言われたのは、本当に必要だったのかしら・・・。最初はあなたへの嫌悪感がすごかったけれど、こうして私も特殊なスキル発動を得られた事を考えるとこ、感謝はしておかないといけない所かしらね」
「シャドウなんてそんなもんだよ。本体プレイヤーの成長の為に存在しているだけなんだから。プレイヤーの成長には痛いところをついて成長させて行くからどうしても好かれていかないんだよね。
それでどうするー?相方のシキちゃんは今の時間軸でいうと、今回得なくてはいけない課題をクリアしていく為にはもう少し、時間がかかりそうだよ。私達もシキちゃんペアと合流タイミングあわせていけるように、もう少しトレーニングしていく?」
「ええ。もし可能なら。特殊な発動スキルは明確な攻撃コマンドしてインプットされないみたいだから、発動感覚を忘れないようにしておきたいわ。その点を重点に付き合ってよ」
「うん、おっけー。それじゃ少し休んだ後にトレーニング再開していこういこう」
リンカにとって特殊なスキル発動を自分も使えるようになったという事実は、今までつっかえていた大きな何かがポロっと取れたように気持ちを清清しくさせた。
ただもちろんそれが一つクリアになるだけでリンカの心の霧が完全に晴れるわけではない。
明らかに自分よりレベルが低いはずのシキのプレイヤースキルポテンシャル。
レベルも相当上にいるマリア。
二人と比べると特殊なスキル発動ひとつ得たところで横並びになれるような気すらしなかった。
シキがまだ戻ってくるまでの間に時間があるのであればリンカにとってはありがたい限りの猶予だった。そこまでに、どこまで自分の中での納得感を持ってシキと合流できるかである。
リンカはシキと合流するその瞬間までの時間をここで使おうと決める。
次回は月曜日の19時に投稿します。




