第二十四話
「や……、いや、いやだあああああぁあぁぁ!!」
「殺れ」
逃げる珠洲城花梨の背に向け、ただ一言だけ、言の葉を放つ。
血晶龍は従順にその言葉を受け止め、咆哮。
幾つもの血の結晶に串刺しにされた珠洲城花梨は、瞬きの間にその命を器から零した。
「ありがとう、戻れ」
血晶龍はただの血の結晶になる。
一言断ってから血の結晶を凝縮させ、巾着へ入れる。
途端、体から力が抜ける。
総大将に抱き竦められていなければ、倒れていただろう。
「無理したね」
「そ、だいしょ……」
俺の声量僅かな呟きを聞き取り、返事をする総大将。
「ごほーび、ください」
そう言って微かに笑えば、総大将はため息を吐いた。
それに対して首を傾げると、「なんでもない」とはぐらかされる。
近くのソファにゆっくりと寝かされた。
「少し眠って居なさい」
総大将の言葉に頷き、目を閉じる。
すると、脳裏に焼き付く忌まわしい記憶が甦る。
『逃げろ、雪紫!』
ナニカに立ち向かいながら、その背に隠した子供に叫ぶ男。
『師匠!』
男の背にしがみつき、泣きわめく子供。
『頼む! 若き命を、お前を死なす訳にはいかないんだ!』
ナニカは男の目前に迫っていた。
『嫌です師匠! 僕は、もう二度と!』
『行くんだ! 心配すんな。俺はそんな柔じゃねぇよ』
後ろ手で背中を押され、走る子供。
『弱い者を助けろ。裏切られた者を助け、心を癒せ。身に巣食っている化け物を力で押し込め。とにかく人を、生き物を救え! その方が、少しはマシだ。……なァに、俺が見守っていてやる。だから、安心して走れ! 光に向かって、走り続けろ! 俺が、嘗てそうしたように!』
子供は、雪紫は、振り返らず、返事をした。
ずっと後ろから聞こえてくる、師匠のうめき声や、地に伏せる音、命が消える音を、かき消すかのように。
場面が変わる。
『逃げなさい! 雪紫!』
『早く父上の下へ!』
人と交戦しながら子供を逃がす男女。
『母上! 父上!』
侍女に抱えられ、男女から遠ざかる子供。
その小さな手を必死に伸ばすが、届かない。
最後に見た光景。
それは、子供を雪紫と呼んでいた男女が、斬り殺される所だった。
「雪紫」
優しい声に引き寄せられるように、目が覚める。
「銀紫、様?」
「大丈夫かい? 魘されていたよ」
俺を心配する言葉。
それが、心に沁みて、思わず涙が零れる。
「……昔の、夢を見たんだね」
銀紫様の的を射た言葉に肩が揺れる。
「やっぱり。雪紫がこんなに弱くなるのは、昔の事が関係してるからね。……大丈夫。お前は今、此処にいるよ」
そう言って頭を撫でてくれる。
その手が、母上、父上、そして……、師匠の手に、酷く似ていた。




