36話 ACT9-5
自身の魔法攻撃力を上昇させる【魔法攻撃力上昇】
敵の魔法攻撃の威力を軽減する【マジックバリア】
半径5m以内に仮装魔法陣を展開し、陣内で魔法攻撃を行った場合威力が増加する【マジックスクエア】
シキは最大出力でバトルに臨む。
先ほどの鉄仮面との戦いでは、戦術面を生かした攻撃だったのもあり、さらにレベル補正された鉄仮面との間に戦力差がついてしまっている事を考えると、ここでは真っ向勝負で当たったほうがいい。
鉄仮面の姿をしたシャドウもその事を察したのか、最初から全力攻撃を仕掛ける。
【瞬間移動】。
目の前で消えたシャドウが背後から【波動】をぶつけてくる。
全神経を集中させたシキは、シャドウが消えた瞬間に、まだ現れもしなかった背後に向かって振り向きざまフルスイングで【マジックアロー】を宿した拳の右フックを打つける。
見事シャドウが放つ【波動】とぶつかり、衝撃で二人の距離が離れるが、すぐさまシャドウは【瞬間移動】と【波動】の攻撃を繰り返す。
シキは本能のみでシャドウの【瞬間移動】&【波動】の攻撃に【マジックアロー】を当てる。
ぶつかった衝撃で次なる【瞬間移動】をシャドウがするも、【マジックアロー】を宿した左ストレート、左横蹴り、右バックエルボー、すべてでシャドウに【波動】と打つけていく。
そしてついに右エルボーのタイミングで、【波動】よりも、トップスピードで【マジックアロー】が上回った。
シキはこのタイミングを勝機と見極め、シャドウが次の【瞬間移動】を起こす前に、左手で【ファイアーボール】の塊を投げつける。
シャドウは次なる【瞬間移動】に間に合わずダメージを受ける。続けざまに【ファイアーボール】を宿した拳の右ストレートに渾身の一撃を込める。
シキの連撃に【瞬間移動】も、避ける事も、【波動】を出す事も、間に合わないと踏んだシャドウは腕をクロスし完全に防御の姿勢で受け止めるが、大きくダメージを受ける。
シキはこのダメージをシャドウに与えられた事で完全なる勝機を見出し、さらに手を緩める事なく【ファイアーボール】を両手両足に宿し左ミドルキック、その流れで後ろ回し蹴り、左フック、右アッパーとシャドウを連続攻撃し一気にHPゲージを0まで持っていく。
そしてシャドウは光の粒子となり散っていった。
すべてを出し尽くしたシキは体調ゲージを下げてしまい全身に動悸が起き、思わず立っていられず態勢を崩す。
「はぁ、はぁ、はぁ」
AHは特殊なゲーム仕様が組み込まれている。
本来VBCヘッドセットで生み出されるアバターは、実体のように疲れたり肉体疲労を起こしたりすることはないが、AHでログインしたプレイヤーには、ゲーム上で遊ぶためのステータスが割り振られる中に、体調ゲージが組み込まれていて、体調ゲージにあわせて実体と同じ症状を体感するようになっている。
すべての実体における不具合をなくした理想を求めるアバターにおいてゲームの世界とはいえそれが必要なのかと言うのはシキの中でいつも違和感に覚えるところではあった。
特に体調ゲージを大きく崩す時が敵から状態異常の攻撃を食らうか最大出力を使った時である。
スキル発動に関しては、明確なクールタイムと呼ばれる次のスキルを発動するまでに間を置かなくてはいけない時間帯が提示されているわけではないのだが、このように補助スキルをすべて使い切り、スキルの間を設ける事なく連続で発動する時には、クールタイムがない代わりに体調ゲージを消費させるかのように一気に体調ゲージを減らして肉体疲労に近い体感に襲われる。
「すばらしいですね」
光の粒子となって散って消えた鉄仮面の姿をしたシャドウが再び現れる。
「エンドレスバトルだな」
心のどこかで、このタイミングの鉄仮面を全力で潰してリアになってくれればと期待していたシキだったがその思いはものの見事に打ち砕かれる。
