二つ目の話
二つ目の話をしよう。誰かへの執着によって壊れてしまった友人の話だ。ああ、そうだよ。僕は人並み以上に、たくさんの人を殺してしまっている。
中学に上がって僕は、普通に過ごした。あれだけ問題を起こし、周囲を巻き込みながらも、平然と学校に通い続けた。大人から見れば立派に苦しみを乗り越えた少年。同い年からしたら、一種の化け物だったかもしれない。
(外面)の自殺は、少なくとも同級生たちに大きな波紋を広げた。何人かが転校し、学年からは一クラスが消えた。それでも僕は、何事もなかったかのように登校し、日々を過ごしていた。
そんな僕に、田村は執拗に話しかけてきた。
彼はただ近所に住んでいた幼馴染。田村の妹も交えて、家族ぐるみで遊んだこともある。そんな彼だけは執拗に関わってきた。彼は(外面)のことについてよく聞いてきた。僕が(外面)の遺体を見つけたことを、この地域の人間はみんな知っていた。
誰もが、この非日常的な事件の真相を知りたがり、誰もがその話をしたがった。けれど、その熱も、僕が平然と学校に現れ続けるうちに、ほとんど冷めていたはずだった。
「なんでって、みんな知っていることだが。それでも、何が彼女をそこまで追い詰めたのか、俺は気になる。お前は何か知っていないのか」
田村は愚直なまでに踏み込んでくる。
「何を知っているって、僕が知るはずないだろ」
「嘘をつけ、お前は彼女と一緒にクラス長をやっていたんだ。それにお前は人望があって、顔も良くて、そんなお前が何も知らないなんて、あるはずがないだろ」
「そんなに褒めても何も出ないぞ。逆に田村はどこまで知っているんだ。(外面)さんの何を知っているんだ?」
「何って。少なくとも、あの事件の後、親が家にいないことが多くなったのは聞いている。それから、彼女が(算数のできないやつ)を中心になっていじめていて、修学旅行では金銭問題まで起こしたって。彼女に限って、そんなことをするとは思えない。あんなに人の目を気にする完璧主義者が、わざわざそんなことをするのか。俺は誰かに嵌められたんだと思う。そうでなければ納得できない」
「何度もその話は聞いたよ。それで、どうしたら満足するんだ?」
「誰が、彼女に責任を押し付けたのか。それがわかったら、そいつを殴ってやりたい」
「暴力で納得するつもりか?僕はお前がそれで気が済むなら、それでいいが、」
「なら、」
僕は田村を恐れていた。そして、少し期待していた。
僕は餓鬼だ。理解している。だからこそ、誰かから怒られることを期待した。僕の犯した罪を知られて、真っ当に怒られて、憤慨されて、そしてあわよくば、殺されたいと願った。暴かれたいからこそ、口をつぐんだ。
心理士の言葉に従って、もう事件や事故に関わらない。そう朧気に考えていたこともあった。それなのに、田村が僕を事件へと引き戻してくれた。だから今度こそ、田村に僕の罪を暴いてほしかった。そして、できることなら、僕を殺してほしかった。
田村は、同世代の中ではかなり思慮深いほうなのだろう。田村は外面さんが死んでからは、他人が気を悪くしない程度に、常に彼女について考えていた。彼の遠い目を見れば明らかだ。しかし、例の修学旅行の事件に関わった者のほとんどが、同じ学校に進級していない。
だから、田村は「たられば」を考えては、その可能性を突き止めようと、この中学に残る唯一の関係者となった僕に詰めてくる。
「やっぱり、どう考えても(外面)さんがお金を取ることのメリットがない。あの二日目の夜のタイミングでとる必要も、そのあと、立て替えているのも筋が通らない。」
「軽犯罪を他人の迷惑にならない程度にやりたかったんじゃないか?よくあるだろ。お金持ちの令嬢が、コンビニで十円菓子を万引きするのと同じように。修学旅行で舞い上がったんじゃないか。」
「おい、(外面)さんがそんな人だったと思うのか。故人に失礼だろ。」
「君こそいい加減にしろよ。いつまでも(外面)さん(外面)さん。うるさいよ。」
「じゃあ、何で彼女は死んだんだ。お前は知ってるよな。」
「ああ、首を切って死んだよ」
「違うそうじゃない」
「じゃあ何をもって、何を考えて僕に聞いてるんだ」
「お前だけが、明らかに異質だ。」
「異質であることが罪になるのか、その君のくだらない情操の当て馬にもならんだろ。お前は、ただ好きな人間が、罵られながら死んだのが、納得できない。ただそれだけで、そんな風に無駄な時間を過ごしているんだろ。いい加減、有意義に過ごせよ。馬鹿が。」
