34話 ACT9-3
シャドウは意味があって鉄仮面とサラの姿に頻繁に変身している。
特に鉄仮面は、シキにとってのAHにおける最も自分の力の無さを痛感させられた出来事を思い出させる嫌な存在である。
シキはサラを救い、リンカやマリアの助けになり、帰化プレイヤーも問題を解決すると共に、鉄仮面を倒す事も視野に入れている。その感情が、ただの復讐としての意味合いではないと思っているからこそ、今までその点を誰かに共有することもなかった。
シャドウはそんなシキの奥底の心理を理解している。
シキもまたシャドウが自分の心理を読んでいるのだろうと思った。だからこそシャドウの話を聞き入れることにした。
「俺とサラがなんなんだよ?」
少しの間をおいてシャドウが話し始める。
「シキさんは、
負けず嫌いです。ただの負けず嫌いならいいですが負けたくないから戦わない傾向にあります。つまり勝てる戦いしかしないのです。つまり陰険な奴なんですよ。
自分と同じ価値観を人に求めてる傾向にあります。
それは人であれば誰もその傾向はあります。だけど人より異常にその思いが強いです。
同じ価値観を求めない人を遠ざける傾向にあります。つまり許容力が全くない奴なんですよ。
結果、人との交流が減って今のシキさんが出来上がるわけです」
「ちょっと待て待て待て。俺とサラの話をするって言ってからの開口一番が俺を完全にディスってるだけだぞ」
「はい。まずはシキさんは、自身が人や環境に対して相当穿った見方をして距離を置いて生きている人なんだと自覚してほしいのです」
「ま、まー、話のくだりを考えれば意味がある内容を伝えられているんだと自分に言い聞かせて一旦我慢しておくわ」
「ありがとうございます。でもしょうがないですね。それがシキさんなんです。
そんなシキさんの唯一の理解者がサラさんだったんです。
そのサラさんですら、シキさんは遠ざけ始めてますね。たしか中学校入った時からですよね。
キッカケはそう、些細な事にしか過ぎなかったと思います。
ドンドン人気が出てくるサラさんとドンドン人から孤立するシキさん。
そんな自分を受け入れられなかったシキさんは唯一の理解者であるサラさんとも距離を置き始めるのです。シキさんの負のスパイラルが始まるわけですね。」
「本当に俺の”器”を多くするために必要なんだよな?」
ものすごく恥ずかしい点を指摘されている事にやや耐えられなくなってきたシキは再びシャドウに確認をいれる。
「もちろんです。そんなサラさんが改めてシキさんと接点を持とうとキッカケ作りをしたAH。
しかもシキさんの言い訳作りに合わせるために、あえてVBCヘッドセットではなくホロジェクターグラスを使ってのログイン。
でもそのホロジェクターグラスのログインが結果、シキさんがこのAHで異端の存在として認識され、サラさんが巻き込まれたわけです」
「お前、帰化プレイヤー問題の事を言っているのか?」
「はい。今、AHがおかしな状態になっているとは、我々シャドウサイドも気づいています。段々と他のNPCはまだ気づいてきています」
「どこまで、何を知ってる?」
起き上がりシャドウに食いつくシキ。
「すいません。異常な事が起きている。という事しかわかっていません。帰化プレイヤーという存在とプレイヤー狩りによる帰化プレイヤーの増殖。
帰化プレイヤーしか存在しなくなったAH。
それは僕らシャドウからするとNPCしかいない世界と一緒なんです。
人が理想を求めてくるからAHの世界は希望に満ち溢れているのです。
そしてそこで得た経験を元にリアル世界の成長に活かしてほしいのです。
帰化プレイヤーの存在は、成長を願う僕らシャドウの考えを否定しています。
そしてシキさん達が、帰化プレイヤー増殖に一矢報いる為の準備期間として《時と補正のエリア》に来ている事はまでくらいしかわかっていません。
だから僕はここでシキさんに伝えていなかなくてはいけないのです」
「ホロジェクターグラスがキッカケになったっていう事も俺はまだちゃんと理解していないんだ。そうかもしれない。とは思っていただけで」
「たしかにそうですね。僕が持っているデータ情報だけでお話しするとシンプルですがホロジェクターグラスでAHにログインする人はもう存在しないはずでした。
互換性は残っていたものの、いうなればVBCヘッドセット用に改修がほどこされているAHにおいてホロジェクターグラスでログインしてくるプレイヤーには色々な不整合という名のバグを与えてしまって活動できないはずなのです。