シャドウから再び渡されてたHPとMP全回復薬を飲み回復させるが体調ゲージにおいてはその限りではない。
そもそも《時と補正のエリア》に入ってからどれくらいの時間が経っているのだろうか。
《時と補正のエリア》の中でもリンカと空間を分けられてから、さらに時間の経ち方について全然把握ができていないシキ。
ものすごく長い時間を過ごしているような気もすれば、もしかしたら全然時間を過ごしていないのかもしれない。
そして期間を決めている以上、時間にあわせて永遠に続くものなのか、自分が求めている領域に至るまでのものなのかすらもわからなくなってきた。
「はい、エンドレスバトルです。シャドウである僕は、常にシキさんにとって無理をしないと勝てないレベル補正でいつでも現れますからね。どこかでクリアなるものがあると思っていました?」
「そのまさかで思ってたよ」
重い体を気力で振り切るようにシキは構えに入りバトルを始めようとする。
「最大出力で行ってしまいましたもんね。逆に言えばそれくらいで攻めないとさきほどの僕に勝てないと判断したのは正しいとは思います。
鉄仮面さんを戦術ではなく真っ向勝負で倒したシキさんに、これ以上鉄仮面さんで攻めても面白くないですし、それではそろそろラスボスといたしましょうか」
シャドウはここで初めてシキの姿になる。
完全に自分と同じ姿の人間、ここではアバターであるが、同じ姿の対象を鏡の中で見ているのとは、実際目の当たりにするとでは、ここまでに嫌悪感が変わってくるのだろうか。
自分という人間を完全に客観的に見れる感覚と、同族嫌悪という言葉が本能的であると感じてしまうような嫌悪感。
「最後のラスボスは、どこまでいっても自分の最大のライバルである自分って事だな」
「うまいこと言いますね。どうも初めまして僕です」
挨拶と共にシキのすぐ傍まで迫ってきたシャドウ。これは瞬間移動ではない。
自分自身の移動スピードを最大限に高めて目の前までに現れたシャドウは【マジックアロー】を拳に宿し、正拳下突きをシキのみぞおちに中の食い込むほどに打ち込み、吹き飛ばす。
「ぐは!!」
受けた衝撃で吹き飛ばされるほどの攻撃力を、さらにみぞおちへ受けたシキに襲われた痛みは想像をはるかに超えていた。
「すごいでしょ?いままでこんなすごいスキルで攻撃でしてたんですよ。
今回でいうと、さらに僕はシキさんのデータをフル活用して、みぞおちにピンポインで狙わせていただきました。どうですか?自分の特殊なスキル発動の攻撃は?」
「【ファイアーボール】」
シャドウとの間に距離が開いてしまったシキは【ファイアーボール】を放つ。
シキの【ファイアーボール】に対して同じ【ファイアーボール】を打つけてくるシャドウ。
レベル補正がかかっているのもありシキの【ファイアーボール】を吹き飛ばしそのままシキに迫る。
シキは【マジックアロー】を宿した拳でシャドウの【ファイアーボール】を殴りつけ消しさり、その勢いでシャドウのところまで走りぬけ、飛び膝蹴りシャドウの顔面に打つけるがカウンターで左フックをシキに右顔面に浴びせる。
再び双方が距離が離れるもシキはすぐさま接近し左フックをシャドウに打つけ、殴られた反動も使ってシャドウは右フックをシキに打つける。
もはやそこからは戦闘と呼ぶにはチープな、スキルも待ったく使わない殴り合いが始まった。
シキの右フックに右フックで応酬するシャドウ。左フックには左フック。右ストレートを同時に放ち同時に食らう。ただレベル補正がかかっている以上このやりあいはシキにとっては不利なのはわかっていた。
これ以上はHPが持たないと判断したシキは前蹴りをシャドウに入れて距離を離し、自身もバックステップで距離をさらに離す。
何か策を練らないとこのままでHPをジリ貧にして負けてしまう。シキの中でいろいろな戦術を思い巡らせる。
次回は月曜日の19時に投稿します。