「じゃぁ僕はどうしたら良いんだ。明らかにおかしいだろ、あんなに真面目で努力家が罵られるようなことをして、死んでしまうなんて。僕は信じない。誰かが、」
「誰かが追い詰めた?自殺補助ならまだしも、勝手に死んだんだから、誰のせいでもない。自分の認識を相手に強要するな。」
「なら、お前は、あの人が本当に、お金を盗んで人をいじめたと思うのか。」
「僕は、何も思ってない。ただクラス崩壊して、自殺した人や精神が壊れた人が出ただけ。そこから一個人の僕が苛まれる謂れはない。」
「おまえ、やっぱおかしいわ。ふざけんなよ。」
彼は、頭を抱えていた。彼の言いたいことは分かる。外面さんの立場と印象があまりにも、このいじめの首謀者としての委員長+真面目で裏では腹黒という、ステレオタイプに乗りやすい。そして僕はたしかに、その一点と僕の発言で彼女に責任を押し付けた。
彼女を知る人なら、その評価と実像の落差に憤りを覚えるだろうに。田村以外の人間の精神は擦り切れ、既にこの事件は過去の隠すべき欠点として、忘れようとしている。
あの時、一人でも彼女の味方をすれば、彼女が自ら命を絶つことはなかったかもしれない。
例えば。
僕が、
僕が、
僕が。
犯人と糾弾された彼女により添えたら。
僕には、田村にはない、たくさんの選択肢と可能性が見えて、それらのうちの、運命に選ばれた選択がこれであって、僕は関係ない。頭がぐるぐるする。
そうだ。彼女を助けられたかもしれない。けれど、助けなかった。助けを求められていたことを知りながら、手を伸ばさなかった。
それでも、僕は今も生きている。
なら、田村を消せば、僕は楽になるのだろうか。
そんな考えが浮かんだ。
田村が彼女のことを忘れずにいる限り、僕はあの事件から逃げられない。田村が真相を追い続ける限り、僕は罪を暴かれる可能性を捨てきれない。
だったら、田村がいなくなればいい。
そうすれば、僕はまた何事もなかったかのように過ごせるのかもしれない。
もちろん、そんなことを本気で考えていたわけではない。少なくとも、その時の僕はそう思っていた。
中学二年の夏、田村は相変わらず人気者だった。体格がよく、誰にでも親切で、困っている人間を見過ごせない。そういうところが、彼の人望につながっていたのだろう。
彼に好意を寄せる女子も多かった。告白されることも珍しくなかったが、田村はそのたびに丁寧に断っていた。
「そういえば、Bさんに告白されたんだって?」
僕が尋ねると、田村は少し困ったように笑った。
「ああ。まあ、断るつもりだよ」
「もったいないな。せっかく好かれているんだから、付き合ってみてもいいんじゃないか?」
「そういうものじゃないだろ」
田村はそれ以上、何も言わなかった。
彼が今でも(外面)のことを引きずっているのは知っていた。けれど、周囲の人間はそうは見ていなかったらしい。田村が誰かを好きなのではないか。そんな噂まで流れていた。
「いつまでも昔のことにこだわっていると、面倒なことになるぞ」
僕は忠告するように言った。
「お前がそれを言うのか?」
田村は僕を見た。
「また誰かを壊すつもりか?」
その言葉に、僕は少しだけ身構えた。
田村も馬鹿じゃない。昨年度だけでも、僕は事件に巻き込まれるたび、関係者を貶めることで自分を守ってきた。そのどれかに、田村は気づいていたのだろう。彼は、あの事件にも僕が関わっていると確信しているらしい。
やっとここまで来た。
あとはどうするべきか。この事件に、証拠があればいいのに。
クラスメイトの佐原は、一軍女子の中心にいる女子だった。加藤、砂道、溝野、角間、門田らがそのグループを構成している。そして佐原は、田村に恋をしていた。
さらに、準一軍というべきか、クラスメイトの宮司も田村に好意を抱いており、同軍、佐々木、野村、木崎、川上らも田村に恋している。
田村を中心に、いくつもの好意が集まっている。集団で推し活でもしているような有様だった。
気づけば、僕にとっては最高の環境ができあがっていたのかもしれない。
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「鳥居、やっぱり田村は人気なのか?」
「なに、嫉妬?」
「いや別に、なんとなく気になってね。なんか、うちのクラスはドロドロしてそうだし」
「そりゃ、佐原があれだけ好き好き言っているのに、宮司さんたちは、一斉告白とか考えているらしいし、荒れるよね~」