どういうわけかそのバグはシキさんには適用されなかったどころか、シキさんのプレイヤースキルに影響を与えフラグを立ててしまって特殊なスキル発動が生み出されています」
「特殊なスキル発動を俺が生み出してしまったから、俺は狙われてサラも巻き込まれたのか?」
「はい。帰化プレイヤー増殖計画に関してはシキさんがホロジェクターグラスでログインしようとしまいと関係ありません。
彼らの計画上、不具合にシビアになっていた時期にシキさんの目立つフラグが彼らの目に止まってしまって、そこに居合わせたサラさんが巻き込まれた。というだけです。
また色々と話をしていますが、シキさんがホロジェクターグラスでログインした事は結果論ではありませすが、僕らにとってはよかった事だと思えています。
シキさんの存在がなかったら、帰化プレイヤー問題はもっと事が深刻になってから気づくはめになり、その時にはもう手遅れになっていたかもしれなかったからです」
「そうか・・・。俺としては複雑な気持ちが入り混じってなんともコメントがしづらいな。結局シャドウ。お前が俺に言いたい事はなんなんだ?」
成長する為に内面で解決しなくてはいけない問題を提示されたところまでは理解できたが、その為に人との距離を置かなければいいだけなのか、そこにサラがどう関係しているのかが、いまいち見えてこない。
シキがAHにログインしたくない言い訳の材料として使っていたリアル世界にアバターを具現化させるVBCヘッドセット。
そのいい訳を打破するためにAHにログインできるホロジェクターグラスの存在が結果としてシキに特殊な状況を作り出し、サラは巻き込まれてしまった。
ただし、帰化プレイヤー問題の早期発見にもつながった。
シャドウ及びAHのAIが望む、理想を求めてAHにやってきて満ち溢ふれた希望を手にしたプレイヤー達に、得た経験を活かしてリアル世界での成長に繋げてほしい想い。
その考えを否定するような帰化プレイヤーの存在と戦う為に《時と補正のエリア》に訪れたシキは、シャドウにおいて自分達の意思を託すタイミングとしては最適だったのだろう。
帰化プレイヤーとの戦いに身を投じていくために必要な心技体を得る必要なプロセスがこれから発言されるシャドウの言葉には込められていた。
「はい。シンプルです。その捻くれ精神をこのタイミングを持って卒業してください。
サラさんと向き合わなくはいけない時、素直に向き合ってください。
そしてこれから為すべき事を為さなければいけない時に、一緒に行動するリンカさんやマリアさんともしっかり向き合ってください。
自分の事を大事に思ってくれている人の気持ちを理解できる人になってください。
そのシキさんの行動がきっとサラさんを救う事につながります」
「あ、ああ・・・」
「人と価値観が違う事を受け入れてください。そしてすぐには理解できなくても時間をかけて理解しあっていくのです。
もちろん全員じゃないです。自分を大事に思ってくれている人に対してです。
人が一緒にいるには体裁が必要なんです。サラさんがシキさんにしてあげたように。
サラさんに十分甘えてきた分をリンカさんマリアさんへの助けとしてあげてください。
助けるための体裁を自ら作ってください。
そしてサラさんが戻ってきたらサラさんにもしてあげてください。
その想いがシキさんの”器”を大きくし成長しレベルアップと共に進化に結びつけるはずです」
「ま、まー努力してみるよ」
「素直でないところはこれからですね・・・。話が長くなりましたが、人に対しての作っている距離感をまずは身近な大切な人の前で、少しづつ無くしていければ大丈夫です。少しづつ、少しづつ成長してもらえれば」
そう言ってサラの姿をしたシャドウの笑った顔は、シャドウを通してサラが本当に言っているようにシキには見えた。散々ダメだしされ説教された場面だが、サラの思いもデータとして汲み取ってシャドウが表現していると思えば、少しだけ素直に聞き入れられる。
シキの表情を見て心理的な成長につながったと確信するシャドウはシキを起き上がらせて少し距離をとり始める。心理的な成長がシキにもたらす影響を試さんとばかりにバトルモードに入る。
「それでは、気持ち新たなシキさんが一体どんなバトルをサラさんと繰り出すのかを楽しませてもらいますね」
次も月曜日の19時に投稿します。




