114話 ACT19-44
シキとガイン、二人の衝突は再び互角の状況となっていて、互いに一歩も動くことがなかった。
「ぐ・・・。流石だよガイン。最強であるはずの魔法拳士の最大出力で挑んだにも関わらず互角とはな」
もはや拳と大剣は大きな波動の点でしかなく、二人の体をも包んだ大きな波動の塊は、一切の油断も許さずに瞬間瞬間、お互いの波動を飲み込まんとせんばかり勢いを増し続けている。
「ふん、抜かせ。貴様の余力は理解しておるわ。その余裕が俺様を苛立たせてしょうがないわ」
怒りを露わにするような発言をするガインだが、言葉とは裏腹に本当は怒ってはいない。
シキもそれは理解できている。ガインはこの状況を楽しんでいるのだ。
「まあ、そう言うなよ、前回と全く同じスキル発動状況の再現で、どちらが強いか知りたかったんだ」
こんな会話を繰り広げいてる二人だが、波動と波動は今も隙あらばと勢いをあげて衝突し続けている。こんな緊迫した状態で会話できるのもまたシキとガインだからこそできる芸当である。
「して、この勝負互角だがどうするか?このまま消耗戦でも続けるか?」
ガインの問いにシキは何の迷いもなく答える。
「そうだな、消耗戦を楽しんでもみたいが、俺はこの結果に一応の納得感をもらったからな。悪いが次のギアに上げていくぞ」
そう言うとシキは、使っていない左手で新たなスキルを詠唱する。
「【フロストボルト】」
右拳に【ファイヤーマジックアロー】を覆い攻撃している状態を保ちながら、左手で尖った氷の塊となる【フロストボルト】を発動する。その【フロストボルト】たるや、上級レベルのソーサラーが作り出す【フロストボルト】とは比べものにならないほど、またもやシキの体を飲み込んでしまうほどの大きさだ。
それはまるで魔法矢と炎の塊の波動を後ろから氷の棘の塊が後押しいているようにすら見える光景である。
そしてシキは、左手で作り出した【フロストボルト】を右拳に備え付けるように合わせていく。
その瞬間、魔法矢と炎と氷が絡まりあったさらに大きな渦がシキの右手に集約する。
「【ファイヤーフロストマジックフロー】」
ガインはリンカのステータスを吸収した事で魔法拳士のシキの物理攻撃能力(STR)を上回り、さらに【フィアマインド】でプレイヤーが出せる最大出力を上回るステータス強化を果たした。
そしてガインは、AHにて唯一無二のバーサーカーの最大攻撃スキルを超えた【ダークリーサルストライク】を発動する。
だが、そんなガインを以ってしても魔法拳士、最大出力、特殊なスキル発動組み合わせ3乗で生み出されたシキの波動は、一瞬でカタが付くほどの威力を発した。
シキの詠唱と共に、衝突は終わりを告げる。魔法矢と炎と氷が絡まりあった巨大な波動は、目に見える限りの範囲を大きく焼き尽くすように突き抜け、その波動は地面を離れ、空へ向かって飛び立っていく。
戦いの場として選ばれた草木が生い茂る公園の中央のような作りの場所は、見れば度重なる衝突と波動の連続で地面は至るところで抉られている。草木はその姿は無くし、大きな壁としての役割を果たしていた森林の壁もその役割を果たせないほどに折れて吹き飛ばされた。
そんな景色をしっかりと視認できるほど、シキは目の前の戦いに使った集中力を解いていく。わずか数十秒前に起きていた波動の衝突が、嘘のように静けさに覆われた空間を深呼吸しながら見渡す。
ガインは【ファイヤーフロストマジックアロー】を、その肉体全てが消え去るほどに受け切ってしまったのだろうか。
にわかに信じがたいと思っていたシキの下へ、空から流星が地面に突き刺すような速さでガインは大剣をシキに大きく振りかざし迫ってくる。
やはり、こんなところでくたばる奴じゃないよな。
「【マジックアロー】」
右手の手刀を覆う形で作り出されたロングソードの波動でガインの大剣を受け切ったシキは、そのまま弾き、ガインを宙に戻すように左足で空に向かって蹴り上げる。
蹴り上げられたガインだが、空を蹴るようにして、シキの10m先に着地をする。
リンカやマリアのエネルギーを吸収し、身体が大きくなったと思ってしまうほどに膨張したガインの漆黒の鎧は【ファイヤーフロストマジックフロー】を受けてついに破損してしまった。
膨張を失い、身体も通常の大きさに戻っている。さらにこの着地しても尚、立っているだけにも関わらずひび割れが続き、ボロボロと崩れ落ちている。中に着ていたアンダーシャツが露わになり、剥がれ落ちそうな鎧が一部かかっているように見える程度の外見になっていた。
そして今まで顔を覆っていた鬼を彷彿させるような漆黒の仮面も破損している。白に近い銀髪で切れ長の目、憎悪のくすみが交わっているような真紅の瞳、仮面の下に現れたその表情をガインは始めて露わにした。
「ふん、俺様がここまで追い詰められるとは、、、情けない姿になってしまったわ・・・」
何も言わないシキを見て、ガインが先に口にする。シキはガインの性格を考えてあえて何も言わない。ガインもまたシキがそう汲み取って何も言わないのを理解し、言葉を発した。
スキル衝突の敗北に対して、怒りに任せた感情を出したり、怒りを押し殺すような沈黙の時間になったり等は、ガインのプライドが逆に許さない。
そんなガインの率直な言葉は、シキを力を純粋を認めたものとなる。それはつまり、現在の実力差を受け入れた事を意味をする。絶対王者であるはずのガインがここまで理性を保たせながら相手を受け入れるのはよっぽどの事だ。
沈黙を続けていたシキは、そんなガインの心境の変化と現在起きている状況を加味して、一つの問いをする。
次回も月曜日19時に投稿します。




