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38話 ACT10-1

 時は遡りシキと思考コマンドによって空間別離したリンカ。


「あれ、シキ?」


『シャドウの出現のタイミングでパーティーメンバーとは空間別離いたします。お互いがシャドウを消失させる状態になると空間統合が行われます』


 呼びかけるとシキではなく、ナビゲーションが返答をしてくる。


「なるほど、とことん自分だけで集中しなさいってことね」


 シキと違いナビゲーションの説明をすんなり受け入れたリンカは早くもトレーニングモード全開で気持ちを切り替える。

 改めて見渡すと建物一つない。視界として確認できるのはリンカが立っている白い地面とその白い地面がが四方八方永遠と行き止まりがないように続く先。

 先が何もないその道をまっすぐ歩いていると、10mほど先で空間が歪み始め、現れるアバター。


「こんにちはー」


 そこにいるのはリンカと同じ姿をしたアバターだった。


「自分の姿をしている別の存在と話すのって違和感と嫌悪感が混在するのね」


「同族嫌悪ってことかな。同じ存在だから同人嫌悪だよね。もしくはそれ以上に本質的に自分自身をものすごく否定しているのかもねー」


 自分のシャドウにしてはやや甘ったるい喋り方するシャドウにリンカは突っ込みをいれる。


「あなたは私なんでしょ?なんでそんな変な喋り方なのよ?」


「うーん。なんでかなー。いつも強がっているリンカちゃんの本質はすごく甘えたがりの寂しがり屋だからかも」


 リンカが苦手とする天然キャラのような喋り方や動き方をするシャドウを見て、自分にこんな一面があるわけないと全否定したくなる気持ちがある。

 ただ、心のどこかでいつも見せていいる自分が強がっているのを認めざるを得ない。そう思ってしまう事もリンカにとっては癪に障る部分ではある。


「な!!、もういいわ。さっさとやるわよ」


 小剣を具現化させ相手の出方への様子見も兼ねてリンカは通常攻撃から始めていく。

 突きを仕掛けるが斬り上げで弾かれる。続いて右斬り下ろし、左斬り上げ、右横切り、左斬り下ろしと連撃するがそのすべてをシャドウから弾き返され前蹴りを食らい距離を離される。


「様子見攻撃は私には通じないと思うよー。私達シャドウは基本ステータスで本体であるリンカちゃんより高いから通常の真っ向勝負では勝てないよ」


「そう。それじゃ、遠慮なく通常の真っ向勝負を通り越した全力で行かせてもらうわ」


 リンカは距離を空けられたシャドウに再び近づき、一突きを入れ弾き返されたタイミングで、瞬時に空を切りつける波動【スラッシュ】でシャドウを切りつける。


「く!!」


 通常攻撃とスキル攻撃の連撃にやや遅れをとりダメージを受けるシャドウの動きをみて、スキル攻撃を連発していく。


「【ダブルスラッシュ】、【スラスト】、【ウォーターカッター】」


 スラッシュのダブル攻撃である【ダブルスラッシュ】と突き攻撃の大幅ダメージを与える【スラスト】を連続して打つけることに成功したリンカは、アクセサリー装備によって身につけたスキル、水の魔法攻撃【ウォーターカッター】をシャドウに打つけダメージを着実に与えていく。


「さすがはリンカちゃん。普通、意識しているか無意識なのかはさておいて、不可解な相手に対してそこまでなんの迷いもなくこれる人っていないのに。そういうところは自分に強いものね。ブレないね」


「そう、ありがと。褒めてもらっても特に得るものもないから、早くもっと強くなれる環境を用意して」


「そんな、自分相手に得るものないなんて、ひどい」


 シャドウは涙を拭うような素振りをしてリンカの反応を見るが、反応を伺ってシャドウがその行動をとっている事をお見通しのリンカにはもちろん通じない。私にこんな一面なんてあるわけないじゃない。と言葉に出さずとも威嚇して返す。


「それじゃ、もう仕留めに関わるよ」


「せっかち、リンカちゃん、では、これはどうかな?」


 シャドウはリンカの姿からシキの姿に変身する。


「私の姿で苦戦したからってシキの姿に変えてどうでしょうか?って、私よりシキのほうが強いって言っているみたいでムカつく」


「まあまあ、そんなこと言わないで」


 そう言った瞬間、【マジックアロー】を帯びた手刀で気の塊であるロングソードを作り出し突きを入れてくるシャドウ。

 その突きは確実にリンカを突き刺し、そのまま受けてしまうと貫通させるのではないかと思われるようなスピードだったが、リンカは寸前のところでロングロードの突きを小剣で弾く。

 自身は飛ばされながらも防ぐ事ができたが、そこからシャドウの猛攻撃が始まる。

 

 まるで先ほどのリンカがシャドウにしていた様子見攻撃を、逆にリンカが受けざるをえないほどのスピードで【マジックアロー】で作られた手刀のロングソードは猛威を振るう。

 四方八方から攻めてくる刃を弾くことが精一杯でリンカから攻撃仕掛けることもスキルを発動する間すら与えてもらえることはなく、ついにはシキの姿をしたシャドウが【マジックアロー】を宿した左の拳でリンカの脇腹にフックが入り、ふき飛ばされる。