「自称二軍女子の鳥居はどう動く」
「わたし?どうしようかな~、って何もしないよ。君は良い人だけど、時々底が見えんよ。それより、君は何を考えているの?」
「別に~、それより、予習を見せてよ~」
僕は観測者として、鳥居を信用していた。彼女は周囲をよく見ているし、人間関係の変化にも敏感だった。
だからこそ、最近は邪魔にも感じていた。
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「●●は鳥居のことが好きなの?いつも一緒にいるけど、」
「急にどうしたの、加藤さん?」
「いや、あの、」
「それよりも、気になる事があるんだけど、佐原さんは田村にいつ告白するの?」
「何でそんなことが気になるの」
「いや、噂がほんとなら、面白そうだなぁと」
「噂ね、ほんとなら、無茶苦茶よね、佐原も気が立っているからやめて欲しいよ」
「そうだよね。他の人にも聞いてみようかな」
加藤は一軍の中、砂道、溝野、角間、門田といった面々に比べて、口の軽い馬鹿な女だと僕は見ていた。少し話を振れば、何かしら情報を引き出せるかもしれない。
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「田村、お前の事、門田さん好きらしいぞ。」
「何だよ、急に、」
「いや、心の準備をさせてやろうと思ってな。優しさだよ」
田村は嫌な顔をする。証拠より言質。あとは混乱を起こすだけ。僕は木崎に連絡した。
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・集団でやるなら、手紙にした方が良くね?
・それあり。
・いつやる。
・次の木曜日のつもりだけど
・なる
・(草というスタンプが送られる)
・ガチ恋ちゃんをもっといじるのか?
・やっぱり楽しくないとね。
・本命でもないのにやるとか頭おかしいわw
・でも、こういうのがタイプなんでしょ。私だってやればできるんだから。
・そう、期待してるわ。
・あ、あと鳥居も巻き込んでおいて、
・(了解と親指のスタンプが送られる)
木崎は、こんな僕の境遇を見て、僕に好意を抱いていた。だからこそ、火付け役を頼んでも、喜んで引き受けてくれる。
本当なら、こんなことを僕のためにしようとしている木崎を自分が罰するべきなのだろう。けれど、僕は気にしなかった。
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常人ばかりが世の中に蔓延るわけでもない。それでも奇人は存在するし、やはり狂人も存在する。人間のそうした性質を見抜くために、僕は周囲を観察してきた。あとは、口で人を動かすだけだ。
田村を中心に。いや、田村を利用して、いじめを起こす。
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某日の木曜日。
学校中の掲示板に匿名のラブレターが貼られ、田村の持ち物にも実名入りのものが投げ込まれた。その数、合わせて五十通。さすがにやりすぎだと判断されたのか、生徒指導が入った。
最初に捕まったのは、佐原のグループと鳥居だった。
鳥居は何が何だか分からないまま生徒指導室に呼び出され、八通の手紙を掲示板に貼ったとして叱責された。一方の佐原は、取り乱すこともなく、落ち着いた様子だった。宮司も関わっていると、教師に告げ口した者もいたらしい。
それから、毎週木曜日は田村にラブレターが届く、奇妙な日になった。
そのたびに、女子生徒が何人も生徒指導室へ連れていかれた。誰が呼び出されるかは一定せず、気の弱い生徒は追及に耐えきれず、自分がやったと認めてしまうこともあった。そうして彼女たちは、教師に叱られた。
月末になる頃には、クラスのカーストにも変化が生じていた。
最初の犠牲者となった鳥居は不登校になった。佐原のグループは互いに疑い合うようになり、やがて解散した。代わって一軍の中心に立ったのは、準一軍にいた宮司だった。しかし、相次ぐラブレター騒動の責任は、いつの間にか宮司に押しつけられていた。彼女はクラスで孤立した。
そして、三百通以上ものラブレターを受け取ることになった田村も、木曜日には学校を休むようになった。
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・ラブレターはずっと一人で書いていたの?
