40話 ACT11-1
マリアがイース支部ギルドマスター暗殺に失敗する。
当初、マリアと新旧ギルドマスターの実力が互角という想定はものの見事に外れ、マリアは逆に旧ギルドマスターにキルされてしまう。食い止めるはずのシキも新ギルドマスターにキルされ、二人とも帰化プレイヤーと化して、挙句の果てにシキ自身がリンカにも手をかける・・・。
そんな夢を見た。
ふと目が覚め、暗闇の中、空間別離から戻ってきてそのまま意識を失って眠りについていたはずのシキは、自身がベッドの上で寝ている事に気がつく。本来であればVBCヘッドセットで生み出されたアバターの状態で眠りに着くこと事態がおかしな話であるが、実体に戻れない以上はアバターの状態のまま眠りにつくという不思議な感覚。
AHでの事件が発生してから何度もアバターで眠りにつく事はしてきたが、改めて今回のように体調ゲージを大きく落とした状態での眠りはいっそう不思議な感覚だった。けだるさと睡魔に襲われて深い眠りにつき、起きた時にはそのけだるさから解放されている。まるで実体と変わらないこの感覚をなんのためにわざわざアバターで得ているのだろうか。
そんな事を思いながら仰向けに寝ていた体を横に向けるとそこには、同じく横を向いて寝ているリンカと顔をあわせることになる。
はて・・・??
シキの中で無数のクエスチョンが浮かび上がる。
記憶を辿り、シャドウと何度も繰り広げた戦いを繰り返し、心身共に成長の壁を越え戻ってきたシキはそのまま深い眠りに着き、きっとプログラムかナビゲーターかはたまた別の何かがシキをコテージのベッドまで運んだのだろう。
そこまでは想像する事は可能であるができるが。
その後戻ってきたであろうリンカも同じように寝てしまって、同じように運ばれてきたのだろうか。
そして寝ているシキの隣寝かせたと。
そんなことあるかい?
一人で丁寧に仮説を立てながら一人でツッコミを入れつつ、どんな状況であれこの場でまたリンカの目を覚まさせてしまうのはトラブルの原因を作る。幸い今回はくっついて寝ている状態ではない。
隠密のように最高水準に気配を消して距離を測って寝ている間にこの事態を無かった事にすれば大丈夫だ。
そうっと、そうっと、シキは距離を空けてベッドから離れようとする。
「・・・。お、おはよう」
動きの気配を感じたのか、すぐ様リンカの瞼はピクリと反応し、ゆっくりと瞳が開き、リンカは目を覚ます。
仰向け状態のまま、リンカが寝ている左とは逆の右に向かって気配を感じられないように横移動していたシキだったが、リンカの声とともに恐る恐る左方向を向くが、そこにはまるで恋人か夫婦にしか見せないようなリンカの寝起きまなこな表情があった。
そしてなぜか前回のような目が覚めたとともに怒り狂った攻撃をされることもなく、「うーん」と伸びをして起きるリンカに違和感しか感じないシキであった。
一体、何が起きたんだ?
リンカはこの状況に対して何も思っていないのだろうか?
「お、おう。おはよう。聞いてくれ。この状況はまた俺にとっても不可解な状況なんだよ。冷静に冷静に」
飛び起きてベッドの上で少し構えながらリンカへの説得に入るシキ。
「わかってるわよ。私がそのままここで寝ちゃっただけなんだから」
「ん??」
「ん??じゃないわよ。なに変な顔してるのよ。私がここで寝ちゃっただけって言ってるじゃない」
「あ、ああ、そうなのか。俺もそうだったけどシャドウとのトレーニングは壮絶だもんな。わかるわかる」
本音では全然理解不能だった。コテージはそんなに広い作りではない。どれだけ疲れていても別に数十秒も掛からずに隣の部屋に移動できる距離である。そもそも間違えて入ってきたのか。そうでないならなぜシキが寝ている部屋に入ってきたのか。
一緒に寝たかったんだな。
そーか。そーか。
自分の中で帳尻をつけてその発言をしようかと思ったが、以前アバートメントで部屋を借りた時に少し揶揄った時は違うリアクションで返ってくるもの恐れ、シキはとりあえず頭をグルグルさせながらベッドから降りる。
リンカも特にその後のリアクションもすることなくベッドから降り、寝室を出て行ってしまった。
寝室から出て行く時にふと表情を見せないようにしていたのは、リンカなりにも少し恥ずかしい面もあったのだろうか。そんな都合のいい解釈をしながら、なぜ隣で寝てしまったのかをそれ以上追求できないでいたシキは、帰化プレイヤー問題よりも複雑なリンカの心理状況に晒されながらも、しばらくボーッとした後に寝室から出る。
寝室を出るとあるリビングダイニングのテーブルには、トーストと取り皿、一つの皿に盛り付けられているスクランブルエッグ、サラダ、ベーコン、ソーセージが守られている。
先に手前に座って朝食を取り始めていたリンカの向かい側にシキも座り朝食を取り始める。
リンカの表情は変わらずポーカーフェイス。リンカの態度をみると、これ以上先ほどの事件を掘り下げるのは得策ではないとシキは自分の頭の中も切り替える事にする。しばらくは目の前に起きたそのシーンが出てきてしまいそうだが。
今が朝なのか、昼なのか、夜なのかすらわからないが、リンカが食べているのを見ていると食欲が唆られる。
「そういえば、今日って何日目なんだ?」
『私が、お答えいたします』
音響設備からアナウンスされている声のごとくにナビゲーションが返答。
「私も気になってた。どれくらいの日にちが経ってるの?」
『シキさんとリンカさんが《時と補正のエリア》に入ってから3日目になります』
「「え??」」
シキとリンカはナビゲーションの言葉にびっくりして目を合わせる。
「そんな時間が経ってたのか?俺がシャドウとのトレーニングに戻ってきてからどれくらい経ってる?」
『約半日です』
「私は、シキが戻ってくるタイミングにあわせて戻ってきたから半日より短いくらいかしら?」
『はい』
「その間飲まず食わずだったな。その気になれば別にAHでは食事いらないのか?」
「そんなことはないはずよ。前にも言ったと思うけど実体は、AHで得た栄養面を同期できるようにしているはず」
「そう考えるとやばいな。この2日半栄養がいってないってことだろ」
『そこはご安心ください。栄養補給はアバターの状態の皆さんがしなくても生命活動に必要な栄養をAH運営側から長期ログイン中でAH内で食事を取られていない人達に定期的に補給されるようになっています』
「ふーん。都合のいいようにできてるのね」
っとすると今ここで食べている朝食は別にとらなくてもいいのかと思ってしまうとその行為自体の意味を見いだしたくなってくるところもあるが、リンカが以前言っていたように、食事も一つの娯楽である。
シキとリンカが過ごした日々はそんなに長くはないが、今こうして文字通り寝食を共にしている時間は、お互いの気持ちを和らげる大事な時間になってきている。
朝食を取りながら、シキとリンカはお互いのシャドウとの時間を過ごし方を報告しあった。
お互いに痛いところばかりつくシャドウをネタに盛り上がり、シキは新しい特殊なスキル発動も得た話や目標としていたレベル40を超えて46まで到達していたのを報告した。リンカもシキまではレベル上がっていなかったがレベル35から43まで上がっていた。
朝食を終え、しばらく1時間ほどお互いのんびりした時間を過ごし、その後出る準備を始める。
「では、時と補正のエリアを出ましょうか」
次回も月曜日の19時に投稿します。