「く!!」


 すぐに体勢を立て直し距離を測っていくリンカ。


「リンカちゃんは賢い人だと思うよ。行動のひとつひとつに自分自身で意味を見出していながら動いているからブレないのかもしれないね。ただし、それはただの割り切りとも言えるの。だからそこに感情が入ると自分の軸がブレ始める。今のこのシキさんバージョンもレベル補正は変わらずに属性だけが変わっているだけなのに。シキさんへの攻撃は心情的にしづらい?」


「何言ってんのよ?そんなことあるわけないじゃない」


「そう?単純に戦うには相性の悪いタイプなのかな」


 シャドウは今度はシキの姿からサラの姿に変身する。


「誰?」


「この子がサラさん。可愛い子だよね。シキさんが大事にしたい気持ちもわかるわかる」


 胸がズキッとしてしまったリンカの反応を読んでからの心理的な作戦だったのか、通常の矢を放ち、続けざまに確実に命中させる【フェイルノート】を放たれ、最初の矢を弾くことに成功したものの【フェイルノート】を受けてしまう。

 サラの姿をしたシャドウはその隙を狙うようにリンカを中心にしながら円を移動していくように矢を放つ位置を変え、【フェイルノート】、【ダブルショット】、【アローレイン】を連続して放っていく。

 【フェイルノート】で確実にダメージを与えられ、【ダブルショット】は弾いたりダメージを受けてしまったりとバラバラだったが、矢の雨を降らさる【アローレイン】においてはかなりの量を矢を受けダメージを受ける。


 【フェイルノート】、【ダブルショット】、【アローレイン】の繰り返しのスキル攻撃を受けて、ここでも防戦一方で弾くことしかリンカはできなかった。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 HPゲージも1/10のになるところまで減ってしまい次の攻撃を受けたらまずい危険水域まで至っている。


「リンカちゃんはシキくんが好きなの?」


「はぁ?何言ってるのよ?そんなわけないじゃない。ふざけるのも大概にしてよね」


「ほらほらー。すごい怒る。わかってるでしょ。今だって心理戦に負けたんだよリンカちゃんは」


「っるさい」


 シャドウの指摘を重々理解しているリンカ。

 自分がシキの事を好きかどうかなんて、自分が一番わかっていない。

 ただ大事な仲間であり、もしかしたら”あの人”の次、もしくは同じくらいに素直になれる人かもしれないと思っているのはわかっていた。

 その先に続く気持ちがどこにあるかは、、、まだリンカには見えていない。


「リンカちゃん、私も何もからかって言ってるんじゃないんだよ。

 リンカちゃんに心を許せる相手がいるって事が、AH(アストラルホライズン)内で取得できているリンカちゃんのデータから構成されている私からしても、ものすごく凄いって事はわかってるんだから」


 まるで貴方の事をすべてわかっているよ。と言われているようでシャドウを直視するのすら恥ずかしくなってくるリンカ。この子は一体どこまで、リンカすら理解して切れていない点を話続けるのだろうか?

 シャドウの言う通り、リンカは、器用なように見えていて器用ではない。感情に自分を支配されないように自分の中で深く考えすぎないようにする事と、深く考える事をうまく棲み分けるようにしている。

 そこをうまくできている点では器用なのかもしれないが、人との付き合い方に関しては極端な判断をしている分、失うものもすくないが得るものも少ない。

 リンカはそれが本質的にわかっているからこそ、心を許し始めてしまったシキはリンカにとって掌握できない存在であり、そのシキが自分よりも大事しているサラの存在にはさらに心をかき乱されてしまっている。なによりも悔しいのがシャドウにその点を指摘されてしまっている事である。シャドウが自分の分身ような存在でも性格も全然違う一つの個性として考えれば、他の人に自分の恥部を晒されているようで恥ずかしかった。


「・・・」


 恥ずかしい気持ちを抑えて何も言わずにシャドウを睨むリンカ。


「ごめんごめん。言いすぎたね。けど聞いてね。リンカちゃんが大事にしたいと思っているその人への気持ちを大切にしてほしいの。その反面、サラちゃんやマリアちゃんに対する複雑な思いも生まれてしまっているのは確かだよね?その気持ちを持って行き方次第でリンカちゃんの今後の成長に大きく関わってくるし、またその人とのつながりにも関わってくるの。だからまずは自分の気持ちを受け入れてあげる事から始めてあげてほしいの」


「わかったわよ。あなたとやり取りしている以上、私は辱められるのね。もう遠慮して言葉を選ばなくてなもいいわよ。結局何が言いたいの?」


 これから言われる事が朧げながらにわかっているリンカではあるが吹っ切れたようシャドウに応える。

 そんなリンカを見て、ニコッと笑顔になり深呼吸して言葉を放つ。


「リンカちゃんが一皮向けて成長するために知らなくてはいけない言葉は、情熱と嫉妬ね」

強化パート、クライマックスに近づきます。

次回は月曜日19時に投稿します。

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