37話 ACT9-6
「らしくない攻撃ですね。自分より強いレベル補正かかっている相手に正面衝突でぶつかってくるなんて」
シャドウは再びHPとMP回復薬をシキに投げ、受け取ったシキは飲み干す。
「だからこそだよ」
「遊んでみたかった。ってことですか?」
「そんなところだな」
半分本当で、半分嘘である。いくら自分のデータを丸々インプットされ、レベル補正されてアウトプットしたシャドウとはいえ、シキは、自身のプレイヤースキルの特異性を持っているプレイヤーである。そこにやや期待して見たかった。そしてその期待に関しては、半分合っていて半分間違っていた。
シキのプレイヤースキルを持ってしてもシャドウのレベル補正を上回るものではなかったが、近接戦闘の出し手は、常にシャドウのほうが後手なのはわかった。
当初シャドウの動きが後手なのは、余裕の表れと思ったが、殴り合いでいくら一つ一つのダメージがシャドウのほうが大きいとはいえ、一回一回の攻撃の先手はシキにある。
つまりこの戦いにおいてシキが勝てる可能性があるとすれば、やはりプレイヤースキルか戦術面である。シキをデータではとれていないと判断できるプレイヤースキルを活かした攻撃。戦術においては、その場限りである事も多く、今回のようにトレーニングを目的としている場合は、勝つことだけが目的ではないため有効ではない。最初の時に鉄仮面を倒したにも関わらず鉄仮面で2度目の戦いを望んできたのが、戦術面における勝利をカウントしないとしているシャドウの考えが何よりも伝わっていた。
自分の魔法攻撃力を上昇させる【魔法攻撃力上昇】
敵の魔法攻撃の威力を軽減する【マジックバリア】
半径5m以内に仮装魔法陣を展開し、陣内で魔法攻撃を行った場合威力が増加する【マジックスクエア】
再び最大出力へ。
「シキさん・・・。最大出力の連発はお勧めしませんよ。体調ゲージが下がるだけではなく後々にも影響を及ぼす可能性があるのは知ってますか?はやくクリアしたいはわかりますが何をそんなに焦っているんですか?」
正攻法で戦って正攻法で敗れて、そして回復して段階的にレベルアップの踏んで正攻法で戦う事をすべきだと思っているシャドウ。シキの今までの攻撃パターンや戦略が何かを焦っているように見えていたのだろうか。
「これが俺の正攻法なんだよ」
そう言った瞬間、シキは最大スピードでシャドウに迫る。まるで先ほどシャドウに【マジックアロー】を宿した右拳で正拳下突きされたのを再現するかのようにシキはシャドウのみぞおちを狙う。
しかし、シャドウはそれを見切っていたかのように両腕をクロスしシキの攻撃を防ぐが、追撃で【マジックアロー】を宿した左拳でストレートを打つける。正拳下突きの防御で腕を取られたシャドウを左拳のストレートが見事決まり吹き飛ばす。
ここでシキは瞬時に次なる攻撃をシュミレーションする。
スキルを発動しない近接戦闘においてはダメージが小さいため後手に回るシャドウの応酬が返ってきていたが、スキルを発動すると防ぐことが優先され応酬は返ってこないようだ。
ただし今のシキはステータス補助スキルを発動しているため、最大出力時のスキル発動においての条件限定である。シャドウのレベル補正をシキの最大出力は上回っていた。
だがこれも2度目は効かないだろう。シャドウも特殊なスキル発動をぶつけてくれば、シャドウの攻撃力が上回るか、よくて相打ちの可能性が高い。
今、攻撃を受けて吹き飛んでいるシャドウに対して、次に打つける攻撃が最大のチャンスである。
最大出力から、特殊なスキル発動【マジックアロー】でのダメージは、与えられど決定打ではない。
そしてそれを【ファイアーボール】に変えたところでダメージの量こそ増やせど、ちろん決定打にならない。最悪、次はシャドウ自体も特殊なスキル発動をしてくる可能性も否めない。
もっと強大な力を放つスキル発動。
マリアが使っていた【エクスプロージョンダガー】と【ダガースロー】を組み合わせた【エクスプロージョンダガースロー】。
【マジックアロー】と【ファイアーボール】を組みあわせた【ファイアーマジックアロー】の発動。
シキの右拳がいままで見たことない炎と気が入り混じった大きな唸りを宿す。
これしかない。
シキは【ファイアーマジックアロー】を宿した右拳を携え、吹き飛んでいるシャドウに向かって走り始める。
そしてこの瞬間、今までのシキのシュミレーションからスキル発動するまでの”間”がシキの実感よりも”時間”が立っていないことに気がつく。
これは一体・・・。
