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108話 ACT19-38

 ガインは戦略家であり戦術家だ。すべての行動の意味を齎せている。すべては勝利の為であると言えば簡単だが、それだけではない。どんな結末になろうともガインにとって”望ましい”形になるよう仕掛けをし尽くす。


 本来であれば、EG(エンペラゲート)の最高幹部として業務引き継ぎの進捗確認をしにこの場へ来た形でしかなかったガインにとって、そこにいたシキの存在は、進行上よくある淡々と処理すべき事柄でしかなかった。だがガインはその場で目にしたシキが持つAH(アストラルホライズン)のルールを逸脱したスキルや強さに好奇心が止まらなかった。


 シキはただのガインの足かせレベルではないように思えた。シキという存在はガインが望んだ聖域(サンクチュアリ)の世界を作り出す為に用意された越えなければいけない壁、事象の一つなのではないか?


 シキという個の脅威はたかが知れている。だが、シキに起きている状況や環境がシキの”器”なるものを大きく形成してきているのは目に見えて感じ取れる。世界の覇者になるべく者としてガインは、その”器”を飲みほして排除し、さらなる高みを目指すべきではないのだろうか?


 越えていかなければいけない壁や事象はこれからも幾度となく出現するだろう。


 その想いと好奇心をすべて満たすには、シキのすべてを吐き出させ、もう少し上のレイヤーに引き上げなくてはいけない。出会った時点では見ている限り荒削りもいいところだった。


 実力を測る為に仕掛けたが戦闘力はそれなりだった。当初の算段よりも戦ってる最中にどんどん強くなっているように感じた。戦いながら強くなるタイプなのだと理解する。ちょうどサラがガインの戻りを遅いと察し現場を見に来たのが功を奏した。サラとシキが元々知り合いであった事態にはやや笑えたが、これもまたシキが持つ宿命なのだろう。結局のところをサラというEG(エンペラーゲート)にとってキープレイヤーとなるべき存在ですら、シキという”器”をさらに強く大きくする為のイベントにしか過ぎなかったようにガインには思えた。


 その後、ガインは考える仕掛けに次ぐ仕掛けを仕込み、ここまで来た。吸収すべく血肉程度だった存在は、その血肉の”最高鮮度”を上げる為に仕込みをした結果、魔法拳士などと言うガインの想定をはるかに超えたジョブまで身につけて、今最も脅威な存在として目の前にいる。ありとあらゆる事を想定していたガインではあるが、ここまでくるとよもやである。


 小さい可能性ながらも時間の経過と共に確信たるも想いが強くなる。仕掛けに対するシキの変化がここまでくるとガインもまた自身の本質を見出したくなってくる。


 そんなガインが現状一つの血肉として仕掛けていたマリア、リンカの帰化プレイヤースイッチ。


 もちろん伏線は存在する。己が君主として使える部下を増やすのは表面上の仕掛けに過ぎず、その役目を終えるのであれば”吸収する”事で自身のレベルアップにつなげる事が出来る。


 そしてガインは、スピードでマリア、力でリンカを”試す”事でシキより強い領域を見極め、そのスピードと力を吸収した事になる。

 

 ガインの指示を受けていたのか、ガインとシキが戦う事を想定しての事なのか。結果としては物理攻撃力(STR)でシキを上回る事になり、失っていた自尊心を取り戻したリンカ。そのすべてのピースを彼女がどこまで読んでいたかはシキには分からない。


 だがリンカがソードマンでなくバーサーカーへと上級職を変更した事に対する違和感の答えはここに合ったようだ。


「さすがだよ、お前は。魔法拳士になった俺に対して屈辱を果たさんと感情を露わにしながらも、すでに対応策のカードは用意できていたわけだ」

「ふん!!貴様のようにすべてのロジックを覆してくるような奴をどうロジカルに崩していくかがまた俺様の愉悦なんだよ。俺様が築いてきた世界を貴様は一瞬で変えようとしてくる。いや、別に何も貴様に対して思っていたわけではない。いつ何時、そういう奴が現れるのではないかと想定しておき準備していくのも王たる役目だろう?」


 ガインの向上心、探究心、全体を見回して判断する能力。どれをとっても組織の長として立つにふさわしい人物である。方向性の違いさえなければ賛同してしまいそうなほどに。シキは微笑する。


「ああ、正しいよ。そんな戦略を常に持ち合わせている味方だったらどんなに心強いか。だが、お前は敵だからな。次から次へと仕掛けてくる策略とこの辺でケリを付けさせてもらうよ」


 シキはガインに向かって再び次の動きを仕掛ければ飛び込み、攻撃が始まらんとばかりに構え始める。


「奇遇だな。俺様もそう思っていたところだ。愉悦の時間もそろそろ終わりも迎えねばなるまいな。貴様にこれ以上想定外の進化をされても手を焼くばかりになってしまうしのう。この戦いを持って我々の対立構図も終わりを告げようではないか」


 ガインは大剣を両手に構え、呼吸を整え迫り来る。シキに合わせて攻撃準備を開始する。


 飛び込んだシキがガインの顔面に向かって右正拳を打つモーションに合わせてガインが両手で掴んだ大剣を振り落とす。だが、シキは右正拳をフェイントで止めて、右足の踏ん張りを効かせて左ハイキックをガインに放つ。ガインは堪らず大剣を左手だけに持ち替えて右手でハイキックを受ける。


 シキはガインが左手だけで斬り下ろす大剣を右の籠手で刃の平面を弾く。大剣は空を切り地面に叩きつけられた。シキは大剣が自分の横を空を切り落ちていくタイミングに合わせて、左ハイキックをガインが右手に受けた反動を使い地面に戻し、今度は左足を軸として体毎をフル回転させて再び右拳をガインの右顔面に叩きつける。


 そしてその際にスキルの詠唱は忘れない。


「【心操身隷(しんそうしんれい)】」

次回も月曜日19時に投稿します。

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