111話 ACT19-41
「だからなガイン、結局この戦いで俺を駆逐して、今度は俺も含め再び他のメンバーを帰化プレイヤーに戻して支配下において、AHすべてのプレイヤーを支配下に置いたとしても、それは一時的な自慰行為にしかならないって俺は思う。再び俺と同じような奴が現われるかもしれない。現われなかったとしても進化のない変化に未来はないぞ」
ガインはここで黒紫の波動をここで大きく放つ。もちろん波動を放たれたところでシキが圧倒されることはないが、シキが発した言葉の圧力を波動の風圧で打破した格好となった。
決してガインは怒りに任せているわけではない。だが、ガインはこの流れでシキと言葉の応戦していくのはまずいと判断した。大人げのある対応ではないが、波動に頼る事で押されている状況を一旦打破できたのも確か。一呼吸置いて、再び感情的な温度感を上げすぎずに言葉の交戦を図る。
「ほう、貴様の語り、中々に悪くないな。ならば俺様からも問うてやろう。俺様の世界の支配に未来がないのであれば、貴様のその近しい人間達だけが幸せになれる手段の延長になにがあるというのだ?それこそただの自慰行為ではないか」
シキが指摘するガインの描く未来に粗があるのも確かだが、角度変えればシキが望む未来の先が見えないのも確か。ガインは自分の事を棚に上げているのは重々承知であるが、シキの考えの穴を指摘する事に会話の穂先を向けた。
だが、
「いいじゃねえか、俺はそれで十分だ。自分達が幸せで楽しかったら、周りの人間も幸せにしようと思うはずだ。理想論で解決策がないのはわかっているけど、周りも幸せにしようとする思いの延長に進化と未来があるんじゃねえか」
シキはブレない。
理想郷を作り出すことに駆られているガインの使命感からすれば小さいかもしれないが、各々の幻想郷、エントピアの未来をシキは考えている。すべての網羅に気を張るのではなく想いの派生に期待する。各々が身近にある幸せをしっかり作り上げて、その思考を派生させていく未来のほうが明るいじゃないか、と。
その考えこそが理想的過ぎる。そんなものが可能なのか?と、ガインはまた自分の中で何かを探るように沈黙の時間を用意する。
そしてガインは問う。
「お前の言うその延長は、曖昧すぎて何も見えん。結局お前の言うその先の世界では、絶望を乗り越えられない奴等を救えないのではないか?」
その対象がまるでガイン自身を指しているような言いぶりにもシキは聞こえた。周りを幸せにしたい延長上にすべてを絶望した自分は交わることはないと、そう言われているようだった。
「自分達の目に留まればきっと巻き込むんじゃえねか?」
「ふん、笑止。そこまで言い切ってこのタイミングで曖昧な質問で返すとはな、自信の考えがブレているのを露呈しているようなものだ」
ガインからして見ればシキの求めている世界こそ理想郷に思える。
だが、そこに対してだけシキには明確な答えがある。
「いや、それはだってよ、俺じゃねえもん。絶望している生きていることをつまんなそうにしている奴等を、幸せの方向へと巻き込む奴は」
ガインはシキが示した想定外の無責任な答えに怒りを交えて驚く。
「何?!」
ガインの苛立ちを感じ取るが、シキはあくまで気付かない振りをして、ふう、と一息ついて肩を力を緩めて笑って応える。
「ガイン、分かってないな。俺だっても元々は世間すべてのつながりがダルいと思っていた奴だぜ。そんな俺がAHで唯一無二の力を手に入れて、お前がいう悟りに気付いたところで、それを俺がやるかと言われれば、俺はやらないよ」
いきなり匙を投げたようなシキの返答に、そのまま受け入れる事はできないガインは理詰めの部分で問い続けた。
「それでは、貴様が言っていることに矛盾がでてくるではないか?」
方向性はされど、高貴な思考を持つガインにとって、無責任な発言をし始めたシキとの対話に困惑を示し始めている。
そんなガインを見てシキは少しだけ笑みをこぼす。ガインは分かっていない。シキはこのAHで選ばれし力を得た戦士ではあるが、大前提としてシキは、思春期をボッチで過ごしていた、人間関係構築に対して少し捻くれている思考を持っている少年なのである。
「そう思うだろ?だけど違うんだよ。俺一人だったら俺がどんなにすごい奴なんだと言われても、その力を持って世界に影響を与えようとは思わない。俺はそこまで世界に何も望んでないからな。だけど、俺をここまで連れてきたサラを始めとした、リンカ、マリアはきっと俺を巻き込んで世界を変えていくんだと思う。俺はそんなあいつらを見てまったくよう、と言いながらつき合わされるくらいで丁度いいんだ。俺一人ですべての使命や役をこなす必要はない。だから仲間がいて、役割分担が発生するんだ」
周りの人さえ幸せであればあればいい。その他の人はその延長で幸せになっていくだろう、と言うシキの無責任な言葉を、ガインは志の大きさと小ささの違いがあるだけだと感じていた。
だが、シキが特別な力を持ってしても、抱えている絶望を希望に変えるのは尚を持って自分の役目でないと言い切きる。変わらない思考を持ち続けていられるのは、そこに信じるべき仲間がいて、その仲間に想いを託せるかどうかなのだ。
次回も月曜日19時投稿します。




