103話 ACT19-33
シキが構える。
「【バーサーク】」
リンカが詠唱する。基本職ファイター、上級職バーサーカージョブの攻撃力上昇スキル。このスキル発動と共にリンカがソードマンからバーサーカーに上級職を切り替えたとシキは認識した。帰化プレイヤーならではのバトル場面で上級職を切り替えられるスキルだ。
リンカはソードマンからバーサークを選ぶ事で、テクニカルな戦術を切り捨てて接近戦を選んだ形になるが、シキにはどう考えてもその選択肢がバトル上リンカが有利になるとは思えなかった。喉に何かをつっかえているような引っかかった感覚を持ちながらシキはリンカとの戦闘を臨む。
「【ダブルナイトリーサルストライク】」
リンカの両手の短剣に覆われた黒紫のオーラは【ダブルナイトリーサルストライク】詠唱に反応して大きなうねりを上げる。
ガインであれば【フィアマインド】によって増殖される黒紫のオーラは、辺り一帯をそのまま覆うのだが、セリカやリンカはそこまでのレベルには至らない。所詮借り物のスキルということなのだろうとシキは見解を示す。
リンカは【ダブルナイトリーサルストライク】を大きく帯びた両手の短剣を大きく振りかざし、そして大きく斬り落とす。黒紫の波動はその動き合わせて10数m離れたシキに襲いかかる。
「【マジックアロー】」
シキは再び【マジックアロー】を右拳に覆い、迫り来る【ダブルナイトリーサルストライク】に打つける。先ほど触れた瞬間に吹き飛ばす事ができた【クラドラプルスラッシュ】とは違い、今後は衝突し双方のスキルが争い始める。
だが衝突の圧力において、やはりまだシキの【マジックアロー】に余裕があった。
「は!!」
シキが放つ気合で【マジックアロー】は【ダブルナイトリーサルストライク】を打ち負かす。しかし【ダブルナイトリーサルストライク】は消滅する事なく、リンカは打ち負かされて突き上げられた両手をその反動で返すように、今度はシキの両サイドを挟み撃ちするように×切りし始める。
「【アイスマジックシールド】」
シキはリンカの第二弾の攻撃に対して避けることも視野には入っていたが、鞭のように撓っている【ダブルナイトリーサルストライク】がそのまま引き続き攻撃を仕掛けてくるのを想定していなかった。
回避するのはさらなる次の攻撃で避けきれない可能性もある為、【マジックアロー】と氷のバリアでダメージを減衰できる【アイスウォール】を組み合わせた【アイスマジックシルード】を両腕に発動する。
ダメージはそこそこに、吸収と衝突を同時にこなす【アイスマジックシルード】によって【ダブルナイトリーサルストライク】はかき消された。
「まあ、どう攻めても今の戦力差だと、そうなるわよね・・・」
シキの攻撃を見ながらリンカは物思いに言葉を発する。何か踏ん切りがついたような表情をしたリンカは別のスキルを詠唱し始める。
「【攻撃力上昇】、【集中】」
パッシブスキルの重複発動。
「リンカ、やめろ!!」
重複発動が1回で済めばいいが、マリアとの戦闘時を見ていればそうならないのは明らかだ。帰化プレイヤーとはいえ、体調パラメーターに大きく支障をきたす。だが、ステータスで劣っている相手との戦闘において対等なレベルまで、またはそのレベルを超えるまで強化する事ができる。
シキにはリンカがパッシブスキルを重ね合わせ続けるのは目に見えていた。体調パラメーターをどこまで悪化させてまでも、マリアと同じ道を辿ろうとしているリンカを見て、そうはさせまいとシキは高速移動でリンカの元に行き両腕を掴む。
しかしサラの時ようにいかなかった。リンカはシキに頭突きをし、その反動にあわせてドロップキックを仕掛け、シキはリンカの両腕を離してしまう。そしてその隙を見逃さんと両手の短剣で×斬りをシキに仕掛ける。だがリンカはそれ以上の攻撃は仕掛けずにさらにシキとの距離を空けた。
シキにとっては意外な攻撃だった。しかしリンカの元々の気性の粗い性格を考えれば、パッシブスキル発動を決意した時点で、自分の行く末を見出しているのだろう。どうしようもなくその判断をしているとはいえ、心のどこかで助けを求めていたマリアとも全く違った。
清々しいほどに自分の判断に迷いがないリンカにはパッシブスキルの重ね合わせにおいて支障をきたす体調パラメーターなど、シキがいうまでもがな、なのか。だからこそ止めに来たシキに対しての反撃に迷いがなかった。
「【ダークナイトリーサルストリク】」
リンカは再び詠唱し、両手の短剣に大きな黒紫のオーラが包まれ、まるで大蛇が尻尾だけ捕まれ暴れ狂っているかのような大きなうねりをしている。リンカがパッシブスキルを唱え同じスキルを発動するのは、基本ステータスのパラメーターが上がればこれ以上のスキルはないと判断しているのだろう。
「【ファイアーボール】」
シキもまた一段とギアを上げる。【マジックアロー】、【アイスマジックシールド】でこれ以上戦うには心もとない。まだまだ余力を残しているとはいえ、後に残している戦いを考えれば小出しにせざるをえないのは、この勝負に全力でぶつかってこれるマリアやリンカと違うところである。
だが、そんなシキの考えを否定するかのように掌で生まれた【ファイアーボール】は再びシキをも包み込むような大きな火炎が巻き起こる。
「すごい・・・」
リンカもまたシキが作り出した【ファイアーボール】に驚きを隠せなかった。今までに見た【ファイアーボール】の大きさのレベルとは桁違いである。ゴクリと息を飲む。この高揚は恐怖なのか、興奮なのか、ゾクゾクくるこの気持ちの正体が分からなかったが、シキがまだまだ手札を持っている事に若干の悔しさを覚えつつも、リンカはお互いのスキルをすぐにでも打つけ合いたくなるほど気持ちが高揚していく。
次回も月曜日の19時に投稿します。




