35話 ACT9-4
シャドウにHPとMPの全回復薬を渡されて飲みほすシキは万全な状態に戻る。シキが万全な状態になったのを確認した後、サラの姿をしたシャドウはシキとの距離を保ち矢を放つ。
放たれた矢を当たる寸前のところで弾くシキ。引き続き矢を放ち続けるシャドウにその矢を弾き続けるシキ。シャドウは【アローレイン】を放ち矢の雨を降らすが、シキはウィザードの魔法防御スキル【マジックバリア】を発動しそれもすべて弾き飛ばす。
「あれ?さきほどとバトル戦術が変わってきていますね。僕のお話の影響があったととっていいんでしょうか?」
「あれだけボロカスに言われれば思うところあるだろ。ちなみに先に言っておくが、俺は姿形だけとはいえサラとは戦うつもりはないぞ。そして防御に最初から徹するならばそこまで攻撃を受けない自信もあるしな。」
「なるほど。戦術の意思表示もしてしまうわけですね。シキさんの心をかき乱す作戦はもう通用しないわけですね」
「そういう事だ。俺はもう今、お前、シャドウがサラの姿をしている事から得るものは無いと思ってる」
すべてはシキの成長への伏線なのだと理解はできてきた。シャドウは、その対象であるマスタープレイヤーの成長になる事をすべて行い、逆に言えば成長につながらない思うことは一切しない。
だとすればシャドウがサラの姿をしている事に対するシキへのメッセージは先ほどの説教とバトルにおける油断に尽きると思われる。
だからこそサラの姿をしたシャドウと戦う意思表示が無い事を先に示しておく必要がシキにはあった。シャドウの何も言わずにサラの姿からリンカへと姿を変える。
「では、次はリンカさんでいきましょうか」
リンカの姿となったシャドウは小剣を右手に持ちシキに接近して攻撃を仕掛けるが、シキは【マジックアロー】を手刀で気の塊でできたロングソードとして生み出し、小剣を振りかざしてくるリンカの攻撃を受けていく。
小剣の右、左、斜め、突きを細かくも素早い攻撃をすべて手刀のロングソードで受け流していく。
「リンカなら接近戦で余裕なくなって防御一辺倒は無理と踏んだか?それともまたリンカを通して説教でもあるのか?」
シキの指摘にリンカの姿をしたシャドウはニヤけた表情を口元に含みながらも攻撃を続けてくる。
「【スラスト】」
ソードマンの突きの小剣スキルを手刀のロングソードで受けるシキは少しだけその衝撃で後ろに飛ばされる。
「シャドウ。俺は仲間の姿をしている限り、お前とは戦わないぞ。防御をしつづけるだけでも経験値が溜まっていくのもわかっているしな」
「心理的な成長によってここまでバトルに余裕を持てるようになるとは恐れ入りました。シキさんは僕、いやAHで持っているデータ以上の何かを持っているかもしれませんね。おっしゃる通りリンカさんを通しても伝えたい事があります」
「ってかなんで登場人物への変身にあわせて語ってるんだよ。それ必要か?」
「必要です。先ほども言いましたが僕らシャドウは、データ参照してアウトプットすることでそのデータの具現化、アバターができるんです。ただどこまで行ってもAHの中で得たシキさんを主体としてみたときのデータにはなりますが、シキさんとリンカさんのやりとりのプロセスから得た情報を我々が解析して、あの時のリンカさんはの気持ちはこうだったのだろうと汲み取ってアウトプットしています」
「どうも違うってわかっていてもその姿をされていると本人に言われているようでリアクションに困るんだよな。ってかお前さっきみたいに悪ふざけはするなよ」
「そういう狙いもあります。ちなみに悪ふざけってこれですか?」
そう言って再びリンカの姿でも自分の胸を揉み始めるシャドウ。
自分から言ってしまった事に後悔しつつもここでキレて攻撃してしまっては先ほどの二の舞である。
そして、この場面をリンカに見られたらまたビンタを喰らいそうである。
「お前、どこかで一回しばく」
「大丈夫ですよ。本人には気付かれてませんから」
「そういう問題じゃねーだろ」
「あはは。でも先ほどみたい怒り狂って攻撃してこないところはさすがですね。同じ事がなんども通用するよう人ではないですね。
失礼。さてさてリンカさんですが、お付き合いが短いようなのでわかっていないところも多いでしょうが、シキさんとリンカさんは似てますよ。
ご自身でも気づいているところはあるかもしれませんが。違うところはシキさんと違って自分から逃げてないところですね」
「ほっとけ」
「あと、シキさんよりは気性が荒いですね」
ついつい笑いそうになるシキだったが、「わかってんじゃん」と言いたくなる気持ちを抑えた。
後ですぐ合流するリンカに今のやり取りをログとして共有されるかもしれないので、リアクションは我慢しておく。
「それで、天邪鬼同士の俺らの関係を考えて俺から素直になれって?」