・いや、筆跡でばれたくないから、ずっと佐々木に書かせてた。
・それじゃぁ、ばれることない。
・そんなことないよ~w同軍はさぁ。ガチ恋勢というか、ラブレターはあればあるほど、男子は興奮するって思いこんでてさぁ~。吹っ掛けたのは私だけど、実質、同軍が佐々木を中心に書かせてたよね。可哀想に、佐々木ちゃん一生分のラブレター書かされたと思うw。宮司もいい隠れ蓑になってくれたよ。
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僕はこのやり取りを宮司・佐原に送った。
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その後の話。秋になり、久しぶりに田村が来た。休み時間、僕たちは渡り廊下に自習用として置かれた長机に腰かけて話した。
「どこまで、お前は関わっていた」
「何に関わる?お前の方が関わっているだろ?首尾はどうだ。眠れているのか?」
田村は明らかに弱っていた。背は伸びているが体重は変わっていないように見えた。
「お前が、木崎さんにアドバイスをしていたことは知ってる。お前が効率よく指示していたんじゃないのか?」
「たしかに、アドバイスはしたかもしれない。でも、別に相談事に答えただけだろ。それのどこが悪い?」
「お前はそうやって人を追い詰めて、何がしたいんだ」
田村の目には、疲弊しきった中でも、なんとか答えを出そうとする意志が残っていた。
「何がしたいんだろうな。僕は別に追い詰めようとは思ってない。気づいたらそうなってしまっているだけで」
「もう訳が分からない。お前は何なんだ。」
「さぁね」
僕はその場を去った。
それ以来、田村は二度と話しかけてこなかった。僕は急に寂しくなった。そして、僕はただの極限のカマチョであることを自覚した。都合の良い相手を失った僕は?
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・鳥居、元気か?
・生きてはいるよ、どうしたの急に?
・いや、元気かなと思って、学校はもう来ないのか?
・君も分かっているでしょ、あんな騒ぎの中の学校なんて行けるわけない。
・田村が憎いか?
・いや、別に誰も憎んでない。あんなヤバい状態で認めてしまった自分が一番憎い。
・三年生になったらどうするんだ?
・転校するか、諦めていくか、まだ何とも、
・クラスの状態分かるなら、教えてよ●●。
・まぁ何だろうね、学級崩壊はしてるよね、男子はほぼ来てるけど。
・(草というスタンプが連投された。)
・結局、君は何がしたかったの?君だよね。流石にみんなうすうす、理解してなくても分かってるよ。君がこのいじめの首謀者
・君から見て僕はどう見える。
・最低以外の何者でもなくない? どうせ、田村に見限られて寂しくなって、最初に巻き込んだ私にテキトーに声をかけてるんでしょ?
・すごいね、何でそこまでわかったの。すごいよ
・女の勘。流石にあのタイミングで私が標的になるのは謎だけど。
・なら、なんで僕がこんなことしたのかも、分かるのかい?
・しらね。田村への嫉妬?