プレイヤースキルなのか新しいスキルなのか。
瞬間移動でもないこの動きは、相手側のシャドウからしたら瞬間移動にも似たように映るのだろうか。
シキは最後で最大の一撃を放つこの瞬間ですらそのような事を頭によぎらせながらシャドウに右ストレートを打つけに行く。
「【ファイアーマジックアロー!!】」
攻撃に対してシャドウもできうる攻撃の返しが、凍結状態を起こす氷のスキル発動【フロストボルト】を宿した拳だった。
「【フロストボルト!!】」
二つの拳と拳がぶつかり合う。
二つの大きなスキルの塊を宿した拳と拳の打つかり合いは、その拳を纏うスキルとスキルが押し合うような状態で唸りあっている。
「う、らぁーーーーーーー!!」
シャドウの【フロストボルト】をかき消し、そのまま【ファイアーマジックアロー】の塊が拳と共にシャドウに打つかりかつてないほどの衝撃でシャドウが吹き飛ばされていく。
このとてつもないスキルとスキルの組み合わせにさらにシキのプレイヤースキルを活かした特殊なスキル発動を超えたスキル発動によってシャドウとの長きにわたる戦いに終止符を打つにふさわしい一撃となった。最大出力を短期間に発動したことを相まってシキも吹き飛ばしたシャドウの行く末を見ることなく意識を失って倒れてしまう。
「・・・・、目が・・たかい?」
ふと目を覚ますシキ。うつ伏せで倒れていたシキが顔を上げると、自分と同じ姿をしたシャドウが立っている。起き上がろうにも体が言うことを効かず最大出力一回目の時よりもさらに重たくなり、身体中が痛む、全身筋肉痛のような感覚の中、無理矢理体を起こすが立ち上がれず、一度四つん這いになるがそのまま仰向けに寝転がる。
「もうこれ以上は無理だーーー。またお前レベル補正して登場してきたのか?」
「いえ。《時と補正のエリア》のプログラムが今回のトレーニングを完了とみなしたようです。レベル補正もされず戦闘モードにならない僕になりました。今の僕であれば非戦闘プレイヤーと一緒ですから瞬殺ですよ。これを機に今までの無礼の報復としますか?」
「いやいや、そんな事俺がすると思ってんのかよ?全然俺の事わかってねーシャドウだな」
「冗談ですよ冗談。それよりもクリアご苦労様でした」
横たわるシキの隣に座るシャドウ。精神攻撃も含めたトレーニングをやりきったシキに対して心から祝福しているのか、今までとは少し違うリラックスした笑みだった。
「そんな顔するんだな」
そして何か寂しそうな表情も混ざっている。
「そうですね。僕らの存在はいつの時も本体プレイヤーの成長の為に存在しますから。そのミッションを終えればお役目御免です。人の気持ちを理解できないダメな生徒をしっかり指導して成長させて送り出す先生の気分ですよ」
「なんだそりゃ」
二人は軽く笑い合う。自分と同じ感覚を持っているが自分とは違うもう一人の自分を改めて主観的にも客観的にも捉えると不思議な感覚である。同じデータをもちながら本体とシャドウではその存在価値があまりに違う。自身の成長の為に通過点でしかないシャドウや《時と補正のエリア》。
片や自分の本体が《時と補正のエリア》で過ごす時にしか存在しえないシャドウ。
シキは語らずともシャドウという一つの存在をしっかり認知し、そしてリスペクトをしていた。
「シキさんが動ける状態になったらこの空間と僕の存在を消しましょう。リンカさんとの合流を待ってコテージでゆっくり休んでください」
「あーそうだな。な、シャドウ」
「なんですか?」
「またくるわ」
「また、自分に至らない時、短期間での成長を求めた時にきてください。今回のが緩いと思うくらいに扱いてあげますから」
仰向けに寝ているシキの隣に座っていたシャドウは、その表情をシキがいる方向とは逆の方向に向けて返答をする。
「またな」
シキが思考コマンドでシャドウとのトレーニング終了を選び、二人の空間がなくなりコテージがある空間に戻っていく。そこにはもちろんシャドウはいない。
VBCの発達によって人間以外の人間たらしめる存在がこれからも増えて行くのは間違いないだろう。
ただし人工的に作られたその存在達は、ほとんどが人間達の役に立つための存在価値でしかない。
その事自体は感謝すべきことであるが、やはりその存在に感情があると一緒に過ごした時間があればあるだけ別の感情が生まれてくるのは自然な事である。シキはその思考に不思議な感覚を覚える。
まだリンカがいないのを見渡して判断した後、そのまま目を閉じもうしばらくの休息をとる事にした。
次の月曜日の19時に投稿します。