「それは時と場合によりますね。知っておいてほしいのは、シキさんと同じタイプでありながら"戦っている"んですよ。すべての事に。それが何を言いたいかわかりますよね?」
「自分だったらってことを考えろってことだろ?わかってる。
俺は特にリアル世界では面倒事を避けていたしな。
リンカとは大違いだ。またリンカは特に自分の事をそんなに話したがらないしな。
俺に対する信用もまだそこまでできてないんだろうな」
「わかってるじゃないですか。すばらしい。でも時間と共に信用も得られているはずです。覗き魔から始まり同じ目的を目指す仲間となり、その目的を果たすために共に努力している仲間にまでなってきているので」
「最初の覗き魔の言う必要ないだろ?」
「あはは。ハプニング大好きですね、シキさん」
「いやいや、俺、狙ってねーし。とにかく、リンカに対しては自分と似ているとしっかり自覚した上で信用を勝ち得てリンカの心の中にある思いを話してもらえるようになれってことだろ?そんなの言われるまでもねーよ」
「そうですね。サラさんよりはリンカさんの事のほうがわかっているかもしれませんね」
そう言ってシャドウはリンカの姿からマリアの姿へと変身していく。サラよりもリンカのほうを理解していると言われたことに違和感と反論の気持ちがあるが、それこそサラと重ねてきた時間や自分の事をサラが理解してくれているからと思っている奢りなのだと指摘されるような気がして反論はしなかった。
「それで、仲間変身オンパレードの最後はマリアか。マリアとも戦わないのはわかっているよな?それでも攻撃を仕掛けてくるか?」
その瞬間、目の前に消えたマリアはシキの背後に周り背中に短剣を差し込んでくる。
「これがアサシンのスキル、【バックキル】ですよ。自分の意思を固めて戦わないのを決めこんでもこういった不意打ちを喰らったらどうするんですか?自分の信念を通して死にますか?」
不意打ちの攻撃に倒れこむシキ。出血状態も付与されていてHPゲージがどんどん減っていく。
再び距離を空けるマリアの姿をしたシャドウは【エクスプロージョンダガースロー】を投げつける。
避けるのが難しいと判断したシキは【マジックバリア】で防御力を上げ、【マジックアロー】の拳を【エクスプロージョンダガースロー】のダガーみぶつけて爆発のダメージを最大限に防ぎたがったが、ふき飛ばされる。
ふき飛ばされた先にすでにマリアの姿をしたシャドウは待機している。HPゲージが赤ラインまで下がっていて減り続けているシキにHPとMPの全回復薬、状態異常回復薬を渡す。
渡されたHPとMPの全回復薬、状態異常回復薬を飲みほし万全状態になったシキはシャドウと距離を再び空け、緊張状態を保ちながら構える。
「完全に舐めてた」
「仲間の姿をしているだけで攻撃できないなんて、本当に仲間と戦わなければいけない場面がきたらどうするんですか?」
「俺が甘いのはわかってる。ただ本能的に本気で攻撃できねーんだよ。仲間と戦わなければいけない場面なんかこないだろ。もしそうなったとしても俺は全力で説得する」
「甘〜い。甘いですよシキさん。最強レベルを保有しているわけではないんですよ。一個一個の戦いに苦戦が強いられるんですよ。その甘さがどこまで足をひっぱるかですね」
「そこも俺の”器”を大きくするために必要なトレーニングになるってことか?」
「必要な事だとは思いますが、今回は大丈夫です。どれだけボコボコにしても頑なに防御しつづけそうですしね。ただ覚えておいてください。自分の考えの甘さと戦わなければいけない時が来た時にどうするのか?ってことをですね。そしてマリアさん。マリアさんこそがシキさんの考えの甘さの反対にいる方ですよ。マリアさんは自分の信じた信念の元に達成する目的の為には手段を選ばない」
「その通りだな」
「そのマリアさんとの共同戦線がシキさんに何をもたらすかですね」
「サラの時に比べるとリンカもマリアも含みばかりだな」
「当然です。本来は自分で考えて自分で答えを出していくのが成長なのです。
周りの人はそのキッカケ作りをしていくにしか過ぎません。その役割の務めが相当重要な私ですらすべての答えを出す事がいいとは限りません」
「そもそも答えを決めるのを俺だしな」
「そういう事です。サラさんリンカさんに関しては、あまりにシキさんが判ってなさすぎたので伝えておくことにしました」
再びシャドウはマリアの姿から鉄仮面の姿へと戻る。シキの”器”を大きくするために必要な話はすべてできたのか、シャドウは鉄仮面の姿になった途端に戦闘モードを一気に高めていく。
シキもシャドウの考えを汲み取ってさらにバトルモードに意識を集中させていく。
「鉄仮面できてくれれば俺は全力でお前をぶちのめせるよ。いままでもお説教への感謝も込めて全力で行かせてもらうわ」
次回も月曜日19時に投稿します。




