110話 ACT19-40
「ガイン、こうして戦うのも二度目だが、お前から褒められると調子が狂うな。あの戦いからほとんど休みなく今まで、戦いの連続で気持ちが少しだけ磨り減ってきているが、お前とこうしてまたサシで戦うとなると居ても立ってもいられないくらいに興奮を覚えるよ」
シキはシキでガインに対して特別な想いを持っている。絶対君主で、絶対王者。自身のプライドは絶対なれど、他者に対する評価をするようなタイプではない。そのようなスタンスを持つガインがシキに対して、唸りを止めらないほど反応をしたのだ。シキもそのガインの評価には応えなくてはいけない。
そんなシキの対応を汲み取ったのか、ガインもまた率直な意見を返していく。
「ふん、プライドだけで自身を保っていてもしょうがないのでは。貴様が俺様の想定を上回る結果を伴ってくるのであれば認めざるをえんだろう」
そんなガインに、シキは一呼吸おいて語りかける。
「・・・、ガイン、俺は、お前が見ている世界を別に否定しているわけじゃないんだ」
だが、ガインはシキの言葉に合わせて大剣を大きく振り払う。まるでシキの言葉に自身が諭されないよう思考を切り払うように。
「ほほう、貴様、俺様に対しても思想を説くつもりか?」
振り払われた大剣の風圧とガインが返すその言葉には怒りも混じっている.
「そう思うのか?」
ガインの怒りが体を刺さるような風圧でひしひしと感じるシキは言葉を選びガインに返す。
ガインに今生まれている感情は、自身の軸となる考えに触れているシキへの怒りだ。そして、今までも同じように、他の連中にしてきている語り掛けをガインにする事自体が、同等レベルの扱いをしているようでまたガインは気に入らない。
「ふん、貴様が他の連中を説いてきたのは分かっておるわ。貴様がしているように俺様もまた他の連中に対して価値観を植え付けてきたのだ。しかも貴様よりも先に圧倒的な力と支配力を以ってしてな。貴様のような緩い人身掌握術など見透かしておるわ。俺様に通じると思うなよ」
シキは今まで戦ってきた帰化プレイヤーへと堕ちた仲間達に向き合ってきた行動で一連の共通がある事には気付いていた。だが、ガインが明確に発言するほどの人身掌握をしているつもりはなかった。ただ、思い返せばそういうことなのだろう。
シキとガインは、世界を変える能力を持っていて、関わってくるプレイヤー達にビジョンを見せる役割を果たしている。シキは相手とぶつかった後に向き合いながら戦い、相手の納得へと導いていく形を取り、ガインは圧倒的な力を見せつけた後に、帰化プレイヤーとして取り込む形を取っている。手段の違いはあるにせよ、二人は人心掌握という手段を相手に用意している思考が似ていた。
「・・・。ああ、言われてみればそうだな。だがな言わせてくれ」
「そこまで言われても語るか愚弄が!!」
ガインはシキとこれ以上思考が相見えるような会話を拒みたい。
自分には通じないと言っているガインが、これほどまでに拒むのは、通じないのではなく、通じたくないのではないかとさえ思えた。だからこそシキは追求しつづけたい。そして続ける。
「そう言うなよ、別に今までの子達みたいに改心してほしいと思っているわけじゃない。だけどな、お前の考え方で物事を進めていたら結局俺が居ようがいまいが、いつかは誰も傍にいなくなるんじゃないか?」
「ほう?力を鼓舞を主としている俺様には人はついてこず、力を鼓舞しながらも、そのように見せていない貴様には人がついてくるのだと?そう言いたいのか?」
確信がここにある。このやりとりを実のところガインはしたくない。ここで感情的になり攻撃を仕掛けるのであればそれはもはや認めているようなものだ。そしてシキの見解を全面否定できるような理論武装をガインは持ち合わせてはいない。
シキはもちろん分かっている。分かっていて確信を突いている。だからこそガインが返してくる言葉には丁寧に、シキは答えを出さなくてはいけない。ガイン自体は今ここでシキから言われるまでがなである。だからこそ、そのままそれを伝えることがいいとは思わない。本人がすでに自覚していて棚上げしている内容をこちらから突いているのだ。納得のある方向へと言葉を選ばななくてはならない。
「それは分からない。だけど俺はお前みたいに自分の絶望を無くす為に支配という形を望んだりしていない」
「独裁を否定し、民主主義を主張したいわけか?ありがちな思想よのう」
「そうでもない。ただ俺は、誰しもが持っている大なり小なりの絶望は結局、自分の中でしか解決できないんじゃないか?って思ってんだ」
「ふん、悟りでも開きたいのであれば、この世界から去り坊主にでもなれ!!」
「坊主か・・・。悪くはないな」
「話にならんな」
シキは言いたい事があるにも関わらずやりとりで否定も肯定もしない。ガインとしてはこれであれば呆れる以外の反応は難しい。だが、ガインもただ呆れてそこで終わりという訳にはいかない。その先の着地どころが必要であり、そもそもがガイン自体も本質では求めている答えであることには変わりない。
だからこそシキは自分の考えをしっかり伝える。
「俺は、サラ、リンカ、マリア、他の連中、まずは自分に近い奴らを幸せにできればと思うよ。その為に出来ることをしたい。坊主になって幸せになれるなら坊主になる。だけど支配はしない。世界が進化して今があるのも分かっている。だから世界が変わることに否定はしない。だけど支配で世界を変えるの別だ。それは進化じゃない」
「言うなあ、小童よ・・・」
そこから暫く沈黙があった。どれくらいの時が流れているのか。それこそ時間制御スキルを発動したわけでもないが、二人の間にはものすごく大きな時間が止まっているようにシキは思う。
ガインは使命に紐づく考えと向き合うのであれば、それほどに沈黙を十分に過ごすだけの言葉の応戦を汲み取るだけの時間を必要としていた。
次回も月曜日19時に投稿します。




