101話 ACT19-31
小学生高学年になる辺りから、リンカと母は父と一緒に過ごす時間がほとんどなくなる。次第に家に居ても父から前みたいにリンカへと声を掛けなくなり、リンカもいつも忙しそうにしている父親へどう自分から声かけたらいいのか分からずにいた。
最初の頃は戸惑いを隠せなかった。父の心が離れていく事を避けたかったリンカは子供ながらに父に構ってもらえそうな事柄を探していく。学業テストだ。テストを頑張り成績優秀者がもらえる表彰等で父親に気づいてもらう。
研究者である父は、成績がよかったりすとよく褒めてくれた。安易だがその方法くらいしか思いつかなかった。だが、どれだけ評価されようと、努力しようと、父親の目に止まらなかった。母はリンカの気持ちをくみ取りつつも、変わらず父の意向を優先する人だった為に、家族が父と過ごす時間が減っていく環境を変える方法は完全に絶たれていく。
心にポカリと空いてしまった想いを抱えながらリンカは中学生になる。その頃VBCヘッドセットが流行り始めた。現実世界に自分とは違うもう一つの物体、アバターを作り出し意識をリンクさせる技術。
今まででは成しえなかった身体能力や外見など、人々が抱えるコンプレックスをすべてをクリアできたVBCヘッドセットの発明は、世界を発狂させた。そんな技術革新を起こした開発社名がブレインソリューションテクノロジー、リンカの父の社名だった時は驚いた。
VBCヘッドセットとアバターは、お父さんが家族を省みれないまでに没頭して作り上げた未来なんだ、と感極まるものがあった。
だがこの頃には父との間ですごく距離ができてしまい、リンカは父に構ってもらいたいと思う気持ちすら自分でも分からなっていた時期になっていた。たまに二人きりの時間になっても父から話掛けてこない。リンカも自分から話しかける事はない。まるでお互いを空気のように扱ってしまっていた。VBCヘッドセット普及の辺りから父はすごく時間に余裕ができたようで家にいる事も多くなっていたのにも関わらずだ。
待ち望んだ環境が訪れた時、人はその想いを持ち続けていられないとどう対応していいか判らない。そんなリンカと父の関係を見かねて母はこのタイミングを逃さまいと三人でVBCヘッドセットを使って過ごす時間を考えてリンカや父親に色々と提案する。
技術に対するリテラシーは元々高い家族である。この頃には家族に多くを語らない父になっていたが、自分の心血を注ぎ込んだプロダクトである。VBCヘッドセットの使い方、アバター技術における人類の可能性に話が移っていくと饒舌になっていった。
次第に父親だけがしゃべりだす場面が増えてくると、リンカと母親は軽くアイコンタクトをしながら、しょうがないなあ、なんて言葉には出さないが空気で伝わってしまうような朗らかな時間になっていった。そんな時間の過ごし方はリンカにとって子供の頃を思い出すような、幸せな時間だった。
そのうちに仮想世界AHの発表がされる。現実世界でアバターを作り出したVBCヘッドセットは本来であれば仮想現実の世界との相性がいい。AHとVBCヘッドセットとの提携は世界をまたもや熱狂させた。
だが、その熱狂もまた少しづつ歯車を狂わせていく。
現実世界に見切りをつけて離れていく人々が増えてくる。AHは生活ができてしまう。ファンタジーを軸とした世界だが経済圏もあり、そこに根を生やしていき現実世界に戻ってこないプレイヤーが増殖していった事態に政府は危機を覚えていった。
そんな状況に、もちろんVBCヘッドセットを開発したブレインソリューションテクノロジーの代表であるリンカの父が巻き込まれないわけがない。再び父は会社に入り浸るようになり家族との距離を取り始めた。
今度こそ終わりが見えない。そんな最中、突如として姿を消してしまった父。過度のストレスから逃げ出したのだと関係者は父を非難したが、父をずっと見てきたリンカはそんな誹謗中傷そのまま受け入れなかった。
何かあったに違いない、父は絶対に何かを投げ出すような人じゃない。
リンカはその想いに駆られた時、一目散にAHに自分の身を投じた。もし父が現実世界にいたら非難されていて何も申し出ないはずはない。だったらきっとAHで何かあったに違いないと。
そして父の失踪とリンカの想いが何かを紐付けるように現実世界とAHの世界が遮断される事件が起きる。
リンカはますます確信する。きっと何か不穏な動きがこのAHの世界で起きているのだと。
リンカの中で湧き上がる色々な想い。不安もある。父はAHにいないかもしれない。自分ももう現実世界に戻れないのかもしれない。街に飛び交う帰化プレイヤーという言葉。何も解決に進んでいない状況。そんな時に目の前に現れたのは、切り離され戻れないと思っていた現実世界からやってきたシキだった。
シキと一緒にいてリンカは何か父と似たような雰囲気を感じていた。
父は何かに没頭するとそればかり。でも頼りないから構ってあげたくなってしまう。そんなリンカの気持ちを汲み取ってか、たまに家族にも一生懸命時間を使ってくれる。これがまた本人は一生懸命で、全然出来てない姿が可笑しく愛おしい。
仕事では完璧人間。家では母がいなかったら何もできない。もちろん母が献身的に尽くしている事を当たり前だと思わない。だからリンカがまた小さかった時は時間が許す限り家族との時間を大事にしたのだと思う。
そんな父も仕事で自分の許容量を超えてくるといよいよライフワークバランスが崩れてきたのだ。
その流れをシキにも同じように感じてしまった。
次回も月曜日19時に投稿します。
今年も、または今年はお付き合いいただいた皆さんにありがとうです。
来年はもっと良くなって少しでも世界に没頭できる作品にしていけたらです。
良いお年を!!




