106話 ACT19-36
リンカは起き上がろうとせずに倒れこむ。ガインはそんなリンカを見て汲み取ったのかマリアの時のようにHPとMPの回復薬を飲まそうとしない。シキはそんなガインの挙動をみて、リンカとの戦いの終わりを感じ取り、ガインとの戦いに意識を向け始める。
「まあ、まて小童」
すぐにでも襲いかかろうとするシキを宥めるようにガインは左の掌を広げシキに向ける。シキには一連のガインの行動にも疑問が多かった。そもそも個別での戦いの場を用意したりするほどなので、余興に対する意識が高いのはわかっていたが、それにもしても度が過ぎるように思える。EGのトップとして果たさなくてはいけない使命がある割には個人的な感情を優先する行動には気になる事が多い。
まるで何かを試しているような。
「なんだよガイン。そんなに俺との戦いを避けたいのか?お前は一体何がしたいんだ?」
その何かが何なのかはシキは分からなかったが、ガインが何かを考えて一連の行動を取ってみるのは伝わっていた。
ガインはシキが何かを探りながら問うているのも理解している。もちろんその上でシキの問いには答えず、逆にリンカに問う。
「リンカよ、貴様は今、何を思う?」
突然矛先を向けられたガインの問いにリンカは倒れながら答える。シキとガインのやりとりを聞いていたリンカもまたガインがなぜ自分に問うてくるのか疑問に思う。
「はぁ、はぁ、何よガイン、敗者のコメントを聞いて何がしたいわけ?」
シキにはリンカの言葉が先ほど少し雰囲気が違うように思えた。そんなリンカにガインはまるでシキが求めている答えをリンカが答えるべきだと促すようにリンカの問いに答える。
「いや、何、貴様の本質にある芯がこうしてまた打ち砕かれたわけだが、帰化プレイヤーたるもの、それでも尚戦おうとしない気概はどうしたものかな?と思って問うたわけだ」
ガインの質問にリンカは明確に答える。
「そうね・・・、シキに対する抹消衝動はなくなったわ。なんだったのかしら?もう私は帰化プレイヤーからプレイヤーに戻ったんじゃないのかしら・・・」
リンカに視線を向けて問いただした暗黒騎士の仮面は「そういうわけだ、小童」と言葉を返すように再びシキに向く。
「貴様がそのように思うのであればそうなのかもしれんな、リンカよ」
シキはガインとリンカの会話を聞き、あまりにも的確な客観的な発言をするリンカを見て、違和感の答えに導かれた。
「リンカ、元に戻ったのか?ガイン、どういう事だ?帰化プレイヤーはそんなに簡単にプレイヤーに戻れるもなのか?」
リンカは倒れている状態でシキのほうに顔を向ける。その姿こそ帰化プレイヤーのままだったが、笑顔を向けている。
「そうね・・・。今はすごく鮮明に意識が戻ってるわ。父に対するフラストレーションとの向き合い方も見えてきたし。今の私はシキ、あなたの勝利を望んでいる仲間に完全に戻ったと思ってくれていいわ」
シキの驚きにガインは肩を竦めて答える。
「小童よ、帰化プレイヤーなどと言うものは、所詮一過性のブーストに過ぎん。成し遂げたい”業”をトリガーに特殊能力を得て、プレイヤー抹消衝動と一部の感情や記憶をコントロールするわけだが、その特殊能力に対する依存がなくなれば忽ちブーストも解除される」
シキは、ガインがなぜここまでの答え合せをしてくるのかは分からなかった。だがこの流れでシキの疑問に対する答えはもうすぐそこまで迫っていた。
「つまり・・・?」
「マリアに比べてリンカのほうが、いとも簡単に帰化プレイヤーが解けたとあっさり変化しているのは、リンカのほうが帰化プレイヤーで得た特殊能力に対する依存が低いからだろう」
サラ、リンカ、マリア、セリカといて、そもそも出会った頃から帰化プレイヤー前だったセリカの事を置いておけば、リンカ、マリア、サラと帰化プレイヤーへの呪縛に囚われている重みの順番がある事がシキはガインの発言から気付かされる。
リンカとマリアだけを考えれば、マリアの兄に対する依存と力の強さは切っても切り離せないものになっていたのだろう。リンカは劣等感はあるものの、父と再び出会い、父を正気に戻す為の”強さ”に帰化プレイヤーとして得た特殊能力を結びつける事はなかったのだろう。だから元に戻るのも早かったのか・・・。
っとした時にサラ。サラがそこまで”特殊能力”に依存しなくてはいけない理由がシキには分からなかった。リンカ、マリアに比べて一番重度に見えるサラ。一度は元に戻せそうなタイミングがあったとしても、すぐにガインに正気を奪われてしまうその”因果”がどこにあるのか。
「ガイン、お前はリンカの”業”が帰化プレイヤーとして存続させ続けるほど強くないと判断したから、これ以上リンカを戦わせないと判断をした?」
「ようやく色々と見えてきたようだな小童よ。結局のところ、この世界で起きている支配構造なぞキッカケにしな過ぎぬ。プライヤーだろうが、帰化プレイヤーだろうが根本にあるのは、当人の気持ち次第なのだ」
帰化プレイヤーの構造的欠陥をシキに分からせる事がガインにとってどれほどのデメリットなのかはシキは理解している。帰化プレイヤーこそ、ガインがAHを支配していく中でもっとも大きなギミックであると思っていたからこそ、構造的欠陥の答えを敵に導いたのは、納得感より、ガインが求めている本質がますます見えなくなった。
「よくわかったよガイン。なぜお前がそこまでしてくれるのか俺には分からないが、セリカ、マリア、リンカ、そしてサラと戦わせてきたお前の目的が何かしらあるって事なんだよな?」
シキはバトルモードを解いた。
次回も月曜日19時に投稿します。




