↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

105/155

105話 ACT19-35

「ああ、そうだな。俺は勘違いしていたよ。お前らは俺にとっては大事な大事な可愛い仲間達だからさ。無理してほしくなかったんだよ」

「な!!、何言ってるのあんた」


 シキの素直な言葉につい照れてしまうリンカ。帰化プレイヤーになろうとも彼女のこのような反応は変わらない。シキはリンカを久しぶりにこんなやりとりをしたな、とふと思う。


「リンカ、今のお前の物理攻撃力(STR)は俺よりも強い。魔法拳士としてAH(アストラルホライズン)の世界で新しく発動されたジョブの物理攻撃力(STR)を凌ぐ能力だ。自信持てよ」


 シキの言葉にリンカの表情も少し和らぐ。少し照れている様子は変わらない。


「あら、そう。お褒めにあずかり何よりだわ。ただ私の本当の力はこんなもんじゃないのよ」


 そう言うとリンカはさらに


「【攻撃力上昇(オフェンシブアップ)】、【集中(コンセントレーション)】5th」

 

 パッシブスキルを重ねてくる。


「おい、大丈夫か?リンカ」

「何が?」


 リンカはマリアの時のようにパッシブスキルを重ね合わせた影響で体調パラメーターをどんどん悪化させているような、辛そうな表情や立ち振る舞いはしない。


 心の持ちようなのか、高揚なりアドレナリンなりがリンカをそうさせているのか。


(いや、違う・・・)


 シキはマリアとリンカで一つの違いを発見した。


 マリアは6thまでパッシブスキルを重ね、リンカは5thまでだ。マリアが体調不良を起こしたのは6thになってからだった気がした。シキはマリアとの戦闘時を思い出す。


 マリアに比べて体調パラメーターに大きく支障をきたしているようには見えない点が、その違いだけと仮説するのであればこれ以上の強化をリンカにさせるのは危険だ。ギリギリの戦いを続け、さらにシキが現状物理攻撃力(STR)で負けている状況を踏まえると圧倒的な勝利に持っていかない限り、リンカはパッシブスキルをさらにかけ続け自分を追い込む可能性がある。


 力と力のぶつかり合いに勝ち、自信をつけたリンカの今までにない満足した表情を見ると、力では勝負しては駄目だとシキは判断する。


 そうなると別のステータス勝負での戦いが必要になる。物理攻撃力(STR)以外の戦い。


 命中率(DEX)、防御力(VIT)、魔法攻撃力(INT)、俊敏性(AGI)。


 命中率(DEX)と俊敏性(AGI)のパラメーターで差をつけた戦い方にシキは戦術をシフトする。


「行くわよ!!」


 両手に短剣を持って迫り来るリンカにシキは構え、スキル発動する。


「【心操身隷(しんそうしんれい)】」


 時間制御スキル。【心操身隷(しんそうしんれい)】を発動した瞬間、すべての時は止まる。どんなに高速移動しようとも思考が働いている限り対策は打ててしまう。リンカに対してこれ以上のパッシブを発動させない為には、時間制御の中で攻撃し尽くすしかない。


 だが【心操身隷(しんそうしんれい)】は長い時間を制御できるわけではない。それをシキはさきほどのマリアとの戦いでその認識はできていた。また時間制御をすればするほどMPの消費とは別に体調パラメーターに支障を与える事も気づいていた。


 それほどまでに時を司る空間を制御できるスキルが起こす影響が大きいのだろう。


「【飛拳燕圧(ひけんえんおう)】」


 拳をジャブで距離がある相手に打ち込む事で、その拳の波動が何連発にもなって相手にダメージを与える。シキは【心操身隷(しんそうしんれい)】で時間制御し【飛拳燕圧(ひけんえんおう)】でリンカをジャブで叩きのめす戦略に出た。


 命中率(DEX)と俊敏性(AGI)を最大限に生かした勝負を仕掛けるのであれば、この戦術が最高のカードとなる。狙いはこの瞬間のみ。シキが繰り出す【飛拳燕圧(ひけんえんおう)】の高速ジャブによりリンカは何十発と全身に拳の叩きつけられて吹っ飛ぶ。


 無論、ここまでの間、シキにしかこの時間の経過は発生していない。リンカは「何が?」と答えて攻撃を仕掛けた十数秒後には自身の体が何十発もの拳を叩きつけれら吹き飛ばされている自分を体感する事になる。


「え?!」


 大きく吹き飛ばされ地面に倒れたリンカは、状況の理解ができないまま立ち上がるが、再び大きく吹き飛ばされる。状況を理解できないまま無限に叩きのめされるループを数え切れないほど繰り返す事になり、いよいよとHPゲージがゼロに近づきそうになったところでガインの助けが入る。


「貴様、もういいだろう?」


 起き上がる事もできない状態のリンカは、ぼやけた視界の先にいる暗黒騎士ガインの背中を目にする。


「もうそろそろお前が出てくると思ったよガイン。ようやくお出ましか」


 ガインの先にいるシキは攻撃をしてくる様子はない。今しがた起きた不可解な事態はガインが間に入る事で幕を閉じた。


「ち!!貴様の時間制御スキルにはほとほと怒りしか覚えぬわ」

「まあ、そう言うなって。お前が試し試し俺の仲間達を使ってくれたおかげで、俺は怒りとジョブフィードバックがトレードオフできたよ」

「ふん、ぬかせ」


 時間制御。リンカはこの言葉を聞き、今自分が起きた状況を少しだけ理解始めた。パッシブスキルを重複させ、己の限界を超えようとし、力で打ち負かせそうだった相手は、どうやら時間を支配できるスキルを持っているようだった。


 そのスキルの凄さに悔しさを覚えつつも、リンカは少しだけ清々しかった。何か自分の中で抱えていたシコリが取れたように感じる。それは本来、優秀な父の下で育った英才教育からなる自信が、AH(アストラルホライズン)の世界にきて劣等感しか覚えなかった日々から少しの間だけだが、帰化プレイヤーという本来の自分の力ではないかもしれないが、その力を得て、”物理攻撃力(STR)"の点で、最強の相手を圧倒する事ができたのだ。


 その結果、命中率(DEX)と俊敏性(AGI)を最大限に生かした勝負を仕掛けられて敗北する事になったが、”物理攻撃力(STR)”では勝てたからこそ相手に違う戦略を引き出せたのは、リンカにとって、敗北ではあったが次なる自信につながる結果になった。


 だからこそリンカは、これ以上の戦いを望もうとは思わない。この点が大きくマリアとリンカは違う。どんな手を使ってでも”強さ”を手に入れたかったマリアが帰化プレイヤーに依存する思考と、偶発的とは言え手に入れた帰化プレイヤーの力を使い、瞬間的でも自信につながる戦いを出来た事に満足し、達成の高揚を得られたリンカは、帰化プレイヤーが引き起こす抹殺衝動をかき消す事ができた。

次回も月曜日19時に投稿します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。