・残念だよ。
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・木崎元気か~
・死ね●●
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・同軍。
(しばらく置いたが既読スルー)
・佐々木の住所○○、平日は学校サボって○○に行ってる。
・田村の住所○○、木曜日は河原で○○してる。
・まぁ強く生きろよ
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何がしたいわけでも、どうにかしたい訳でも。
違うな。
見ていたいのだ。人が変わって終わってしまうのを。
ここの冬は微かに雪が積もる。
なんとなくだ。なんとなく木曜日に、田村の居場所を佐々木に送った。あいつはどうせ、いつもの端の近くでぼんやり考えている。
ふと、外面が死んだ日を思い出す。あいつが死んだ日も気温が違えば雪が降っていたかもしれない。そんなことを考えてしまう。
やはり今日は寒いな。寒かったから、もっと寒い喜劇を見たくなったのかもしれない。汚れたキャンバスを漂うように思考がシフトしていく。
同日の放課後、僕は校長室に呼び出された。
そこには田村と校長、外部の人、そして付き添ってきた主任が席に着いた。
「単刀直入に聞く。君が指示したのか、●●」
「何のことですか、校長先生」
校長は手を少し掲げて、外部の人を促す。
「今日の昼頃、近くの河川敷で、同軍が佐々木をカッターナイフで襲った。たまたま通った、この田村が制止に入ったが、そのまま同軍は自分の首を切った。」
外部の人間は言葉を濁すことなく告げた。
「田村くんはそこで救急車を呼んだが、首を切った同軍さんは意識不明、佐々木さんも重体。惨劇だよ。」
主任の方を覗いた。主任の顔は青ざめている。
「加害者は明らかになっている。動機についても、君たちの学級で起きていたことを整理すれば、ある程度は推測できる。だが、なぜ二人はあの場所にいた? どうして、あそこで事件が起きたんだ?」
外部の人間は、そこで一度言葉を切った。
「現場に居合わせた田村くんにも、事情を聞いたんだ。誰がこんなことをしたのか、とね」
このとき、僕は初めて田村と目が合った。分からない。彼の眼には疲弊、憔悴、動悸、あと恨み。寂れた冬の田畑で燻る火種のような、表層からは枯れて見えない、ドロドロとした熱が、僕を感じさせた。
「僕は●●が関わっていると思う。君はいつも、内側にいて、外にいる。そうだろ。」
感情を押し殺して確信を持ったような彼の声は僕の耳に届く。僕もこれに応えないといけない。
口を開けた。
「僕は、なんとなく、佐々木さんに田村がいつも木曜日に何をしているのかを伝えました。そうしたら、彼女は今までのいじめを認めて、田村と向き合うことができるんじゃないかと思ったんです。佐々木さんは、同軍さんに脅されて田村をいじめていました。その贖罪の場を作るきっかけになればいいと思って、今朝、なんとなく連絡しただけです」
「佐々木さんが現場にいた理由は分かりました。同軍は、たまたまあの場にいて、あのような行動に出たという事ですか?」
「知りませんよ。そんなこと」
「おい、●●。全部話せよ。お前だろ。お前が何か言いふらして、殺させたんだろ。おい!」
膝の上に拳が震えている。その震えが空気を張り詰めさせていった。
「たしかに、秋ごろ、同軍に佐々木と田村が今どうしてるのか。教えたことはあります。でも、それだけですよ。僕は何も悪くない。僕は、強いて言えば、関わっていただけだ」
田村は立ち上がり、僕の側頭部を蹴った。
意識が混濁する中、田村が罵声をあげながら取り押さえられるのが見えた。僕はそのまま、担架で運ばれた。
僕は転校という事になった。当然のことなのかもしれない。
あの事件での死者はいなかった。学級の全員がカウンセリングを受け、転校を勧められ、訳も分からないまま、このクラスに三学期は来なかった。
転校先は、身元がばれないようにと、親戚の住んでいる他県に決まった。僕の家族は、僕の蛮行を知らない。知らないはずなのに、うすうす気味悪がっているのは分かった。一緒に引っ越してきてはくれなかった。それだけで十分だった。
三学期からの転入は目立つから避けたい。そうお願いしたら、双校からの定期試験を受けて一定以上の成績であれば出席は免除という形で許された。その間に僕は伯父との距離を詰めた。
新しい環境。
この自由で不自由な環境は僕の毒牙を隠すにはとても良かった。僕が他人を貶めて手に入れたのは、家族からの自由と新しい場所であった。
いつか、君にも話したかもしれないけど、人間の脳のスペックの総量はみんな等しいと考える。だから、感情や倫理観の欠如している僕は、社会的スコアは高いのだと。
話にオチなんてない。
二つ目の話はおしまい。ここから話は少し飛ぶね。僕はこの無駄な知性で大学進学まで決めて君に会うことになる。




